同じ卓
春が過ぎ、
ヴァルディア騎士学校にも
少しずつ日常が根付き始めていた。
ユーリ達が入学してから一ヶ月。
放課後の食堂にはいつもの四班のメンバーが集まっていた。
「ねぇ、知ってる?なんか、学校の制度変わるらしいよ!みんなが噂してる!」
パンを食べながらリズが言う
これにアルノーが
「ああ、今まで戦場の実地訓練は二年からだったが、今年から一年も対象になるとかだったな。」
アイクが顎に手を当てながら
「……ヴァルディアと隣接してる国、グランゼルト公国が戦争の準備を進めている。という噂が出ているみたいだね。実際、国境沿いの騎士団が、すでに何度か衝突してるらしい。これがきっかけで、ヴァルディアも準備を進めているとかなんとか。」
「……不穏……。」
ノアがそう言うと
「戦争って突然だよね〜。」
ユーリが軽い調子で返した。
すると食堂に赤い髪を靡かせ、
ユーリに近づく影があった。
フレイヤ・ルーンだった。
「よっ!ユーリ、あたしも混ぜて!」
「いいよ〜。こっち空いてる〜。」
ユーリが軽く応じる。
四班の集まりにフレイヤが合流した。
フレイヤは
「昨日も、訓練場で暴れてたんだって〜?」
ユーリにそう聞くと
「まあね〜。最近ルシエラが誘ってくれんの〜。」
そう答える。
この様子にリズが
「え、二人ともいたの間に仲良くなったの!?」
そう聞くとユーリが
「合同演習の時、ちょっとね〜。」
「そうそう。班長同士で話す機会も多くてね〜!」
クロードとミハイルの姿が見えた瞬間、
周囲の生徒達がざわつく。
無視を貫くクロードにミハイルが話しかけている二人の様子があった。その二人にフレイヤが
「おーい、二人とも、こっちおいで!」
フレイヤが誘った。
これに四班のメンバーは
「おいおい!まじか!」
「まさか、くる!?本当に!?」
「……すごい席……。」
ミハイルは笑顔を浮かべながら表情を変えずにこちらを見て、固まっていたクロードの背中を押しながら歩いてきた。
「やあ。ご一緒させてもらうよ。」
「……。」
ミハイルがあどけない笑顔を浮かべながら座り、クロードが硬い表情のまま座る。
この様子に四班のメンバーは
「やばい!やばい!やばい!あの席だけにしよ!」
「おう!席離せ!」
「あはは……。」
面白がって班長のみの席を作り出した。
一年の班長のみが集まる異様な様子に四班のメンバーだけでなく、周囲の視線も自然と集まる。
「おい、あの席やべぇ!」
「すげえ!」
など囁く声もきこえる。
そんな声を気にもせず、ミハイルが
「いやぁ、クロード君が僕を無視するんだ。僕何かしたかなぁ?」
揶揄うように聞くとクロードが
「……お前と関わると碌なことにならん。」
そう言うとフレイヤが
「ん?なんかあったん?」
「ん〜、あれじゃない?なんか、この前の演習の時、ミハイルの作った落とし穴にハマってたやつ〜。あのクロードほんとに」
ユーリが笑いながら言いかける前に
「黙れ。ハマっていない。」
クロードが遮る。だがユーリが
「いやいや、あれは完全に」
さらに言いかけたユーリにクロード殺意を含んだ目でユーリを睨み
「ハマってなど、いない。」
この睨みにユーリとフレイヤが爆笑する。
するとミハイルが半笑いで
「いや、申し訳ない。機嫌を直してください。
その後あなたの班が勝ったじゃないですか。」
「……ふん。貴様自体は参加しなかったがな。」
クロードがそう返す。
するとフレイヤも続いて
「本当だよ!前の模擬戦も不参加で簡単に勝っちゃったし、なんで出ないの?」
ミハイルに聞くと
「あはは、僕が皆さんに腕っぷしで勝てるわけないじゃないですか。僕の得意なことは戦略。戦略を立てたのは僕です。勝った皆さんは僕の知略を上回ったんです。」
そう答える。が、誰もこの言葉を鵜呑みにしなかった。
「いや〜、ダウト〜。」
「嘘ね。あんたが現場で指揮すれば状況は変わるもの。」
「ふん、不気味な奴だな」
三人の言葉にいやいや、本当ですよ〜と答えながら戯ける。
するとその時、ユーリに近づく影がまた一人。
ルシエラだった。
ルシエラは周囲の視線など気にした様子もなく、
何も言わず、ユーリの隣に座る。
その様子に周囲に沈黙が流れる。
学園最強と噂のルシエラが当たり前のようにユーリの隣に座ったからだ。
そんな様子にルシエラは
「……?私に構わなくていい。続けろ。」
周囲の空気を気にせずルシエラがそう言うと
