第14話 国王様と王妃様と楽しいお茶会
謁見の間で、公式行事としての婚約顔合わせが終わった後、国王様と王妃様にお茶会に誘われた。
本人たち曰くプライベートルーム(ぎゅうぎゅう詰めで100人くらい入れそうな部屋。私の中の記憶が「100人のってもだいじょーぶ!」と言っている)に案内され、座る様に言われたので、ちょこんとテーブルの前の椅子に座る。
4人がけで、国王様と王妃様、ジェイク様と私、というふうに向かい合う形となった。
白髪混じりになっても美しい艶のある髪をきちっとまとめている王妃様を見ながら、ああ、ジェイク様は王妃様似なんだなぁと思う。
国王様もハンサムだが、傾国の美女、のような美しさとは少し違う。
ジロジロ見るののも失礼かと、あまりじっくり見てはいないけれど。
「ここにはマナーをどうこういう人間はいないから、くつろいでくれ」
ニコニコと国王様がおっしゃった。
(いや、それはちょっと…。)
我が国の王族や貴族の立ち位置というのは、他国に比べるととてもゆるい。
軽んじている、というのとは違うけれど、根底に人を人として扱う、という意識があるからじゃないか、と思う。身分差は存在するし、綺麗だけでない部分はもちろんあるのだけれど、身分差による壁が低めなのだ。
とはいいつつも、この国の最高権力者を前にして、いくら義父になる予定の人だからと言って、はいじゃあ緊張ときます、とはいかない。
王妃様が穏やかに笑って国王様にそっと触れる。
「国王様、そんな気軽にと言ってもそうそう気が抜けるものじゃないですよ」
「まあ、それもそうか。でもまあ、あのジェイクが女性を口説く気になったと聞いてな、どんな娘さんかプレイベートで話してみたくなったのよ。いやはや、とても綺麗な娘さんじゃないか」
「まあ、そうなんですの?」
国王様の言葉に、王妃様はそう答えた。
いや、お世辞だとわかっているけれど、本物の美女の王妃様からのその反応はちょっと傷つく。
というより、国王様はなぜ綺麗だと言ったのだろう。
国王様の両の瞳は、幼い頃に光を失っているはずなのに。
内心首を傾げていると、王妃様はニコニコと私とジェイク様を見る。
「さすが、私の息子は見る目がありますね!」
「うむ、ジェイク、良くやった」
「父上、母上、我が家の大前提を彼女が知らない状態で話を進めると、リーア嬢が戸惑ってしまいますよ」
楽しそうな国王様と王妃様に困った様に笑いかけた後、ジェイク様は私の手を取った。
どきん、と心臓が跳ねる。
「リーア嬢すまない。なにがなんだか…と顔に書いてある」
「え、申し訳ありませんっ」
「いいや。ええとだな。父上が失明しているのは、知っているよな?」
「ええ。幼い頃に病で…と」
「そう。で、ここからは公にはしていないんだが、父上は地上の光を失った代わりに、人の光…ほら、オーラとかそういう雰囲気のものだ。それが見えるようになった。父上が失明してなお、国王としていられるのは、人を見る目が確かだからなんだ」
すごい話になってきた。
「だから、君のことを綺麗だ、と表現した父上の目には、君の光が綺麗なものに写っている、そして、それに対してオーラが見えない母上がそうなのか、と感心した。そういうわけだ」
「は、はぁ」
転生だ前世だ…の次は、オーラ。私は本で沢山の知識をもっているほうだと思っていたけれど、私の世界はなんて狭いものだったのか。
しかし、公表をしていない、と言っていけれど。
「そのようなお話を、わたくしが聞いてよろしいのでしょうか?」
「構わんよ」
答えてくれたのは国王様。
「特別公表するようなものではないから言っていないだけで、側近はみんな知っている話だ。まして、家族になる人なら尚更知っておいてもらった方が良いだろう。アリス嬢も知っているよ。いやあ、我が息子たちには本当に綺麗どころが嫁にきてくれるんだな。有難い話だ」
国王様が嬉しそうに笑うと、今度は王妃様が軽く身を乗り出して私の目を見て微笑む。
「うふふ、ねえ、リーアちゃん。…あ、リーアちゃんって呼んでいいかしら?」
「はい、王妃様の呼びやすいように呼んでくださいませ」
