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ぼっち令嬢と元竜王  作者: ゆるゆる堂


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第13話 私が暮らす国について

「リーア嬢、そんな難しい顔をして何を読んでいるんだ?」

「この国の概要と歴史についてですわ」


 ジェイク様との正式な婚約の書類を国に提出し、私たちの婚約発表パーティが3ヶ月後に行なわれると決まった。

 ドレスを新調したり、それに合わせた装飾品を選んだり、3ヶ月でどこまでできるかわからないけれどエステをしたり、そんな慌ただしい日々が始まってはや1週間。

 何故かもっと忙しいはずのジェイク様は、毎日のように顔を出してくれる。

 婚約発表パーティとはいいつつ、もう私が婚約者に選ばれたことは割と周知の事実なので、ジェイク様がいらっしゃることには何も問題はないのだけど、本当に毎日なのだ。

 ジェイク様が公務をおろそかにするとは思えないので、いつ寝ているんだろう、と思ってしまう。それはそうと、ジェイク様からの質問に返した言葉に、エレナが首を傾げた。


「お嬢様、お嬢様はその辺りの文献は昔読んでいらっしゃいましたよね?何もジェイク様がいらっしゃる時に読まなくても、頭に入っているのでは?」


 王子と貴族令嬢の会話に混ざるなんて、という声も聞こえてきそうだが、我が家では普通のことだし、何より王子からの許可がでているので、これは別に問題ない。


「それがね、エレナ、混ざるのよ」

「混ざる、ですか?」

「そう。前世の私の記憶と、今の私の記憶が一部ごっちゃになってしまって」

「ああ、それは、俺も覚えがある感覚だな」


 ジェイク様が苦笑いして、頷いてくれた。

 前世の記憶については、一部の記憶を除いて、すごく幼い頃の記憶のように、薄ぼんやりしてはいる。

 だが、一気に思い出したからなのかなんなのか、『日本』という国に住んでいた時の記憶と、竜王と暮らしていた世界の記憶と、いま自分が暮らす国についての記憶が曖昧になっている部分があるのだ。

 この制度はカルタール国の制度?日本の制度?どっちだっけ?みたいな。


「だから、婚約パーティまでに復習しておかないと、と思って…。けれど、エレナの言う通りですわ。ジェイク様、大変失礼を致しました」


 必死になっているとはいえ、確かに忙しい合間を縫って来てくれている婚約者をそっちのけでする作業でもない。

 ぱたんと本を閉じてジェイク様に向き直す。

 しかし、ジェイク様はニコニコと笑って、こう言った。


「じゃあ、テストをしようかリーア嬢」

「はい?」

「混ざっているとはいえ、その本もだいぶ終盤だし、何処まで正確に覚えているかテストをしよう。リーア嬢との会話を楽しみながら、お互いの復習にもなる。うん、いい考えじゃないか?」


 ジェイク様がぱちん、とウィンクを私に投げる。

 そんな気障な仕草ですら、ジェイク様だと様になるのだから、凄い。


「ええと、それは大変ありがたいお申し出なのですが…、ジェイク様には退屈ではありませんか?」


 そう尋ねると首を横に降る。


「俺はリーア嬢と過ごせれば、どんな状況も楽しめる自信があるぞ。危険じゃなければな」

「まあ、ジェイク様ったら…」


 凄い。凄すぎてさすがの私も照れてしまう甘さである。

 ジェイク様は隣に立っていた側仕えに声をかけた。

 その人はガイアス、という方で、ジェイク様曰く側近であり、友人なのだそうだ。

 多分、私とエレナのような関係性なのではないかと思う。


「ガイアス、終った時に甘いものでも準備してもらえるか?」

「畏まりました」


 甘さはもう十二分に足りています、というのは見当はずれの突っ込みだろうか。

 なんにしても、ジェイク様の提案はありがたかったので、乗ることにした。


「まず、我が国の現王族の名前は全部言えるか?」

「現国王様であられるライアン・カルタール様、国王妃様ジュリア・カルタール様、第1王子のギルバート・カルタール様、第2王子ジェイク・カルタール様、第1王子妃候補のアリス・タイマン様、でよろしいでしょうか?」

「さすが、スラスラ言えるな。簡単すぎたか」


 ジェイク様は楽しそうに笑う。


「では、我が国の就学制度については?」

「貴族学校と民間学校に分かれており、さらに3歳から7歳までの幼学部、8歳から15歳までの小学部、16歳から18歳までの高等部、18歳からの大学部、と分かれております。幼学部、小学部までは基礎学を、高等部以降、それぞれ学びたいことを選ぶことができます。貴族部は小学部まで、民間部は高等部まで国が費用を負担して、学びの機会の均等性を担保しています」


 日本の義務教育と少し似てるのかなと思うけれど、私の日本の記憶は12歳までなので、詳しいところはわからない。


「おお、スラスラと。素晴らしいですね」


 そう返してくれたのはガイアス。

 その後もジェイク様の出す問題に答えているうちに、頭の中がすっきりしてくる。

 私の場合、一問一答方式のほうが、知識を学び直すより整理されるらしい。

 私の回答は間違いはなかったらしく、一息ついたときにまたガイアス様が褒めてくれた。


「リーア様は、もともとの知識が豊富なのですね。貴族令嬢の中には学びが苦手な人も多いのに」

「そうなんです!お嬢様はすごいんですよ!すごいんです!」

「エレナ…」


 嬉しそうになんども縦に首を振るエレナになんだか気恥ずかしくなって俯くと、ふふっとジェイク様が笑った。


「誇っていいと思うぞ、リーア嬢」

「ありがとうございます。それでも、父や兄には敵いませんが」

「ああ、歩く王立図書館組か」


 私の父と兄は、王立図書館の司書をしている。(父は本業が領主なので、副業として人手が足りないときだけ手伝うような形だが)

