第22話「守るための方法」
「竜王とユキコの魂が再びが結ばれたことで光が大きくなった。この光に惹かれるものがいる、という話は以前したの」
「ああ」
「それを寄せ付けないためには、祝福で混ざった魔力を使って“祝福のベール”を国に張ればいいの。そうすれば、少なくとも2人が死ぬまでは、この国に“悪いもの”は近寄れない」
祝福のベール?
「また、新しい単語が出てきたねぇ」
「その、祝福のベールというのはなんだい?」
お兄様とギルバート様が首を傾げる。
お兄様が知らないということは、精霊の祝福同様、活字になっていない知識ということだろうか。
「単純に言えば結界魔法なの。“悪いもの”だけ寄せ付けない結界。精霊の祝福が成功した時にだけ使える、特別なものなの」
「ええと、でも、わたくしとジェイク様の魔力は差がありすぎると」
「女性側の場合、魔力が増えるタイミングがあるの」
「え?」
リンはもう一度お茶を飲もうとして、カップが空なことに気づいて首を傾げた。
アリスさんがそっとドアの外の従者にお茶のおかわりを頼む。
「魔力が、増える?」
「妊娠、だねぇ」
私の問いに答えたのはリンではなく、お兄様。
「どういうことですか、お兄様」
「医術会にある一説でねー?大きく魔力差がある、それも女性側の魔力が少ない夫婦が妊娠すると、女性側の魔力量が一時的に増えるのではないかっていう。ただ、そこまで魔力差がある夫婦なんていうのは殆ど居ないし、そういう夫婦には大抵子どもは1人しかいないからほとんど検証もできなくて、あくまで仮説として言われているのだけどー」
それは、知らなかった。
さすが、お兄様というところか。
「人間の知識欲って面白いの。別に隠しているわけではないけれど、教えてもない世界の法則を経験から見つけていくの」
「精霊の王にそう言っていただけると、いち知識人として嬉しいですねー」
お兄様がそう笑ったところで、リンが私に向きあった。
「おそらく、竜王が言った貴方の知識が変化する、そしてそれが鍵になると言ったのは、聖霊の祝福とベールのことだと思うの。たぶん、あっちの世界では妊娠で魔力が増えるのは常識だったから、正式に結ばれたら、と言い方をしたの。といっても、竜王はその知識をほとんど持っていなかったから、本当に推測だったのだろうけど」
「ふと疑問なんですがー、竜王とジェイク様は同じ魂をお持ちで、記憶あるのですよねー?なのに、竜王の意図するところがわからないのは何故ですか?」
ふむ、とジェイク様は考える。
「転生者として、確かに俺は竜王の記憶があるが、それはそうだな…。こう、幼いころの記憶のようなぼんやりとしたものなんだ。それに竜王と俺は、あくまで別人格だからな。多分、リーアたちも同じだと思うが…」
「そうですね。わたくしの記憶も、昔読んだ本の内容…くらいにぼんやりとしています」
私たちの言葉にアリスさんやギルバート様もうなずく。
超絶記憶力を持つお兄様には、昔読んだ本の内容というのはピンときていないようだったけど。
「とりあえず話を戻すが、つまりは俺たちが結婚の後、リーアが妊娠中にその祝福のベールを展開すればいい、という話なのか?」
リンはこくん、と頷いた。
「できるのであれば、張った方がいいと思うの。第二王子と第一王子妃がいれば、大抵のものはどうにかできるとは思うけど、2人が常に万全とは限らないの」
王子2人は、神妙な顔で頷く。
「しかし竜王はもうすぐ、といっていたが?4ヶ月後に兄上たちが結婚することを考えると、どう早くしても2〜3年後にならないか?」
「竜王は3000年生きるの。1ヶ月も1年もさして変わらないの」
「……」
とりあえず、現時点ではとくに出来ることもない、というのが結論だった。そして、その時までは、ジェイク様とアリスさん、および国の騎士で対応しよう、と。
リンは次にまた予約があるからと一足先に退出し、ギルバート様達にお礼を伝えて、私とジェイク様は部屋を後にする。
「…、リーア」
「? はい、なんでしょうかジェイク様」
廊下を歩いている途中で、ジェイク様が突然足を止める。
その顔が、何故か赤い。
「その、…貴方が妊娠するということは、その…、そういうことを、いずれするという、わけ、なんだが…」
「!!」
この人は、どうしてこう、可愛いのだろうか。
真っ赤な顔で、俯くジェイク様に、つられて照れてしまう。
「婚約、という約束を交わした時点で、わたくしはちゃんと覚悟もしていますわ」
「そ、そう、か。…うん。ありがとう」
謎のお礼をされて、ジェイク様はいつも通り私を家まで送ってくださった。
そこからしばらく会えなかったのだけど、この日2週間後、青い顔をしたジェイク様に呼び出されることになった。




