第5話「もう一つの魔力!? 更に近づく謎の影!」
◯街の路地裏/夜
人通りのない路地裏。
淡く輝いていた光は、すでに消えていた。
その場所を、ひとつの影が見下ろしている。
「……反応があったか」
影は地面に残る、わずかな光の粒を見つめた。
「まだ不完全だが……条件は少しずつ揃いつつある」
しばらくその場に佇んでいた影は、やがて夜の闇へと姿を消した。
◯:佐藤家/翌日・放課後
「つまり、昨日の光と同じような魔力が、また見つかったってこと?」
璃音がテーブルに身を乗り出す。
「そうなのだ。昨日の一件で消えたと思っていたが、今朝になって似た反応を再び感知した」
ルクスはテーブルの上に置かれた地図を見つめていた。
「場所は?」
由依が尋ねる。
「街の公園付近だ。反応は短時間で消えてしまったが、昨日のものとよく似ている」
「また、あの不思議な光……」
由依は少し考え込む。
昨日、路地裏で見た光。
あのとき感じた、誰かに呼ばれているような感覚。
あれは一体何だったのだろう。
「ねえ、ルクス。今度は正体が分かるかもしれないよね?」
「期待はできる。だが、正体が分からない以上、警戒は怠るな。あれが聖獣の魔力なのか、それとも別の何かなのか……私にも判断できていない」
「そっか……」
「ま、難しいことは行ってから考えよ! ボクたちなら大丈夫だって!」
璃音は胸を張る。
「璃音、油断しちゃ駄目だよ」
「分かってるって! 由依こそ、無理しないでね」
「うん。わたしは周りの様子を見ておくね」
「よし。では、現地へ向かうのだ」
ルクスの言葉に、三人は頷いた。
◯街の公園/夕方
公園には、学校帰りの子供や散歩をする人々の姿があった。
その一角にあるベンチでは、二人の少女が並んで座っていた。
一人は、金色の縦ロールにサファイアのような瞳を持つ、華やかなドレス姿の少女。もう一人は、銀色の長い髪を持ち、控えめな服装をした少女だった。
「それにしても、今日は随分と穏やかな一日ですわね」
金髪の少女――九条院麗華は、優雅に周囲を見渡した。
「そうですね。こんなふうに、ゆっくり過ごせる時間も大切だと思います」
隣に座る東雲澄玲が、穏やかに微笑む。
二人の足元には、小さな白い白鳥がちょこんと座っていた。
「まー、たまにはこういうのもアリっしょ! 澄玲も最近頑張りすぎだしさ!」
「アルバ、わたしは大丈夫ですよ」
「もー、そうやってすぐ大丈夫って言うんだから!」
小さな白鳥――アルバは、頬を膨らませて翼をぱたぱたと動かす。
「ふふっ。アルバは澄玲のことが心配なのですわね」
「そりゃそうっしょ! 」
「ありがとう、アルバ」
澄玲がアルバを優しく撫でる。
その様子を見て、麗華も満足げに頷いた。
「わたくしたちは、いつだって一緒ですもの!」
「麗華様も、いつもありがとうございます」
「当然ですわ!」
和やかな時間が流れていた。
そのとき、公園の入り口から璃音たちがやって来る。
「ルクス、魔力の反応はこの辺り?」
「間違いない。この周辺から感知した」
「でも、今は何も感じないね……」
由依が周囲を見回す。
その視線の先に、ベンチに座る二人の少女と小さな白鳥がいた。
「あれ? あの子たち……」
アルバが璃音たちに気づき、顔を上げる。
「どうしました、アルバ?」
「誰かこっちに来るみたい」
璃音たちは二人の少女の前で足を止めた。
「こんにちは! えっと……この辺りで変わったことってなかった?」
璃音が尋ねる。
「変わったこと、ですか?」
澄玲が首を傾げる。
「うん。実は、この辺りで不思議な魔力が見つかったらしくてさ」
「魔力……?」
麗華が二人の顔を見比べた。
「あなた方は、それを調べにいらしたのですか?」
「そうなのだ。私は聖獣ルクス。先ほどからこの周辺に、正体不明の魔力反応を感じている」
ルクスがバッグから顔を出す。
「聖獣……!」
澄玲の目がわずかに見開かれた。
アルバも翼を広げる。
「えっ、マジで? そっちも聖獣なの?」
「ということは……」
由依がアルバを見る。
「そ! あたしはアルバ! 白鳥の聖獣だよ!」
「私は東雲澄玲と申します。こちらは私の主人、九条院麗華様です」
「ごきげんよう。九条院麗華ですわ!」
麗華は優雅に一礼する。
「天宮璃音だよ! こっちは佐藤由依!」
「よろしくお願いします」
由依も頭を下げた。
