表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァルディア戦記  作者: ユユ
14/17

敵襲

少し前ーー第三監視砦


グランゼルト公国軍の動きに呼応するように、ヴァルディア側の国境も慌ただしく動き始めていた。


「投石機まで持ち出すとは……奴ら、本気で戦争を起こす気だな……」

第三監視砦の小隊長、テオがグランゼルト公国領を見渡すと投石機が並び、騎馬隊も出撃準備を終えている。

「だな……指示どおり、防衛準備は完了だ。第三監視砦百人、全員いつでもやりあえるぞ。」

ふいに、望遠鏡をのぞいていたテオの横から声が聞こえる。準備を終えた同期のジュリアンがテオの隣に立っていた。


「奴ら、ここを真っ先に落とすつもりか……?」

「まぁ、ここが一番手薄だからな。川幅も一番狭い。……大変だな?小隊長殿?」

「まだ実感がない。C級に上がってすぐの着任とはな……お前こそ、娘が産まれたばかりだろ。よりによってこのタイミングでここに配備されるとはな。」

「全くだ……ここ五年、冷戦状態だったからな。砦なら平和だと思ってたんだが……」

ジュリアンが苦虫を潰したような表情で言う。


五年前、ユグリア大陸八ヶ国会議にて休戦協定が結ばれた。

これにより冷戦状態となっていたが、グランゼルト公国の様子を見るとそれを今まさに破ろうとしている。


「しかし、何故だ……?こんなことをすれば他の国々からも非難を浴びて最悪、他全ての国が敵意を向ける可能性もあるというのに……」

「それはどうだろうな。」

「?」

「休戦に納得してない国は他にもあるかもしれないぞ。」

「……なるほど、この戦争をきっかけに休戦協定が破られ、またユグリア全土で戦争が始まる……か。」


言いながら、テオが再びグランゼルト側の様子を見る。

歩兵隊の配備も終えていた。

だが、その歩兵隊の真ん中に道ができている。


「ん?なんだ?」

「どうした?」

「敵歩兵隊の真ん中から、一人こちらに来ている……?」

「一人?」


敵兵たちはその男のために道を開けたまま、一歩も動かない。


国境を隔てるレーベ川の向かいから黒い外套を纏った男がゆっくり近づく。

テオは砦の弓兵に構えの指示を出しながら

「止まれ!」

男は止まらない。

「それ以上近づけば矢を放つ!」


そう言われ、男は足を止める。


が、次の瞬間、男は背中に背負ったハルバードを自身の横の大木に向かって一閃。


バキィッ!!


