浪費なのか贅沢なのかそれが問題だ
第5話「世界一の浪費家」
審査室。
白いタキシードの青年は、レシートの束をテーブルに積み上げた。
ドサッ。
ドサドサドサッ。
スタッフが数える。
「一枚…二枚…」
「もういい!」
青年は爽やかに微笑む。
「一兆円分です。」
「レシートで机が見えない!」
「名前は?」
「神崎レオン、二十九歳。」
「職業は?」
「浪費家です。」
「ちゃんと仕事してください!」
「仕事です。」
「え?」
「お金を使う依頼を受けています。」
「そんな仕事あるの!?」
AI岡根がレシートを見る。
「高級車、豪華客船、人工島…。」
「はい。」
「宇宙ホテル…。」
「泊まりました。」
「全部一日?」
「午前中です。」
「午前中!?」
岡根は最後の一枚を手に取る。
『駄菓子屋 うまい棒 15円』
シーン……
「……これは?」
神崎は真顔で答えた。
「最後に食べたくなりました。」
スタッフ全員。
「かわいい。」
岡根は聞く。
「一番満足した買い物は?」
神崎は迷わず答えた。
「うまい棒です。」
「一兆円使ったあとに!?」
「はい。」
「他は全部仕事なので。」
スタッフ全員が椅子から転げ落ちた。
その頃。
修は公園で昼寝。
ベンチ。
鳥。
青空。
平和。
すると、テレビ局が二十社。
「佐々木さん!」
「最高の贅沢とは!」
「どう思いますか!」
修は目を開けて一言。
「静かにしてください。」
全局同時にマイクを下げた。
翌日。
ネットニュース。
『史上最強の塩対応』
コメント欄。
「寝かせてやれ。」
「気持ち分かる。」
「マスコミ負けてて草。」
一方、プロ無職・田村ゴロウ。
近所の子どもたちと将棋をしていた。
「王手。」
「また負けたー!」
「アイス食べるか。」
財団スタッフが隠れて観察している。
「働いてないのに、ずっと誰かの相手してますね。」
岡根は静かにつぶやく。
「暇を、人に分けている。」
スタッフ。
「深いようで深くない!」
その夜。
岡根は候補者ファイルを眺めていた。
◎ 佐々木修
○ 田村ゴロウ
○ 九条レイカ
△ 神崎レオン
スタッフが驚く。
「一兆円使った人が△なんですか?」
岡根は笑う。
「彼は浪費家ではない。」
「え?」
「仕事人だ。」
「仕事として金を使った。」
「つまり…」
「本人にとっては日常だ。」
「贅沢じゃない。」
神崎レオンは廊下でその会話を聞いていた。
「……なるほど。」
彼は初めて悔しそうな顔を見せた。
「俺、本気で遊んだことないのか。」
その瞬間。
財団の玄関が勢いよく開いた。
「すみませーん!」
ランドセルを背負った少女が飛び込んでくる。
スタッフが慌てる。
「ここは子どもだけでは…」
少女は応募用紙を差し出した。
「史上最高の贅沢、してきました!」
岡根が興味深そうに尋ねる。
「いくら使った?」
少女は首を横に振る。
「お金は使ってません!」
「じゃあ、何をした?」
少女は満面の笑みで答えた。
「今日ね、お父さんがお休みだったから、一日中いっしょに遊んでもらった!」
審査室が静まり返る。
そして岡根は、思わず額に手を当てて笑った。
「……これはまた、とんでもない挑戦者が現れたな。」
第6話へ続く。




