第16話 自覚
「甘いのね」
私たち以外いないはずの場所で、突然後ろからかけられた声に、私とエレナは思わずひっ、と息を呑んだ。
それと同時に、ジェイク様とガイアスが、声がした方向から私をかばう位置に移動する。
「何者だ」
厳しい声でガイアスが声のする方向、木の影に問うと、
「そんな怖い顔をしないで欲しいの」
「え、リン…?」
ひょっこり顔をだした声の主は、私たちを転生者だと言った、占い師のリンだった。
「なんでお前がここにいるんだ」
ジェイク様の怪訝な声にリンは気にする様子もなく、とてとてと歩いてきて空いていた私の横に座る。
「呼ばれたからなの」
「誰に?」
私が聞くと、リンはちょい、と首を傾げてみせた。
「あなた方の、前世に」
***
突然現れたリンは「よければ私にもお茶が欲しいの」とエレナに言った。
私の方をエレナが確認したので一つ頷いて、準備をさせる。
エレナのお茶を飲んで、ほぅ、と息を吐いたリンに、ジェイク様が尋ねる。
「俺たちの前世に呼ばれた、とはどういう意味だ?」
「そのままの意味なの」
リンは、ジェイク様を見つめる。
「貴方達の光がまぶしすぎて、悪いもの達はたくさん姿を消したの。そのせいで占い師や祓い屋たちは商売あがったりなのだけど…、まあそれはいいの」
リンの話はいつも抽象的だ。
悪いもの、とはなんだろうか。
「とにかくあなたたちの光はとても眩しくて、愛おしくて、私たちのようなモノには、魅力的過ぎるの。貴方達の光は、前世があるから。その前世の光に惹かれたから、私はここに来たの」
私たちようなもの、というのも一体何の話なのだろう。
「…、惹かれて、で、お前は結局何をしに来たんだ」
眉を寄せてため息をついたジェイク様を、リンはぴ、と指差した。
王族を指差すなんて、と私を含めジェイク様以外の人はみんなぴりっと警戒したが、リンはなんてことないようにそのまま言葉を重ねた。
「お知らせに来たの」
「は?」
「竜王と生贄が再会して再び愛が結ばれたことで、貴方達の光は私たちにとって無視できないものになったの。これから先、私たちみたいなのや、貴方達の光だけでは消えない強いものが、たくさん貴方達の前に現れるかもしれないの」
「・・・・・・」
「当たり前だけど、好意的なものばかりじゃないの。元竜王。貴方の選択次第では、貴方はまた、大切な人とこの国を天秤にかけることになるの」
ビリっと、ジェイク様の空気が変わる。
殺気ともとれるそれは、私の体はびくっと震えた。
エレナも同様に青い顔をしている。
その様子に気づいたからか、ガイアスは私たちとジェイク様の間に立った。
「俺はもう、愛しい人を失うような選択は、しない」
「そう。今世ではそれが許される。それがいいの。あんな悲しい思いは、もうしたくないの」
「は?」
「じゃあ、私は行くの。次の依頼主が待ってるの」
小柄なリンは椅子に座ると足が床に届かない。
リンは椅子からぴょん、と飛び降り、そのままスタスタ歩き始めた。
「おい」
ジェイク様は声をかけたが、リンは振り返ることもなく去っていく。
不敬に不敬を重ねている行為だが、リンにはそれを咎められない不思議な雰囲気があって、私たちは後ろ姿を眺めるしかできなかった。
「なんだったんだ…」
ため息をついたジェイク様に、ガイアスが声をかける。
「ジェイク様」
「ん?」
「リーア様とエレナさんがジェイク様の殺気に怯えているので、フォローしたほうがいいかと」
「え!?」
慌てたようにこちらを振り返るジェイク様に、私は胸の前で手を横に振ってみせた。
「あ、いいえっ、わたくしは大丈夫です」
「わ、私も平気です!あの、ええと、お菓子のおかわり持ってきますね!」
エレナもハッとしてばたばたとかけていく。
「エレナさん、俺も手伝います。ああ、ジェイク様、気づいていないみたいなのでお伝えしておきますが」
「え?」
「さっきの占い師、『再び愛が結ばれた』と表現していましたよ」
「「え!?」」
私とジェイク様の声が重なったところで、ガイアスはエレナを追いかけて駆け足で言ってしまった。
なんとも言えない沈黙が、私とジェイク様の間に流れる。
「あ、あの」
ジェイク様が頭をかきながら、若干にやけた表情で、私を見た。
たまらなく恥ずかしくなって、思わず顔を伏せる。
そうか。
ジェイク様に感じている、不安だったり、安心感だったり。
これが、恋、だったのか。
耳まで熱い。
「リーア、…だ、抱きしめても、いいだろうか?」
「え。あ、…は、はい」
私の返事を聞いて、ジェイク様はそっと、私を抱き寄せる。
暖かくて、心地よくて、どこか懐かしくて。
ぽた、と涙が落ちた。
「リーア?」
「すみません。なんだか、嬉しくて」
「…、そうか」
優しい声でそう返事して、ジェイク様は私の頭をゆっくり撫でた。
恋愛なんて遠いものだと思っていた。
本で読むように、焦がれて、苦しいくらいなら、気楽に政略結婚のほうがいいな、と思っていた。
けれど、そうか。
恋をするということは、誰かを愛おしく思うということは、こんなに、こんなに、温かいものなのか。
「口説き落とされて、しまいましたね」
「ははっ。俺の全力が通じてよかった」
「わたくし、頑張りますね」
「ん?何を?」
「貴方の婚約者としての振る舞いと、貴方の側に立つための努力、です。これから先ずっと、貴方の側にいたいですから」
「…。っ」
突然抱きしめる力が強くなって驚いていると、ジェイク様ははぁぁ、とため息をつきながら言った。
「俺の婚約者は…、可愛すぎる」
私たちの婚約発表パーティは、すぐそこに迫っていた。
読んでくださってありがとうございます!
やっと二人がきちんとくっつきました。
この話で書きためていたストックが切れましたので、次話以降は更新頻度が下がります。
申し訳ありません。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。




