贅沢、そして貧乏へ
第6話「一番高価なお父さん」
岡根財団・特別審査室。
ランドセル姿の少女は、元気よく頭を下げた。
「こんにちは!」
スタッフも思わず笑顔になる。
「こんにちは。」
「名前は?」
「星野ひまり! 九歳!」
「職業は?」
「小学三年生!」
「それは知ってる!」
AI岡根が優しく尋ねる。
「君の贅沢は?」
ひまりは胸を張った。
「お父さんを一日貸し切りました!」
スタッフ全員。
「言い方!」
「説明してくれるかな。」
「うん!」
ひまりはノートを広げた。
そこにはクレヨンで描かれた一日の予定。
朝 ホットケーキ
昼 公園
午後 鬼ごっこ
夕方 ゲーム
夜 一緒に寝る
岡根は静かに見つめる。
「これだけ?」
「うん!」
「お金は?」
「使ってない!」
「お父さんは?」
「会社休んだ!」
スタッフがメモを止めた。
「有給ですか?」
「うん!」
「何年ぶり?」
「お父さん、『覚えてない』って!」
審査室に沈黙が落ちる。
そのとき、後ろの席から手が挙がる。
「異議あり!」
世界一の浪費家・神崎レオンだった。
「有給は制度です。」
「だから?」
「贅沢ではありません。」
ひまりは首をかしげる。
「でもね。」
「?」
「お父さん、ずっと『仕事があるから』って遊べなかったの。」
「……。」
「昨日だけ、ずっと笑ってた。」
神崎は言葉を失う。
その頃。
修はスーパーにいた。
「タイムセール!」
おばちゃん軍団が突撃する。
修も巻き込まれる。
「すみません!」
「キャベツ取って!」
「はい!」
「卵お願い!」
「はい!」
「若い人ありがとね!」
十分後。
修のカゴ。
キャベツ三つ。
ネギ四本。
豆腐五丁。
「……頼まれた分しか買ってない。」
おばちゃんたちが拍手した。
「いい人だ!」
翌日。
ニュース。
『贅沢候補、スーパーで戦力になる』
修は頭を抱えた。
「なんでニュースになるんだよ……。」
財団では、スタッフが候補者のデータを整理していた。
「佐々木修。」
「はい。」
「寝る。」
「はい。」
「頼まれると断れない。」
「はい。」
「特技、昼寝。」
「はい。」
「主人公として地味すぎません?」
岡根は笑う。
「だから面白い。」
その夜。
岡根は一人、昔の写真を見ていた。
若い頃の自分。
隣には幼い息子。
写真はそこで終わっている。
スタッフが声をかける。
「岡根様?」
「……私はな。」
「はい。」
「息子と一日遊んだ記憶がない。」
珍しく、誰もツッコミを入れなかった。
数秒後。
岡根はいつもの調子に戻る。
「だから今さら反省しても遅い!」
スタッフ。
「自分で締めないでください!」
その瞬間、警報が鳴り響いた。
ピンポンパンポーン!
「緊急応募者が到着しました!」
受付から無線が入る。
「どうしました?」
「応募者が……」
「うん。」
「宇宙から来ました。」
「……はい?」
スタッフ全員が固まる。
自動ドアがゆっくり開く。
銀色のスーツを着た人物が、堂々と歩いてくる。
「地球のみなさん、こんにちは。」
スタッフが震える声で聞く。
「ど、どちら様ですか……?」
その人物は名刺を差し出した。
『銀河連邦・観光局 地球支部開設準備室』
「史上最高の贅沢を知っているので、応募に来ました。」
AI岡根はニヤリと笑う。
「ようやく、この大会らしい参加者が来たな。」
第7話へ続く。




