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ヴァルディア戦記  作者: ユユ
16/17

抗戦

ルシエラは迫る敵軍を見据えた。


黒く埋め尽くすような軍勢。


投石機や騎馬隊、橋を架けるための工兵など、

目測で二千人。


対してこちらは生徒三十人、砦からの援軍を合わせても百人程。

避難誘導組四十人が合流しても、戦場が初めての一年生もいる。


(勝ち筋が見えない)


どうしたものかと頭を悩ませていると、隣の砦から援軍に来た警備隊達と話しているフィオナがこちらに振り返り、自身と目が会うとこちらに向かって歩いて来た。

「ルーシー!」

「フィオナ、マズいかもしれない」

「ええ。あの数は厳しいわね」

「……この戦力では、厳しい。少なくとも、私には勝ち筋が見えん」

珍しく弱気なルシエラにフィオナは一瞬目を見開く。

だが、すぐに表情を戻して

「確かに、私たちだけで倒すのは無理ね。……だけどまだ希望はあるわ」

「希望?」

「警備隊の方から聞いたのだけれど、ダニエル隊長は私たちが来る前から騎士団本部に援軍を要請していたみたいなの」

「そうなのか?」

「ええ、だから私たちは援軍が来るまで耐えればいいの」

「どれくらいで来るかだな……」

すると壁の門から兵士が馬に跨り、駆けてきた。

国境警備隊の隊服を身につけており、馬には旗が付いている。

(伝令兵か)

兵士が馬を降りるとその場にいた全員の視線が彼に集中する。

「第一監視砦より報告!騎士団本部への援軍の要請が受理された!援軍は最短で一時間程で到着するとの事!」

報告を聞いたルシエラは、少しだけ心が軽くなったのを感じる。

「一時間か」

それならば何とかなるかもしれない。

「フィオナ、皆を集めてくれ」

「わかった」

そう言うとフィオナは学生たちに声をかけ、一ヶ所に集まるよう指示を出す。

すると先ほどの伝令兵がルシエラに近づいて来た。

「隊長からの伝言だ。本当は自分たち警備隊だけで何とかするべきなのだが、すまないが協力して欲しい。頼む。との事だ」

「ああ。何とかしよう」

「兵たちを代表して感謝する。それと、ダニエル隊長より援軍の警備隊達はルシエラ・クローネの指揮下に加わるよう指示が出ている」

「わかった」

「武運を祈る」

そう言うと伝令兵は胸に手を当て、頭を下げる。それはヴァルディア騎士団に古くから伝わる敬礼だった。

馬に跨った伝令兵が去っていく。


やがて、学生と援軍の約百人の兵たちがルシエラのもとに集まり、全員の視線がルシエラへ向けられる。

「現状の戦力差はかなり大きいが、全てを相手する必要はない。援軍が来るまで壁を守りきることが任務だ。その援軍が来るまで一時間。たった一時間だけだ。必ず守りきるぞ」

ルシエラの言葉におお!と声が上がる。

ルシエラは続けて

「壁の防衛のために投石機の破壊が必要だ。あれがあっては壁が崩れる。壁の防衛と投石機の破壊。どちらも並行して行う。ガルド、フレイヤ、二人は私と投石機の破壊だ。馬を使い、敵陣を突破する」

「いいぜ」

「了解っ!」

「フィオナ、ユー、私たちの突破の援護を。その後は遊撃だ。状況を見て、防衛、破壊のための援護など臨機応変に動いてくれ」

「ええ、わかったわ」

「おっけ〜」

「残りは防衛だ。クロード、指揮を任せる」

「わかりました」

「……必ず守るぞ」

オオオッ!と声が上がり、それぞれの配置につく。


クロードは兵士たちに指示を出し、ガルドとフレイヤが馬に跨ってこちらに向かって歩いて来る。

フィオナとユーリは自身と防衛隊の間あたりに陣取り、何か話している。


「……皆、生きて帰るぞ」


独りごちて、ルシエラはグランゼルト側の方へ視線を移す。


投石機には石が積まれている。


国境であるレーベ川には木で作られた橋が架かっており、その先頭には騎馬隊が並んでいる。


ブォオオオーー!!


