第15話 魂の色
私の質問に固まってしまったジェイク様に、思わずどんどんと言葉を重ねてしまう。
「私は、私を美しいとは思っていません。ましてや、ジェイク様に釣り合うような容姿はしていないと、自覚しています。…けれど、ジェイク様は一目惚れをした、可愛い、とおっしゃいます。…とても失礼なことを聞いているのはわかっているのです。けれど」
ひゅ、と息を吸い込む。
「私は、どうしてもその言葉に納得がいかないのです」
ジェイク様は美しい。絶世の美男子と、長く謳われてきたしその通りだと思う。
王妃様も、国王様も、ギルバート様も、アリス様だって、整った容姿をしているのだ。
そんな方々に囲まれて育った自分も美しい王子が、なぜ私のような、良くも悪くもない普通の容姿の女を選び、褒めるのかがわからない。
ジェイク様はユキコさんは関係ないといったけれど、結局私がユキコさんだから、綺麗な気がしていると勘違いをしているだけなのではないか。
そんなことを考えると、何故だか、胸が苦しくなる。
求められているのが私、ではないのじゃないかと、不安になる。
こんな感情を、私は知らない。
「…、リーア嬢」
「……はい」
「リーア、と呼んでもいいか?」
ジェイク様の斜め上の回答に、思わずえ?と返してしまう。
「か、構いませんが…あの…」
「まずは、不安にさせてしまったことを詫びる。申し訳なかった」
「え、あ、いえ、あの」
ぺこりと頭を下げられて動揺する私に困ったように微笑んでから、ジェイク様は続けた。
「俺はな、リーア。父上とおなじなんだ」
「といいますのは…」
「人の光が見える」
オーラ、というものが見えるという国王様の力を、ジェイク様は受け継いでいるということか?
「え、でも、ジェイク様の瞳は」
「ああ、普通に見える。けれど、人の光も見えるんだ。ずっとじゃないけどな」
話が見えない。
「貴方の誕生日の日、出迎えてくれた貴方の光が、…本当に、本当に美しくて。貴方が倒れて、夢を見ている間もずっと、あの光が、色が、忘れられなかった」
ジェイク様の瞳は真剣で、けれど優しく私を見つめている。
「そうして、気づいた。俺は貴方の光に焦がれていたんだって。だから、求婚したんだ。最初は…その、すごく失礼なことを言っていいか?」
「はい」
「光の印象が強くて、貴方の容姿自体はあまり印象に残っていなかった」
確かに失礼だ。
だけど、納得した。ジェイク様は私の容姿なんてどうでも良いのだ。
中身を見てくれていると思えば、傷つくようなことでもない。
ちょっと胸が痛い気がするのは、気のせいだ。
「あ、ちょっと待て」
「はい?」
「多分、今のところで話を終わらせると、物凄い誤解をさせたまま終わりそうだから、もう少し話を続けさせてくれ」
ジェイク様が、すこし慌てたようにこちらを見る。
それがなんだか、可愛くて、頷いた。
「リーアは、自分の容姿にコンプレックスがあるか?」
「いいえ。可もなく不可もなく、という顔だと自認していますので」
王族の皆さんみたいにキラキラしていない、ということを自覚したという意味では、すこし思うところはあるけれど。
「そうか。…あのな、リーア。貴方はたぶん、自分で思っているよりも美しいぞ」
「…え?」
「ただ、すまない。俺はあなたの容姿の美しさというのを、客観的な説明がたぶん、できない」
「ええと、それは…?」
「その、なんだ。惚れた女性は、びっくりするほど世界一可愛く綺麗に写るものらしく…、その、俺にとっては貴方は他の誰よりも綺麗で、可愛くて、魅力的な人物なんだ」
どういう意味か理解し損ねて首をかしげたが、続けられたジェイク様の言葉に私の頰がかあ、と赤くなるのを自覚する。
「ジェイク様、その表現では、いつから貴方がリーア様の容姿を可愛いと思ったか伝わりにくいですよ。リーア嬢にベタ惚れな気持ちと、甘さは十二分に伝わりましたが」
いつのまにかお茶の用意を済ませて、ガイアスとエレナが側に立っていた。
いまの会話を聞かれたかと思うと、気恥ずかしくてたまらない。
そんな私の気持ちを知ってかしらずか、ガイアスは私の方を向いて、補足しますね、と言った。
「ギムソン家から申し出のあった面会を済ませた後、ジェイク様はしばらく客間で頭を抱えていました」
「おい、ガイアス」
「“リーア嬢って、あんなに可憐な女性だったか…?“と呟きながら。そして、婚約が決まって会いに来るようになってからは、帰城までの道のりは全て、リーア様と話した内容や可愛かった仕草、いかにリーア様が聡明ですばらしいか…などなどを私は毎日聞かされております」
「ガイアス、頼むやめてくれ」
「あと、非常に僭越ではございますが、私とエレナさんから見たリーア様の美しさについてお伝えしておきますと」
「ちょっと待って、ガイアスとエレナからみた私の美しさってどういうこと?」
「ちょうど、そのような会話をしていたので」
エレナのほうを見ると、そうなんです!と顔に書いてあった。非常に嬉しそうな表情付きで。
「ぱっと見の華やかさとか、目を惹くような派手さは、貴方の美しさとは別のところにありますね。リーア様は、所作の一つ一つが綺麗で、エレナさん曰くギムソン夫人の美しさと、貴方の美しさが、よく似ているそうです」
お母様と、似ている。
その言葉は、自分でも驚くほど嬉しい。
「そ、そう、なの」
けれど、先程から自分のことを美しいと表現されすぎて、そろそろキャパオーバーである。
この話を終わろうと、声をかけようとしたところを、ジェイク様が遮った。
「待ってくれ、とりあえずこれは言っておかないといけない」
「な、なんでしょう?」
「俺が、あなたを1番綺麗で可愛くて素敵だと思っているぞ」
「・・・・・・・・。」
ジェイク様は、恋愛に向いているのか、向いていないのかが、よくわからないな、とふと思った。
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