 『歩く王立図書館』は王立図書館に勤める彼らの二つ名のようなものだ。

 2人とも異常なほどの本の虫で、尚且つとんでもない記憶力の持ち主で、図書館に入っている本のことなら、辞典のように正確に回答が返ってくる…という噂がたち、気づけばそう呼ばれるようになっていた。

 当然のように、高等部は2人とも首席で卒業している。

 そんな父兄を持つと、自分の能力が凡人が努力した程度なのだと実感させられるものだ。

 ちなみに、私の同学年にも飛び抜けて優秀な人がいたので、私は首席を逃している。これに関しては本気で、本気の本気で落ち込んだ。


「ラディアスもなぁ、本人にその気があれば兄上が側近にしたいと言っていたが…」


 ラディアス、というのが私の兄。


「光栄です。そのお言葉、兄も喜ぶと思います」

「本当に?」


 ジェイク様がいたずらっ子のように笑った。

 まあ、ご存知だとは思っていましたが。

 我が兄は、すこし…、いやだいぶ変わり者なのだ。

 我が家の中でも特に『面白そう』と思う範囲が広く、その全てを試してみないと気が済まない性質で、尚且つ、そのどれも人に教えられるレベルまでいかないとやめない。

 あと、時間の使い方が異様にうまいらしく、そんな無茶苦茶な性格をしているにもかかわらず、睡眠時間をそれほど削っているような様子も見られないという、本当に、凄い人なのだけど、唯一興味を全く示さない項目がある。

 それが『王族』関連なのだ。

 王族だから嫌うとか避けるとかいうわけではない。

 実際、ギルバート様と兄は仲がいい。

 ただ、王族に仕える、ということにカケラも興味が持てない。兄自身もギルのことは好きなのになんでかなぁ、なんてのんきに言っていたけれど…。


「ご存知なら、そんないたずらっ子みたいな言い方で試さないでくださいませ」


 困ったように笑って見せると、ジェイク様は嬉しそうに微笑んだ。


「いろんな表情が見たいと思ってしまうんだ、許してくれ」


 あ、甘い…。

 そのタイミングで、ガイアスとエレナがお茶の用意を持ってきてくれた。

 お礼を言おうとガイアスの方を見ると、うへぇ、という表情を隠しもせず浮かべていた。


「ジェイク様、せっかく甘いものを準備しましたが、塩辛いものに変えますか?」

「ガイアス、そんな意地の悪いことを言うなよ」

「口説くのは結構ですが、甘すぎてリーア嬢引いてますよきっと。ええ、どん引いているはずです」

「なんで断定的なんだ」


 ガイアスさん、私の心を読まないでください。

 いや、引いてはないんです、ただ慣れないだけで。


「それはそうと、あと30分がタイムリミットです」

「そうか、では、楽しいお茶の時間を堪能して、仕事に戻るとしよう」

「お忙しいのに、いつもありがとうございます、ジェイク様」


 私が立って礼をすると、ジェイク様は笑った。


「俺が来たくて貴方に無理を言っているんだ。こちらこそ、来訪を快諾してくれてありがとう、リーア嬢」


 気恥ずかしさはあるものの、この1週間でジェイク様との距離感が変わった気がする。

 ジェイク様は話し上手の聞き上手なのだ。そして、知識の幅と興味の幅が広くて、私と近い。

 つまり。

 ジェイク様と話すのは、とても楽しい。

 今日の様に思わず本に夢中になることがあっても、それをよしとしてくれるし…。

 恋だのなんだのは未ださっぱり実感できないが、この人の妻になるのは、たぶん私にとって最大級に幸せなことなんじゃないかと、思いつつある。


「ああ、そうだリーア嬢」

「はい?」

「明後日の国王との挨拶なんだが」

「はい」

「公式の挨拶行事のあと、父上と母上が少しでいいからお茶でもしたいと言っていて…」


 ジェイク様、軽く仰ってますが、それって私が婚約者としてふさわしいか見定める的な意図があるんじゃ…。

 そんな私の心を読んだ様に、ジェイク様が苦笑する。


「貴方の人となりが知りたいと言うのは確かにあるだろうが、さほど堅苦しいものではないぞ。なにせ、さあ婚約だ!と張り切る様な両親だから…」

「え、あ…。はい、大丈夫です。謹んでお受けいたします」

「ありがとう。じゃあ、そう伝えておく」


 そんな会話が終わったあたりで、ジェイク様のタイムアップが来た。

 公式な婚約の挨拶はもちろん気合いを入れていたけれど、その後のお茶会。

 さらに気合いを入れるためにも、エレナたちに「綺麗にしてほしい」と、お願いすることにしよう。

 装うことは、女性の武器であり、盾なのだもの。

読んで下さってありがとうございます!

リーア嬢は優秀です。

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