角笛が鳴り響き、投石機の腕がゆっくりと持ち上がる。


ーー始まる。



「かかれぇっ!!!!」

「「「おおおおおっ!!!!」」」


数百人のグランゼルト騎馬隊がヴァルディア領に雪崩れ込まんと駆けてくる。


「行くぞ!!」

グランゼルト騎馬隊に正面から馬に跨ったルシエラを先頭にガルド、フレイヤ達が突撃した。


橋の上で両者が交錯する。

グランゼルト騎馬隊が先頭のルシエラに槍の突きを繰り出す。

ルシエラは槍の突きを大剣で横薙ぎに一閃。

槍ごと騎兵達を吹き飛ばしていく。

後続の騎兵達も体制を崩し、敵陣に進みながら三人は可能な限り騎兵を倒していく。

左右からの敵兵を薙ぎ倒しながら、ガルドとフレイヤも続いた。

橋を渡りきり見渡すと右側と左側に二台ずつ投石機がある。

「まずは左側だ!一番近いものから潰す!」

「おう!」

「了解!」

ルシエラ達が投石機に向かって駆けようとするが

「守りを固めろ!」

「「おおっ!!」」

狙いを読まれ、グランゼルト兵の軍勢が立ちはだかる。

「はっ!邪魔だ!どけぇっ!!」

ガルドが馬から飛び、軍勢の中心の兵士を踏み潰す。

「がっ!」

下敷きになった兵から槍を奪い取り、手近な兵の胸を貫き、その兵の腰から剣を奪い、また手近な兵の胴を殴りつけるように剣で吹き飛ばす。ガルドの猛攻に僅かな道が開く。その活路をルシエラとフレイヤは見逃さなかった。

「ふっ!」

「とりゃっ!」

二人が僅かな隙間を縫うように馬で駆けていく。

投石機まで数メートル。

投石機の腕が上がり、石が投げつけられる瞬間、

ルシエラは馬から飛び、体を旋回させて、投石機の石を投げる腕の部分目掛けて大剣を叩きつけた。

バキィィィィ!!

そのまま折れて石を持ち上げることなく腕が折れる。

(まずは一台!)

ルシエラが次の投石機へ目を向けるが、数百の兵に囲まれている。眼前にはガルドとフレイヤが孤軍奮闘している。

突破には時間がかかる。グランゼルト兵は樽を持ち出すと、

「火薬樽だ!奴らを木っ端微塵にしてやれ!!」

「お前ら!下がれ!!」

グランゼルト兵達が引いていく。

火を点けられれば爆発する。

(まずい!)

火薬樽を持った兵が導火線に火をつけ、ルシエラ達に向かって投げつけようとした瞬間、


ヒュンッ!!


一本の火矢が火薬樽を貫いた。


ドオオオオン!!


「ぎゃあああ!!」

「ああああ!!」


グランゼルト兵が持っていた火薬樽が爆発して、一気に数十人が吹き飛んだ。

ルシエラは矢が飛んできた方を見る。フィオナと目が合うと彼女がウィンクする。

(……流石だ)

ルシエラは控えめに微笑む。だが、すぐに表情を引き締めて

「行くぞ!次の投石機を壊す!」

「おっしゃ!」

「了解っ!!」

三人は次の投石機に走り出した。


その頃、ヴァルディア領ではーー


グランゼルト騎馬隊がヴァルディア領に降り立つとすぐに矢が飛んできた。

「がぁっ!」

「うおっ!」

フィオナの矢が兵の目や馬の頭を射貫き、騎馬隊の勢いは落ちる。

そこを巧みな体捌きで馬の突進をかわしながらユーリが馬上の兵達を斬りつけていく。

「クソ!」

「二人だけだ!囲め!」

騎馬隊、歩兵が盾を用いて矢をかわしながらフィオナとユーリを囲みこむ。

「ねぇ〜フィオナちゃん、俺が道開けるからそこから逃げて〜」

「ふふ、優しいのね〜。でも、平気よ?私……」

「殺せぇ!!」

「「オオオオッ!!」」

フィオナが言い切る前にグランゼルト兵が二人に襲いかかる。

眼前に迫る槍を剣で受け流し、斬りつける。ユーリだけであれば、かわしながら兵達を撹乱し、抜け出せるが……。

「フィオナちゃ〜ん、大丈……え?」

ユーリが振り返るとフィオナの足元に数人の兵士が転がっていた。

転がる兵士の首元に刺さっている矢を引き抜きながら、

「平気よ〜。私、近接も嫌いじゃないの。心配してくれてありがとう」

血塗られた矢を手に持ち、顔を返り血に染めてフィオナが笑顔で振り返る。

(こっわ〜)