という音と共に、川の間に橋の要領で大木が倒れる。


「化け物か!?」

「っ!放てっ!」

テオが指示を出す。

無数の矢が降り注ぐ中、男はハルバードを両手で旋回させ、飛来する矢を弾きながら大木を駆けていく。


そして、男はヴァルディア領に降り立った。


土煙が静かに舞う。

男は立ち止まることなく、砦を見据えた。


「くっ!知らせを送れ!」

「は、はっ!」

テオの指示に兵士が信号矢を放つ。

ヒュオオオオッ!という音が響く。


指示を出しながら、テオは鐘を鳴らす。

ゴオオオオン!!他拠点への知らせの合図だった。


「はあっ!!」

降り立った男にレーベ川付近にいた兵士が突撃する。

これに男はハルバードで一閃。


音だけが響く。


「は……?」

何が起こったか分からないまま、兵の視界がズレる。おそるおそる、目線を下に向けると目の前に自分の足が二本たっていた。

「あ、あぁ、ああああああ!!!」

絶叫と共に血しぶきが舞う。

男は兵を見下ろし、髪を掴みながら首めがけてハルバードを振るった。

血が滴る兵士の生首を持ちながら、男は砦に向かいゆっくりと歩いてくる。

「や、奴を殺せ!」

テオの指示に砦の兵たちが声を上げて男に向かって走り出す。

が、

男が生首を無造作に放り捨て、ハルバードを振る。

その一振りで三人の胴と足が切り離された。

「うわぁぁぁぁっ!た、立て直せ!」

「盾だ!盾を持て!」

目前の様子に狼狽しながら兵達は警戒しながら、構え直す。

次の瞬間、男が地面を蹴り、盾の正面から勢いよく蹴りを放つ。

「「ぐわっ!」」

盾を構えていた兵士たちがバランスを崩し、後ろに吹き飛ぶ。

男は目の前に落ちた盾を拾い上げ体ごと一回転して、盾兵の後ろにいた歩兵隊の方へ勢いよく放り投げた。

「がっ!」

投げられた盾をまともに喰らった兵たちが倒れる。


男は歩みを止めない。


すれ違う兵士が次々と斬り伏せられていく。

「がぁっ!」

「うわぁ!」

手や足、胴体などが切断されていき、血しぶきが舞い、次々と兵達が蹂躙されていく。

「クソっ!くらえ!」

兵たちが四方から男に縄を巻き付ける。

男の動きがようやく止まり、

兵士たちの表情に、初めて安堵が浮かぶ。


「よしっ!!油を浴びせろ!」

兵たちが油の入った樽を男に投げつける。

男にぶつかり樽は壊れて、中の油がかかる。

「今だ!放て!」

テオの指示に弓兵が火矢を放つ。

縛られている男が勢いよく燃え盛る。

かと思われた次の瞬間、縄から男がいなくなっていた。

「なにっ!?」

縄に縛られているのはマントのみ。

よく見ると男はマントを脱ぎ、燃える縄の傍に立つ。

「マントを脱ぎ捨てて、抜け出したのか……!?」


男は燃え盛る縄を片手で掴む。


勢いよく振り回す。


燃えた縄が兵士たちへ叩きつけられる。


「ぐわぁぁぁ!火がぁ!」

「ク、クソッォ!」

地面に散った油に引火し、火の範囲が広がる。

火に怯えている兵士たちにハルバードの一閃が襲う。


その瞬間だった


ウォルターの背後、倒れた大木を渡り、数百のグランゼルト兵が一斉に雪崩れ込んできた。


「突撃ィィィ!!」


「「「おおおおおっ!!」」」


男を囲んでいた兵士たちにグランゼルト軍が襲いかかる。


「ク、クソ!援軍か!」

「いつの間に……!?」

突然の敵兵にヴァルディア兵たちは殺戮されていく。


「クソっ!突破口を作られた!」

テオは壁を殴りつけた。

「おい!テオ!」

ジュリアンの叫びに、テオは反射的に顔を上げる。


視線の先では――


男の周りに火が燃えたぎる。

その火を掻き分け男はゆっくりと砦の最奥へ歩き出す。


迫り来る男を睨みながら、ジュリアンが剣を抜く。

「やるしかねえ!」

そう言うと剣を構えながら男に向かって駆けて行った。

振り下ろされた一撃をハルバードで受け流し、一閃。

「ぐわっ!」

鎧を掠め、なんとかかわす。

掠めた箇所をチラッと見ると鮮血が流れていた。

(速すぎる!これは無理だ……!)

ジュリアンがテオの方を見ながら、首を横に振る。

テオはそれを見ながら、絶望した。

この砦で、最も強いジュリアンが無理だと告げている。


(突破される!!援軍を……頼む……!)

テオは祈るしかなかった。


ジュリアンがなんとか男の攻撃を交わし続ける。

だが、長くは続かない。

ジュリアンの重心が偏ったのを見抜き、ハルバードの穂先の刃でジュリアンの腹を穿つ。


「がっ!あ、あぁ……」


「ジュリアン!!」


「う、動くな!お、お前がやられれば、奴らが突破してくる……ぐっ、はぁはぁ、動くな、いいな……?」


ジュリアンが刺されながらテオを制止する。


「……そ、そのツラ、噂で聞いた顔とそっくりだ……はぁはぁ……」

「……」

男は何も言わずジュリアンを見つめる。

「……だ、『断頭』のウォルター……だな。」


その名を聞き、テオは絶望の表情を浮かべる。

「そ、そんな……!」

かつての戦争でヴァルディア国内に多数の悲劇をもたらした、敵国の英雄の名を聞いたテオは槍を持つ手が震える。

「……テオ、なるべく、はぁ、持ち堪えろ……くぁぁ!」

腹を刺されたまま、ジュリアンは足掻く。

ジュリアンの突きがウォルターの太ももを抉る。

浅い。だが、確かに当たった。

ジュリアンは口元に笑みを浮かべる。

だが、ウォルターは表情を変えず、刺したハルバードを抜き、一閃。


ゴトッ!