フレイヤが
「いやいや、天然?」
「ふ、かもな。」
クロードが答える。
食堂の空気も変わる。
「な、なんだあの席」
「すげえな、おい!」
四班のメンバーも
「うわぁ!ちょやばい!あのメンツまじ!?」
「当たり前みたいに座ったぞ!」
「……できてる?……」
すると空気を壊すようにミハイルが二人を見て
「あはは、怪獣コンビですね。」
そう言われるとルシエラとユーリが首を傾げて
「なんだそれは?」
「怪獣〜?」
二人の声にミハイルが続ける。
「知らないんですか?あなた方、訓練場を何度も壊すため、怪獣コンビと呼ばれているんですよ?」
夜、決まって二人は訓練していた。
そして壁や床を壊し、なんどもローランに怒られていた。
「そういえばこの前、ローラン教官が廊下で頭を抱えていたかも?また、クローネとヴァレンか!って!」
「使うのに手続きが必要な特別訓練場を勝手に使って壊したそうだな。そのおかげで、二年の授業ができなくなったと聞いている。」
ミハイルの言葉にフレイヤとクロードも続く。
三人の言葉にユーリとルシエラは
「いや〜、ここの施設、脆過ぎない?」
「全くだ。何度、施設の強化を申請しても通らん。壊れるのは施設が悪い。」
開き直った。
その言葉にミハイルとフレイヤが笑い、
クロードも控えめに微笑む。
食堂には笑いが溢れていた。
その夜、学園の会議室に教官達が集まっていた。
副学園長のローラン。
一年の教官陣四人。
そして、学園長。
六人による会議が行われていた。
議題は四班のメンバーが噂していた内容だった。
「では、会議を始めよう。」
会議室に威厳のある声が響く。
学園長、アルベール・ド・ヴァレンティス。
かつて、ヴァルディア王国、騎士団長を務めた伝説の騎士。
前線を退き、現在はこの学園の学園長だった。
その声に副学園長のローラン・ヴェルディエが頷き、
「隣国、グランゼルト公国との戦争に向け生徒達の実地訓練を優秀なものに限り、一年から行えるように
変更する。この意見に賛成のものは挙手を。」
そう言うと、三人の手が上がった。
賛成の手を挙げたのは、
二班の教官、バルタス・グラン
四班の教官、カイン・アーヴェル
そして、
学園長、アルベール・ド・ヴァレンティスだった。
ローランが
「……意見が割れましたな。では、賛成派の意見を。」
そう言うと、バルタスが
「もう戦争は始まってんだ。優秀な奴には早く戦場に慣れさせて、戦力にした方がいい!それだけだ。」
この意見にカインが
「……私もバルタス君の意見に賛成です。……どうせ遅かれ早かれ、彼らは騎士になる。……それが一年早くなるだけです。……それに、戦争が迫っていることを考えると妥当な改革かと。」
その意見に一班の教官のルシアン・ベルフォールが
「いや、まだ早い。
クロード・アークライト、
ユーリ・ヴァレン。
この二名は優秀で、戦場に出た経験もあるかもしれん。
だが、騎士団としての戦場は知らん。
統率を取り、組織として動くという事を中途半端に覚えた状態で戦場に立てば、隊の規律を乱す可能性もある。」
この声にカインが
「……クロード君は騎士団として出陣したのでは?」
そう言うとルシアンが
「いや、あれは騎士団としてではなく貴族として、山賊を討伐しただけだ。騎士団崩れのな。」
カインがそうだったのですか、というと、
三班の教官、エレノア・ルグランが
「そもそも、隣国と戦争になったとして生徒を出陣させるほど切迫していると思えない。才ある若者を死に急がせる必要はないかと。」
この意見にローランも続く。
「私もそう思います。彼らは未熟です。その上、一年からに改革したとて、大した数はいません。学園長、いかがお考えですか?」
ローランがそう言いと全員が学園長の顔を見る。
学園長のアルベールが
「……確かに、反対派の意見は全うかもしれん。
……だが、今回の戦争を皮切りにこのユグリアの冷戦状態が続くとは思えん。」
アルベールの言葉に全員の表情が変わった。
アルベールは続ける。
「もし、グランゼルトとの戦争中に他の国が攻めてきたらどうする。あり得ない話ではない。……その時、戦場を知らないまま、突然戦場に立てばそれこそ危険だ。」
アルベールの言葉に全員が沈黙する。
そして、その言葉をきいてローランが
「……では、改めてこの制度改革に反対のものは?」
そう聞くと誰も手を挙げなかった。