「や、やる〜」

「私のことは気にせず、好きに暴れていいわよ〜。援護するわ」

「うん、おっけ〜」

そういうと、ユーリは目の前の兵に斬りかかった。

ユーリは剣を振り下ろした。

攻撃を受けた敵兵はこれを剣で受け止めると、ユーリが前蹴りを放つ。

「がっ!」

もんどりを打った兵の首元に一閃。

ゴロンと転がる首がユーリの前に落ちると、足首を返すように生首を宙に浮かせて、敵兵めがけて蹴り飛ばす。

「うわっ!」

生首が敵兵の頭に当たると

「あはは!返してあげるよ!」

「貴様、亡骸を……!許さん!」

「ぶっ殺してやる!」

同胞の首をぞんざいに扱われ激昂した兵達がユーリに襲いかかるも、ユーリは気にしない様子で剣を片手で回しながら、ひらりとかわしていく。

「ほらほら、こっちだよ〜。よっ!」

「がっ!」

「クソ!」

その様子をフィオナは敵を制圧しながら見ていた。

(敵をひきつけて、防衛隊の方へ行かせないようにしてるのね)

フィオナはユーリの意図を読み取る。

(それにしても、あの子本当に初陣なの……?)

敵兵が斬りかかって来ると、フィオナが矢筒から矢を一本取り出し、懐に入って首元に突き刺す。

その背後から槍で突かれるのを感じると、身を翻し、持っていた矢を弓で射て、首を貫く。

自陣を見渡すと騎馬隊が三騎クロード率いる防衛隊に突撃している。

(させない!)

フィオナが弓を構えて三本の矢を同時に射た。

三本の矢が寸分違わず騎兵の首を射抜いた。

防衛隊からおおー!と、どよめきが上がる。

気にしない様子でフィオナが橋を見ると、敵兵が雪崩れ込んでくる。

その先頭に、ハルバードを携えた男がいた。

(あれはまずいわ……!)

フィオナはその男めがけて矢を放つが、ハルバードを振り下ろし弾き落とす。男はフィオナを一瞥するも、特に気にしてないのかまた正面に向き直り、

「……突撃しろ」

そういうとグランゼルト兵が防衛隊に向かって突撃する。

フィオナが自陣に向かうグランゼルト兵に弓を構えると

「……させん」

ハルバードの一閃がフィオナの眼前に迫る。

「くっ!」

フィオナは勢いよく倒れ込み、すんでのところでかわして、立ち上がる。

男がハルバードを旋回させて、フィオナに振おうとした時、

「……!」

ガキィッ!

後ろからユーリが胸を穿とうと剣を突き立てるも、男はフィオナの方を向いたまま、ハルバードで防いだ。

「え〜?これ防ぐ?人外〜?」

「ユーちゃん、そのまま!」

剣による突きをハルバードで防ぎ、無防備な男の顔面目掛けてフィオナが矢を射た。

矢が男の口元に飛ぶ。

喉を貫けば、致命傷だ。

だが、

ガギ!

男は至近距離で射られた矢を歯で受け止めた。

「嘘でしょ!」

「まじ〜!?」

ハルバードが振るわれ、二人は距離を取る。

咥えていた矢を吐き出し、口元から僅かに流れる血を拭い、男はハルバードを構えた。

「さっきルーシーと戦ってた奴だよね〜。これはまずいかも〜」

「ルーシーが倒しきれなかったの?どおりで……」

この男を倒すことは難しい。そして、それ以上に重要なことは

(防衛が……!)

男が率いていた数百の兵が自陣を攻撃している。

さらに、投石機による石も飛んでいる。

クロードが率いてなんとか対抗しているが……

(援軍が来るまでもつかしら……)

「フィオナちゃん、とりあえずこいつを止めよう。後ろはきっと何とかなるよ〜」

「!」

ユーリが剣をクルクルと回しながら笑顔を向けてくる。

「ふ〜ん、根拠は?」

「根拠なんかないよ〜」

「ふふ、なによそれ」

「でも、こいつが向こう行ったら突破されるし」

「ふふ、それはそうね」

「でしょ〜?」

(もし突破された時は、私が敵を射抜く)

「よし、やるわよ!」

「うん!」

フィオナが矢を放ち、ユーリが斬りかかる。

男はハルバードを振るい、二人の猛攻を受け止める。

甲高い音が鳴り響いた。

男はハルバードを構え、二人を見据える。


二人の背後では怒号と悲鳴が入り混じり、防衛隊は押し込まれつつあった。


援軍到着まで、あと四十分。

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