ジュリアンの首が胴体から切り離されテオの足元に転がった。

「っ、あっ、はぁはぁ、ジュリアン……!」

過呼吸に近い状態で、ジュリアンの生首を見る。

ウォルターが、自身に向かってゆっくりと歩いてくるのを感じ、テオはなんとか槍を構えた。

そして、ハルバードが振り下ろされる。


「う、うおおおおおお!!!」


倒れ込むように避け、なんとかかわす。

(死ねない!死ねば突破される!)

本音は死にたくない!怖い!逃げ出したい!だった。

そんな感情を押し殺して、テオは何とか避け続ける。

一閃。

「うわあっ!」

腕に熱い衝撃が走り、血が吹き上がる。

見ると、肩から先が無くなっていた。

「ああっ!く、っ!」

声が上がるほどの激痛と恐怖を押し殺して、それでも避け続ける。

(え、援軍がくるまで!何とか!)

その思いでかわし続けるも、

避けて、背後を見せた瞬間、ハルバードが上から振り下ろされた。

「がああぁぁぁぁ!!」

背中に鋭い激痛が走り、血を吹き上げながら倒れ込む。

(もうダメだ……間に合わなかった……突破される……)

ゆっくりと意識がなくなっていく中、

騎士になる時に自身を送り出した家族の光景が脳内で再生された。

(……ここが抜けられれば、家族が……)

倒れながら首を動かすと、地面に転がっていたジュリアンの首と目が合う。

(……家族ができたばかりなのに……皆……殺される。)

「……う、あ、あああああああ!!!」

片腕を失い、背中に重傷を受けて、瀕死の状態にも関わらず、傍らの槍を杖代わりにテオは立ち上がった。

「ふぅふぅ、ぐ、あ、ああ!」

ヨタヨタと、ふらつきながらそれでも槍を構える。

ウォルターは何も言わずにただテオを見つめる。

そして、ウォルターの背後からグランゼルト軍の歩兵たちがゾロゾロと現れる。


「お前ら!進め!!」

後続の隊長が号令を飛ばす。

歩兵たちは瀕死のテオを無視してヴァルディア国内へ雪崩れ込んだ。

「あ、あああ!待て!クソォッ!!」

テオに向かってウォルターがゆっくり歩き出す。

そして、ハルバードを振り下ろした。

(皆、すまない!守れなかった……!)


死を覚悟した。


刃が目前に迫る。


ガキィィン!!


火花を散らし、甲高い音が響く。

「……あ?……え……?」

テオがゆっくり前を向くと、

ウォルターのハルバードを大剣で受け止める、ルシエラの姿があった。

「……あとは任せろ。」

受け止めたハルバードを弾き、ウォルターを下がらせる。

「あ、ありがとう……あ、だ、だが、突破されたんだ!国に奴等がっ……」

そう言いながら背後を見ると、

グランゼルト軍を蹴散らし、胸ぐらを掴み上げながらガルドがニタァと笑っていた。

「おいクローネ!そこ変われよ!そいつのが楽しめそうだ!!」

そう言いながら掴み上げた兵士を頭から突き落とす。

テオがさらに横を見ると、ユーリ、クロード、フレイヤをはじめ、生徒たちが次々と蹴散らしていく。

「……強い……」

「ああ、必ず守る。休め。」

その一言を聞き、安心したのか、テオは意識を手放した。

そこに、二年の生徒が来る。

「ジュール、フィオナに伝えてくれ。」

「わかった。」

そう言うとジュールはテオを抱えて、仲間に託し、馬にまたがる。


ルシエラとウォルターが構える。

風が凪ぐ。

音が消えて、二人は交錯した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