天才VS異端児
午後の座学が終わり、大浴場へ向かう。
石造りの広い広場には、
白い湯気が立ち込めていた。
一日の疲れを流すように
多くの生徒たちが湯船に浸かっている。
ユーリ、アルノー、アイクも湯船に浸かり、入学初日の疲れを癒していた。
「ふぅー、あーいいなぁ……。」
「ね〜きもち〜」
アルノーとユーリは湯船に肩まで浸かり、
気の抜けた声を漏らした。
「学園の中に学生寮や食堂、大浴場まで……やはりすごいなこの学園は。」
「そうだな。さすが、ヴァルディアが誇る最高峰の騎士学校だぜ。……お、そういえば、寮の同室は誰だったんだ?アイク。」
アルノーがアイクに聞くと
「同じ四班の貴族の人だったよ。気さくな人でうまくやっていけそうかな。二人は同室なんだって?」
アイクが二人に聞き返す。
「そうそう〜、夜中部屋抜けて遊ぼ〜。」
ユーリが湯船に仰向けで浮かびながらそういうと
アルノーが
「ははっ!いいなぁ!」
二人の呑気な声に苦笑いしながらアイクが
「まあ、その辺は自己責任みたいだけど……。
明日は班対抗の模擬戦があるんだから、休んで備えたほうがいいよ。」
「おおー。一班とだよな。相手はあのクロードか……。なあユーリ、お前あいつのことどう見てるんだ?」
アルノーが湯船に浮かび流されそうなユーリの体を掴んで座らせながら聞くと
「う〜ん、よくわかんな〜い。個人としては強いんだろうけど、戦争が強いかはわかんないな〜。」
ユーリが答えると
「戦争が強い?戦術面が強いかどうかって話か?」
アルノーがさらに聞くとユーリは
「ん?う〜ん、戦術っていうか〜、なんていうのかな〜、戦争のセンス?みたいな〜。」
ユーリの回答にアルノーとアイクが首を傾げる。
するとアルノーが
「お前の言うセンスとやらはわからんが、あいつはすでに戦争に出陣している。代々、騎士を輩出してきた貴族の出だ。そしてその初陣で、五人を率いて敵二十人を討ち取り、他の小隊は全滅する中、五人全員で生還した。」
アルノーの説明を聞いてアイクが
「ずいぶん詳しいね?」
「俺はあいつと同じ街出身だからな。当時は街中がその話題で持ちきりだったよ。」
アイクが説明を聞いて
「なるほど。一班はクロードという絶対的な存在がいることで一枚岩になるだろうね。勝てるのかな、うちの班は……」
アイクがそう言いながら、また湯船に浮かび流されそうなユーリを見ながら
「……まとまるのは難しいよね。」
アイクがそういうとアルノーが
「うちの場合、クロードですらまとめられるかは怪しいけどな。」
そういうとユーリが
「うちはそれでいいんだよ〜。一日二日で同じ目線で戦える方が異常だし〜?ま、それはそれでやりようはあるよ。」
ユーリがそう答えるとアルノーが
「なんか作戦でもあんのかよ?」
「え、ないよ〜。アイク、明日の作戦は任せるよ〜……ブクブクブク……。」
そう言いながらユーリは湯船に沈んでいった。
アルノーが沈んでいったまま浮かんでこないユーリを引っ張り上げると顔を真っ赤にしたユーリが
「……のぼせた〜、あづい〜……」
二人は肩をすくめて、ユーリを抱えて浴場を後にした。
その後、同じタイミングで大浴場をでたリズとノアと合流し食堂で夕食をとり、各々の部屋に戻った。
入学初日の長い一日が終わった。
翌日、模擬戦は始まる。
広大な演習場に四班全員が集まり、各班準備していた。
本日の模擬戦は一年の
一班VS四班。
そして、二班VS三班。
模擬戦のルールはお互いの陣地に旗があり、この旗を奪い合う、各班対抗の総力戦。訓練用の武器を使用する。
また、訓練用の武器のため死ぬ事はないが教師がジャッジをし、実際の武器であれば致命傷と判断されればその時点で模擬戦から退場となる。
一班はクロードを中心に三十七人が円を作り作戦を立てていた。
「地形を利用する。この演習場の東側に森がある、そこに五人、西側の川にも五人、中央に二十人。中央から攻める。西と東は奴らの動きを弓兵で中央に寄せる。
残りは俺と旗を守る。」
クロードが作戦をみんなに伝える。
すると、一班のメンバーである一人が
「クロード様は、攻めないのですか?奴らの様子を見る限り統率は取れなそうですので、クロード様を中心に攻めれば容易に旗を取れると思いますが……。」
そういうと、クロードが
「確かに脆いかもしれん。だが、統率が取れないという事は言い換えれば何をしてくるかわからないとも言える。特に、ユーリ・ヴァレン。奴は危険だと俺の感覚がそう言っている。故に、まずは様子見だ。敵戦力が削れれば俺も攻めに出る。皆油断はするな、いいな。」
クロードが作戦を伝えると全員がはい!と返事をする。
一班はクロードを中心にまとまっていた。
対して四班はアイクを中心に円になっていた。
