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ヴァルディア戦記  作者: ユユ
13/17

前兆

一ヶ月後。


グランゼルト公国とヴァルディア王国の国境。


両国を隔てるレーベ川のほとりに建てられた第一監視砦。

その城壁の上で、日に焼けた肌、刈り上げられた頭には無数の傷が残っている。

国境警備隊隊長ダミアン・ルグレールは望遠鏡を覗いていた。


レーベ川の対岸。


グランゼルト公国側の砦では騎馬隊が行き交い、投石機の組み立てが進められている。

明らかに異常だった。


「学生たちはまだか。」


隣の兵士に問いかける。


「はっ。本日到着予定です。」


「そうか。」


ダミアンは短く答える。


「何かあったのですか?」


兵士の問いにダミアンは視線を外さないまま言った。


「全員に伝えろ。」


「はっ。」


「いつでも戦えるよう準備しておけ。」


兵士の表情が強張る。


「……はっ!」


兵士は足早にその場を去っていった。


ダミアンは再び望遠鏡を覗く。

レーベ川の向こう。


風に揺れるグランゼルト公国の旗。


「始まるのか……。」



ルシエラ、フィオナを先頭にし、七十人を超える学園生たちは二日かけて学園から砦に到着した。

「クローネか。」

ダミアンは学生たちの前に立つ

「隊長、久しぶりだな。」

「ああ、よく来てくれた。

 始めに言っておく、状況が変わった。」

「……交戦中か?」

「いや、だがすぐにそうなる。避難誘導と支援、並行してやってもらう。支援の方は戦闘を伴うだろう。

隊を二つに分けてくれ。」

「わかった。」

そう言うとルシエラとフィオナが短く話し合い

そして、ルシエラが指示を出す。

「支援は私を含め三十人だ。

名前を呼ばれたものはこちらに。

ガルド、ユー、クロード・アークライト、フレイヤ・ルーン……」

二年生たちが選ばれていく。

「残りは私に着いてきて、避難誘導よ。」


「クローネ、この第一監視砦を含め、国境には三つの監視砦がある。この砦間の連絡をしてもらいたい。

そして……もし戦闘になったら迎撃も頼む。

では、さっそくこのクロスボウを第二、第三の監視砦まで運んでくれ。」

「わかった。」

ダミアンの指示にルシエラは隊の先頭に立ち行動を開始する。


そして、ダミアンはフィオナに向き直る。

「実は四日前、村が襲われた。数名の侵入を許してしまった。」

「!……村の様子は?」

「すぐ駆けつけたが、数十人が殺され、村の大半が焼かれた。」

「……ひどい。」

「ああ、不覚だった。村人たちの傷は癒えていない。

気が立っているかもしれん。」

「わかりました。」

「ここから十五キロ先に騎士が待機している。

そこから先は騎士たちが案内してくれる。

そこまでの引き渡しだ。村にはこの馬車を五台持って行ってくれ。

避難者は四十三名だ。……すまないが頼む。」

「はい。任せてください。」

フィオナは生徒たちの先頭に立ち村へ向かう。


砦から村まで一キロ程だった。

学生たちが村に入る。

村人たちは無言で視線を向けるだけだった。


そんな視線を受け止め、フィオナは村人に声をかける。

「皆様、お待たせしました。この馬車に荷物を預けてください。重たい荷物は近くの騎士にお声がけください。騎士が運びます。」

そういうと村人達は荷物を馬車に持っていき、

馬車に生徒達が荷物を詰めて行く。

そして、

「そこの騎士様、これを運んでちょうだい……」

腰の曲がった老婆が近くにいたアルノーに声をかける。

「はい。これは……?」

「孫の遺灰。四日前、亡くなって埋める余裕もないから焼いたの。」

「……お孫、さんの……」

「……まだ九歳だったの。元気な子で、よく村を走り回っていたわ……どうして……うう、ああぁ……!」

泣き崩れる老婆にアルノーは遺灰を持ったまま、固まった。

その様子に気づいた二年生がアルノーの背中を優しく押して

「その遺灰、あそこに運んでくれ。」

「あ、はい……」

「……」

二年生は老婆に寄り添い、背中をさする。


リズが大きな荷物を持った母親と少年を見つける。

「預かります。」

「あ、ありがとうございます……」

「……ねぇ、お姉ちゃん、僕たちの家、戻る?」

「え?」

「僕たちの家、燃えちゃった……お父さんがくれた木の剣も、お母さんが作ってくれた服も全部。」

少年の言葉にリズは返せない。

「この前ね、僕見たんだ。村に火をつける兵隊さんがいて、お父さんが剣を持って止めようとしてーー」

「やめなさい。」

母親が息子を強く抱きしめる。

少年の手に握られた剣の鞘には血がべっとりと付いていた。


リズは何も言えなかった。


荷物を詰めて、村人たちも乗り込んでいく。

フィオナが村長に

「これで全員ですね。」

「ああ。では、頼むよ。」

「はい。」

引き渡しの地点へ進む。

馬車に村人たちと荷物を載せて、生徒たちはその周りを歩く。

馬車はゆっくりと村を離れていく。

村人達は何度も振り返った。


焼け落ちた家。


崩れた井戸。


黒く焦げた畑。


長く暮らした故郷だった。


もう二度と戻れないかもしれない。


誰も口を開かなかった。


引き渡し地点には数名の騎士が待機していた。

「ご苦労だった。あとは任せてくれ。」

「はい。よろしくお願いします。」


村人たちの引き渡しが終わり、安堵の空気が漂う。

だが、

「フィオナ!騎馬が一騎近づいてくる!」

「あれは……ジュールね。」

やがてフィオナの前で騎馬が止まり、馬を降りて

「フィオナ!第三砦が!」

「落ち着いて、何があったの?」

「ルシエラ達が交戦中だ!グランゼルトが攻めてきた!」

「わかった。あなたはこの隊と歩いてきて。」

「わかった!」

フィオナが指示を出しながら馬にまたがる。

そして、生徒達に向き直り

「みんな、二年生を先頭に第三砦まで来て。

私は先に向かうわ。」

そう言い残し、フィオナは第三砦に向かう。



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