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史上最高の贅沢  作者: 諏訪貴信


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贅沢すること火の車

第11話「熊より怖いカレー当番」


山奥・キャンプ場。


ガサッ。


ガサガサッ。


全員が息を止める。


修は小声で言った。


「……来る。」


ガルムが宇宙製スキャナーを取り出す。


「生命反応を確認。」


スタッフが青ざめる。


「本当に熊だ!」


ひまりのお父さんが娘をかばう。


「大丈夫だから。」


ひまり。


「うん。」


プロ無職・ゴロウはのんびりお茶を飲んでいる。


「騒がしいのう。」


「いや騒ぎますよ!」


茂みが揺れる。


ガサッ!


全員が身構える。


飛び出してきたのは……


一匹の犬だった。


首輪には札。


『熊太郎』


スタッフ。


「犬かーい!」


飼い主のおじいさんが走ってくる。


「熊太郎ー!」


修はその場にへたり込んだ。


「寿命縮んだ……。」


岡根は大笑い。


「これだから名前は紛らわしい。」


安心したのも束の間。


スタッフが叫ぶ。


「大変です!」


「今度は何!?」


「カレー担当を決めてません!」


全員。


「そっち!?」


スタッフがホワイトボードを持ってくる。


本日の係


・火起こし


・野菜切り


・米炊き


・皿洗い


・カレー係


岡根が宣言する。


「係はジャンケンで決める。」


修が小さくつぶやく。


「一番運が試される。」


最初の勝者。


プロ無職。


「火起こし。」


「得意じゃ。」


「さすが。」


二人目。


ガルム。


「米炊き。」


「宇宙では炊飯器がありません。」


「逆に不安!」


三人目。


ひまり。


「野菜切る!」


父親。


「猫の手だよ。」


「知ってるー!」


最後まで残ったのは……


修。


神崎レオン。


スタッフ。


三人。


岡根がニヤリ。


「カレー係だ。」


神崎が胸を張る。


「最高級スパイスを持ってきました。」


修。


「却下。」


「早い!」


「普通のカレーでいい。」


神崎。


「トリュフは?」


「いらない。」


「サフランは?」


「いらない。」


「金粉は?」


「食べにくい。」


神崎は膝をついた。


「普通って難しい……。」


調理開始。


ゴロウは薪を割る。


ガルムは飯ごうを見つめる。


「地球文明……奥深い。」


ひまりはニンジンを星形に切っている。


修は大鍋をかき混ぜる。


すると。


神崎が恐る恐る聞く。


「……牛肉。」


「うん。」


「少しだけ入れていい?」


修は笑う。


「少しだけ。」


神崎も笑った。


「分かった。」


一時間後。


完成。


カレーの香りがキャンプ場に広がる。


全員で手を合わせる。


「いただきます!」


一口。


シーン……


スタッフが目を見開く。


「うまい!」


ひまり。


「おかわり!」


ガルム。


「宇宙に持ち帰りたい!」


ゴロウ。


「三杯目。」


神崎。


「……。」


修が聞く。


「どう?」


神崎は静かに笑った。


「一兆円の料理より、うまい。」


岡根は腕を組みながら満足そうにうなずく。


「高い肉ではなく、一緒に作った時間が隠し味だったか。」


食後。


焚き火を囲んで座る一同。


誰もスマホを見ていない。


誰も仕事の話をしない。


ただ火を見つめている。


修がぽつりと言う。


「こういう時間、久しぶりだな。」


ガルムもうなずく。


「宇宙では、炎を見る文化がありません。」


ゴロウは笑う。


「火は、黙ってても話し相手になってくれる。」


ひまりは眠そうに父親にもたれかかった。


父親はそのまま娘を抱き寄せる。


岡根はその光景を見つめ、少しだけ目を細めた。


「……これを買おうとして、私は一生買えなかった。」


その一言に、誰もツッコミを入れなかった。


しかし次の瞬間。


バキッ!


焚き火の横で、ガルムが飯ごうを握りつぶしてしまった。


「すみません。」


「地球製は少し脆かったです。」


スタッフ全員。


「握力が宇宙規模!」


ひまりは大笑い。


修も笑う。


岡根も声を上げて笑った。


こうしてキャンプ初日の夜は、更けていく。


だが翌朝、一同は知ることになる。


本当の試練は「キャンプ」ではなく、「朝食当番」だったことを――。


第12話「プロ無職、伝説の味噌汁を作る」へ続く。

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