贅沢は最大の味方だ
第8話「隠し遺産は押し入れの中!?」
岡根財団・司令室。
赤い警報が鳴り響く。
ピコン! ピコン!
スタッフが叫ぶ。
「隠し遺産を発見しました!」
AI岡根が首をかしげる。
「どこで?」
「岡根邸です!」
「そう。」
「押し入れです!」
「押し入れ!?」
映像が映し出される。
巨大な屋敷。
地下五階。
さらに秘密通路。
その奥にある、古びた押し入れ。
スタッフが戸を開ける。
ギィィ……
中には――
段ボール箱。
マジックで書かれている。
「あとで見る」
スタッフ全員。
「あるある!」
箱を開ける。
ガムテープ。
輪ゴム。
使いかけの乾電池。
説明書だけ残った家電。
スタッフが困惑する。
「世界一のお金持ちでもこれなんですね。」
岡根は照れ笑いした。
「捨てられなかった。」
「親近感がすごい。」
さらに奥から、もう一つ箱が出てきた。
「超大事」
スタッフが息をのむ。
「来た……!」
岡根も真剣な表情。
「さすがに覚えている。」
箱を開ける。
中身は……
ビニール袋。
さらにビニール袋。
さらに箱。
さらに封筒。
さらに紙。
スタッフ。
「梱包だけで十分です!」
ようやく最後の包みを開ける。
コロン。
一本の鍵。
「何の鍵ですか?」
岡根。
「知らん。」
「知らんのかーい!」
その頃。
修は今日も寝ていた。
夢の中。
岡根が出てくる。
「佐々木君。」
「はい。」
「私の鍵を探してくれ。」
「嫌です。」
「即答!?」
「夢の中まで働きたくありません。」
岡根は感心した。
「徹底してるな。」
一方。
プロ無職・田村ゴロウ。
ニュースを見ながら、お茶を飲んでいた。
「鍵か……。」
ふと立ち上がる。
物置へ行く。
ガサゴソ。
「おっ。」
古い缶を開ける。
鍵が百本。
近所の人が聞く。
「なんですか、それ。」
「拾った。」
「なんで取っとくんです!」
「いつか役に立つと思って。」
「岡根さんと同じタイプだ!」
その夜。
財団では大捜索が始まった。
「この鍵は何だ!」
「世界中の金庫を調べろ!」
「銀行!」
「別荘!」
「宇宙ステーション!」
「宇宙まであるんですか!」
結果。
全部違った。
スタッフが机に突っ伏す。
「もう分かりません……。」
そのとき。
受付嬢が小さく言った。
「……これ。」
「どうした?」
「鍵に、シールが貼ってあります。」
全員が顔を寄せる。
小さく書いてあった。
『物置』
スタッフ。
「物置ぃぃぃ!?」
岡根も叫ぶ。
「そんな分かりやすい場所だったの!?」
急いで屋敷の物置へ。
ガチャ。
ギィ……
中にあったのは。
古い自転車。
釣り竿。
学生服。
そして、一冊のアルバム。
岡根の表情が変わる。
「……あ。」
スタッフがページをめくる。
そこには若き日の岡根。
妻。
幼い息子。
海。
運動会。
誕生日。
笑顔。
その一枚一枚に、付箋が貼ってある。
『この日は仕事で行けなかった』
『あとで一緒に遊ぶ予定だった』
『キャンセルした』
部屋が静まり返る。
岡根は苦笑いした。
「……仕事ばかりで、思い出は写真の中にしか残っていなかったな。」
誰も何も言えない。
しかし次のページを開いた瞬間――
スタッフ全員が吹き出した。
そこには、幼い息子がマジックで岡根の顔に落書きをしていた。
ヒゲ。
角。
「世界一のケチ」と大きく書かれている。
岡根は額を押さえた。
「これを消そうと思って、三十年間しまい込んでいたんだった……。」
スタッフは大爆笑。
「理由が小さい!」
「世界一の大富豪が、落書きショックで封印!」
岡根もつられて笑い始める。
「いやぁ、今見ると……傑作だな。」
その笑い声が響く中、AIの画面に新しい評価項目が追加された。
◎『笑って思い出せる過去は、それだけで贅沢』
そしてその瞬間、財団の外で一台の軽トラックが止まった。
降りてきたのは、作業着姿の中年男性。
受付でこう言った。
「応募じゃありません。」
スタッフが首をかしげる。
「では、ご用件は?」
男は封筒を差し出した。
「岡根さんに、三十年前に貸した五百円を返してもらいに来ました。」
AI岡根の笑顔が、一瞬で固まった。
「……え、まだ返してなかった?」
第9話へ続く。




