第20話 魔力変化の理由
「え、リン?」
邂逅の場で竜王たちにあってから1ヶ月。
ギルバート様が時間がとれたからと呼び出された部屋に待っていたのは、こちらも予約が取れ次第会うことになっていた、占い師のリンだった。
「久しぶりなの、婚約おめでとうなの」
「え、あ、ありがとう」
いつもと変わらず読めない表情を浮かべて、座ってお茶を飲む彼女に少し動揺しつつ、促されたので私たちも空いている椅子に座る。
ギルバート様は1番奥の椅子に座っていて、その横にはアリスさんがニコニコと笑って座っていた。
そして、何故かお兄様もギルバート様の横に立っている。
こうしてみると、ギルバート様の側近のように見えてくる。
お兄様の普段の言動から、そうなる未来はありえないと、分かってはいるのだけど。
どうしてあんなに頑なに側近になることを拒むのだろう。興味が持てない、と言う言い方じゃイマイチよくわからない。
「さあ、みんな集まったみたいだな。すまないね、急に呼び出すようなことになってしまって」
「いえ。忙しい中時間をとってくださって、ありがとうございます、兄上」
「ふふ。可愛い弟からのお願いだ。そういうときには張り切ってしまうのがお兄ちゃんという生き物だよ」
ギルバート様はからからと気持ちよく笑って、さて、と何冊かの本を私たちの椅子の中央にある机に、ゆっくりと置いた。
動作が優雅で、ジェイク様にそっくりで、思わず見惚れてしまう。
「リーア嬢?」
「あ、申し訳ありません」
「大方、私とジェイクが似ているなーとか考えていたんじゃないかい?」
「え!?」
「あっはっは。大当たりだ。いや、昔アリスも『顔は似ていないのに動きはそっくりですのね』って笑っていたから。そうかなと思っただけだよ」
アリスさんの口真似が妙にうまくて思わず笑ってしまう。
そんな私に気を悪くするでもなく、優しく笑って、ギルバート様は本題に入った。
「さて、大体の話はラディアスとジェイクから聞いているけれど、確認させてもらおうかな。竜王から邂逅の場で君の魔力がこれから変化するはず、という話を聞いたからそれの相談と、あとは、君がこの国にとっての隙にならないためにはどうすればいいか、という話、であっているかな?」
「はい」
「うん。じゃあ、一つ目。魔力の変化についてなんだけども…。これは実際に見てもらった方が早いな。アリス」
「はい。うふふ、リーアちゃん、私の魔力の属性はご存知かしら?」
「存じ上げてます。わたくしと同じ、水の属性ですよね」
「そうそう。ギル様は風。つまり、私とギル様、リーアちゃんとジェイク様は同じ属性同士のカップルということになるわね。じゃあ、ちょっと見ていてくれるかしら」
そういうと、アリスさんは両手のひらをお椀のようにして胸の前で上に向ける。少しするとその上に、ふわり、と水の玉が浮かび上がった。
手の上に浮かぶ水玉は火の打ちどころのないみごとな球体。まるで水晶玉のようにも見える。
「これが、純粋な私だけの魔力です。それでね、面白いのがここからなんですの」
アリスさんは悪戯っ子のような楽しげな笑顔を浮かべて、球体を支える手を一本にして、空いた手をギルバート様に差し出した。
差し出された手をギルバート様が掴んだ瞬間、球体の色が変わる。
透明だった水は淡い紫色を帯びて、形はまるででなく、竜巻のように上広がりの円錐形になった。
私たちが、何がどうなっているのかさっぱりわからないという顔でその変化を見ていると、アリスさんが「うふふ」と笑った。
「不思議でしょう?いま私の手の上で回っている魔力は、2つの属性を帯びたものになっているんです。風と水の合わせ技みたいな」
「ええ…?そんなの聞いたことないぞ」
「結局公表しなかったからな」
ギルバート様が、ジェイク様に返す。
「母上たちにはこういう変化はなかったんだ。つまり、ジェイクたちの話が出るまでは、私とアリスだけの特殊な現象だったわけだ。知っているのは私たちと、父上たちだけ」
「え、でも卒業論文のテーマに選ばれたのでは…?」
「うん?ああ、選んだよ。けれど途中で卒論という形で調べることをやめたんだ。文献だけでは『そんなことは起こりえない』という結論しか出せなかったしな。だからなぜこんなことが起きるのか、というのも不明のまま」
ギルバート様が手を離すと、竜巻はまた美しい球体にもどった。
そのあとふわり、とその球体も消える。アリスさんは涼しい顔で微笑んでいるだけだ。
「魔力があの状態だとアリスの制御が難しい。アリスに負担をかけてまで実験をする価値も見出せなかったから、途中で違うテーマに変えて、この研究は終わりにしていた。もともとアリスの変化がきっかけ、とは一部の人間にしか伝えていなかったし、ただでさえアリスの魔力はお偉いさんたちにとって喉から手が出るほど欲しいものだから、余計にだ」
アリスさんの水属性の魔力はとても強力で、尚且つアリスさんの制御力は今代随一とも言われている。
先ほどの球体がその良い例だ。私もコントロールは得意な方だけれど、私ではあんな見事な形は作れない。
人の身には重いとすら言われる量の魔力を有し、それを完璧に操れる。考えたくはないが、軍事利用できればどれほどのものだろうか。
同じような能力値を持つジェイク様が王になるべきだという声が、本人がどんなに否定してもやまないのも、同じような理由なのかもしれない。
「ちなみに、机の上に置いた資料は当時集めた『わからない』を結論づけるためのものになる。そういう意味では、なんの役にも立てなくて申し訳ないな」
「いいえ、貴重なお話をありがとうございます」
「それ、『精霊の祝福』なの」
「え?」
結局わからないままか、と結論づけようとした時、リンが突然、なんてことないように言った。
読んでくださってありがとうございます!
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最後まで書ききれるように頑張ります。