「えーっと、作戦を伝えるね。東側の森と西側の川は敵が守っている可能性がある。
だから中央突破を狙いたい。
僕たちのクラスは三十八人。三十人は中央に集まってくれ。残りの八人は自陣で守りを。向こうは様子を見ながら戦って来ると思う。おそらく向こうは自分たちが有利だと思っているからだ。」
アイクがそういうとリズが聞く
「何でそう思ってるの?」
「向こうには絶対の存在であるクロードがいるからだ。彼らは統率が取れると思う。が、こちらは……」円になっている全員がユーリに目を向けると
「ん?どしたん〜?」
なぜか円の中心で寝ていたユーリが視線に気づく。
アイクが
「……聞いてた?作戦。」
「うん。俺は攻めでいいの〜?」
「ああ。君だけは自由にしていいよ。」
アイクがそう言うとユーリはいつもの軽い返事を返す。
すると四班のメンバーが
「てか何でお前が仕切ったんだ?……班長もこんな感じだしな。信用できねぇよ。俺は好きにするぜ。」
そう言うと他の数人も
「俺、合わせんのとか無理なんだよな〜」
「自由にやりてーよー。」
そう言って数人が自由に配置についた。
「……ま、こうなるよね。」
アイクが諦めた表情で言う。
するとリズがアイクに
「ねぇ!私はどうすればいい?弓なら得意だよ!」
そう聞くとアイクが
「君は自陣の守りを頼むよ。突破してきた敵を射てくれ。」
リズがりょーかい!と敬礼しながら自陣にはしっていく。
その後、ノアやアルノーも割り当てられていき、全員が配置につく。
そして、時間になり開始の鐘がなる。
模擬戦開始。
開始と同時に四班は中央から攻めた。一班の中央は陣形を組み、確実に制圧していく。
四班の面々はまとまりはないものの、個々の力では一班を上回っていた。
四班の動きは敵陣の統率の取れた動きに対して健闘していた。
そして、アイクの指示を無視して四班の数人が森の方から周り敵陣に向かっていた。
「はっ!全然いねぇじゃねえか。行けるぜ!」
最初に円から抜けた大柄の男が森をかける。
すると、木に隠れていた一班の矢が飛んでくる。
「っ!やべえ!お前ら下がれ!がっ!」
そう言いかけるも、矢が頭にあたり森を見張っていた教官がジャッジを下し、四班の三人が退場となった。
一班の東側の森で四班を三人仕留めたとクロードに報告が上がる。
するとクロードは
「西側の川は?」
「西側からは来ておりません。」
クロードはそうか。と言いながら中央に視線を向ける。
「……やつは何をしている?」
中央のユーリを見ながら言う。
ユーリは四班が中央から攻めている様子を少し離れた場所から剣を片手で回しながら見ていた。
中央の攻めに参加しない。
その様子を見てクロードが疑問の表情を浮かべる。
そしてそれは四班も同じ反応だった。
「おい!班長!お前も手を貸せ!」
「なに遊んでんだ、おい!ニヤニヤすんな!」
などと言われるもユーリは
「早く突破してよ〜。頼むよ〜。」
そう言い返して特に何もしなかった。
自陣から見ていたアイクも困惑の表情を浮かべていた。だが、
「……何の意図が……。」
アイクだけはユーリの行動の意図を読もうとしていた。
これにリズが
「意図なんかあるの!?あれに!?」
中央を突破してきた一班を矢で射抜きながらアイクに聞く。
「……いや、ないのかな。う〜ん。」
アイクが考えながら中央の様子を見る。
すると、四班がユーリの様子を見て
「んだよ!やってられるか!」
「もう好きにやるぜ!」
アイクの作戦通りに中央から攻めていたものたちが西や東に攻める場所を変え各々が好きに動き出した。
これにより中央が手薄になり、一班が優勢になる。
しかし、四班は個々の力で何とか踏ん張る。優勢だが、攻め落とせない。
その様子を見てクロードが
「俺も動く。」
そう言って中央の攻めに参加する。
その様子をアイクがみて、
「まずいな。中央が手薄になっている!中央で戦っているもの!引いて守りに集中してくれ!アルノー、自陣前で敵の動きをなるべく止めてくれ。リズやみんなは矢でとにかく一人でも多く敵を減らしてくれ!」
アイクが指示を出し中央で戦っていた四班のメンバーが指示通り自陣に戻っていく。
しかし、中央の攻撃に参加し始めたクロードは圧倒的だった。
アイクの指示通りに自陣に戻る四班のメンバーを訓練用のレイピアで次々に仕留めていく。
リズたち弓兵でクロードに矢を射るも、全て打ち落とし進撃する。
その様子に、四班の士気は下がり、動揺が走る。
「クソ!ヤベェぞ!くっ!」
アルノーが進撃する一班の攻撃をなんとか受け止めながら言うと。
その様子を見ながらアイクが
「まずい!ユーリ!守りに……どこにいった!?」
ユーリに指示を出そうとするも、
先ほどまでいた場所にユーリはいなかった。