「ありがとう。リーアちゃんは、何が好き?」
「え?」
「お菓子、何が好き?」
「え、ええと」
「今日はね、シェフが焼き菓子祭りにしようって気合い入れていたの。お口にあうものあるかしら?アーモンドのマドレーヌがオススメなのだけど、あ、こっちの焦がしバターのも美味しいのよ。お茶も緩くなってしまっているわね、すぐ入れ替えさせるわ。あ、こっちのクッキーも美味しいの!甘いもの、嫌いじゃないわよね、時々ジェイクも持って行っているし」
次々と私の前に積み上がっていく焼き菓子たちに、どうしていいものか戸惑ってしまう。
王妃様ってこういうキャラだったのか。
式典などで国王様の横で手を降ってらっしゃるお姿は本当に非の打ち所のない王妃様像だったから、そのことにも重ねて戸惑いが生じる。
「母上、母上。娘候補ができるたびにそうやってお菓子攻めにするのはやめてあげてください。嬉しいのは、重々承知しておりますが」
突然、後ろから声をかけられて、びっくりして振り返ると、そこには、第1王子ギルバート様と、その婚約者アリス様が立っていた。
王族大集合である。
「はじめまして、リーア嬢。ギルバート・カルタールだ。君のお兄さんとは仲良くさせてもらっているよ」
漆黒の髪と金の瞳はジェイク様とよく似ているが、ギルバート様はどちらかというと国王様似のようで、美しい、というより男前、という言葉の方がしっくりくる。体つきは、ジェイク様よりすこし小柄で細身だ。
「恐れ入ります。リーア・ギムソンでございます。愚兄がいつもお世話になっております」
立ち上がってスカートをつまみ礼をすると、ギルバート様はニコニコと笑った。
やっぱり、国王様に良く似ていらっしゃる。
「リーア様、お久しぶりです」
「アリス様、お久しぶりでございます」
黄金色の髪をハーフアップにまとめたアリスさんは、ギルバート様とお似合いの美女である。年齢よりすこし幼なく見える顔立ちと、見事なメリハリボディがなかなかのギャップで、そこがまた魅力的。
アリス様とは、夜会で何度か会話をしたことがある。
あと、アリス様は王立図書館の常連でもあるので、そこでもよく姿はお見かけする。
アリス様はぼっち令嬢な私と他の方との対応を変えることはないのだけど、人当たりもいいし人気者なので、大抵人に囲まれてい、そこまで深く会話はしてことがない。
「うふふ、私たちも義理の姉妹になるのだから、堅苦しいのはなしにしませんか?」
「ありがとうございます。では。アリスさん、とお呼びしても?」
「私はリーアちゃん、と呼びたいです」
「アリスさんの、呼び良いように」
「うふふ、よろしくお願いします、リーアちゃん」
さて。王族大集合を体験して思ったことがひとつ。
私、容姿的な意味で、浮いている気がする。
***
「お疲れ様、リーア嬢」
「ありがとうございます、ジェイク様」
王族大集合楽しいお茶会編を終えて、私とジェイク様はギムソン家の客間に座っていた。
ジェイク様はお茶会がどれくらい長引くか読めないということから、他の用事を入れていなかったらしく、いつもとは違う、タイムリミットのない2人の時間を過ごしている。
エレナとガイアスもお茶の用意で席を立ったので、本当に、2人きりである。
「母上と父上の相手は、疲れるだろう?」
「いいえ、そんな」
「正直に言っていいぞ」
「…、お2人の御心はとても心地よいのですが、やっぱり国王様と王妃様とお茶をするという状況には、いささか疲れました」
「あはは」
ジェイク様は笑って、ぽんぽん、と頭を撫でてくれた。
頭を撫でられるなんて、いつぶりだ。
びっくりして目をパチクリしていると、ジェイク様が焦ったように手を離す。
「す、すまん。あまりに可愛かったからつい…。気を悪くしたなら申し訳ない」
「あっ、いいえ、びっくりしただけで。…あの、ジェイク様」
「ん?」
聞いてもいいだろうか。
書類上の婚約が成立してから1週間以上、ずっと聴きたくて、でも聞けなかった質問。
「…、私に一目惚れしたって、どういうことですか?」
今度は、ジェイク様が目をパチクリとさせる番だった。
読んでくださってありがとうございます!