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
澄玲が微笑む。
「ふーん。ルクスって言ったっけ?なかなかかわいいじゃん!」
「だよね!?まぁ世界一かわいいボクには及ばないけど!」
「いや、私をかわいいと言われても困るのだが……」
「ルクスもかわいいよ!」
「璃音、今はそういう話をしている場合ではない!」
「えー?」
そのやり取りに、澄玲と麗華が小さく笑う。
「ふふっ。皆さん、とても仲がよろしいのですね」
「とーぜん! ボクとルクスは最強コンビだからね!」
そのときだった。
公園の奥で、遊んでいた子供の一人が足を止める。
「……あれ?」
子供の視線の先では、公園の街灯が一度、ちらりと明滅していた。
風は吹いていない。
それなのに、木々の枝が不自然に揺れている。
「……何か、おかしいですわね」
麗華が空を見上げた。
その直後、木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ。
「……アルバ?」
澄玲が小さな白鳥に目を向ける。
アルバは先ほどまでの明るい表情を消し、地面の方をじっと見つめていた。
「……ねえ、澄玲。ちょっと変だよ」
「ええ。わたしも感じます」
ルクスもバッグから飛び出し、周囲を警戒する。
「これは……魔力反応なのだ」
「また、あの不思議な魔力……?」
由依が尋ねる。
「似ている。だが、先ほどまで感知していた反応とは少し違う」
「違うって、どういうこと?」
璃音が聞き返す。
「まだ分からない。だが、少なくとも単純な禍獣の魔力ではない」
そのとき、地面が小さく揺れた。
ピシッ。
足元に細い亀裂が走る。
「きゃっ!」
近くにいた子供が驚いて声を上げた。
「皆様、こちらへ!」
麗華がすぐに立ち上がり、子供たちへ声をかける。
「公園の外へ避難してくださいませ! 慌てず、ゆっくりと!」
「こっちだよ! 大丈夫だからね!」
由依も子供たちのもとへ駆け寄り、出口へ誘導する。
「お母さんのところまで一緒に行こうね!」
「うん!」
「璃音さん、こちらはわたくしたちに任せてくださいませ!」
「分かった! 由依も気をつけて!」
「うん!」
璃音は公園の中央へと向き直る。
地面の亀裂は少しずつ広がっていた。
「ルクス、何が起きてるの?」
「地中から魔力が集まっている……! 何かが地上へ出てこようとしているのだ!」
「アルバ、これは……?」
澄玲が尋ねる。
「うん。地面の下から、嫌な魔力が近づいてる!」
麗華は避難する人々を確認し、澄玲のそばへ戻った。
「澄玲、準備を!」
「はい!」
地面が大きく盛り上がる。
次の瞬間、公園の中央に大きな裂け目が生まれた。
そこから、黒い触手のようなものが伸びてくる。
「来るよ!」
アルバの声と同時に、地面が大きく砕けた。
現れたのは、異様な形をした禍獣だった。
複数の触手を持ち、全身を覆う外殻は鈍い光を放っている。
「禍獣……!」
由依が息を呑む。
「皆、下がるのだ!」
ルクスが叫ぶ。
禍獣の触手が地面を叩き、砂埃が舞い上がった。
「ここはわたくしたちにお任せくださいませ!」
麗華は一歩前に出ると、ドレスの裾を整えた。
その堂々とした姿に、璃音は思わず目を輝かせる。
「麗華ちゃん、もしかして……!」
「おーっほっほっほ!このわたくしにかかれば、あのような相手など恐れるに足りませんわ!大切なものを守るためなら、わたくしは決して退きません!」
麗華は禍獣を見据え、優雅に手を掲げた。
「さあ、澄玲。準備はよろしいですわね?」
「ええ、いつでも」
「……え?」
璃音が首を傾げる。
麗華は振り返り、澄玲に向けて手を差し伸べた。
「行きますわよ、澄玲」
「はい、麗華様」
澄玲が静かに頷く。
次の瞬間、アルバが澄玲の肩へ飛び乗った。
「よーし! あたしの出番だね!」
「ええ。お願いします、アルバ」
白い光が二人を包み込む。
澄玲の銀色の髪が光を受けて揺れ、白と淡いラベンダーを基調としたドレスへと姿を変えていく。手には、優美な装飾を施された魔法の銃が現れた。
「この胸に宿る、揺るがぬ想いよ。
白き翼よ、わたしに勇気を。
守りたい人がいる。
共に歩みたい人がいる。
だから、わたしは迷わない。
大切な人の隣に立つために、
希望の光を、今ここに!」
「魔法少女、エルシア・セレスティア。参ります!」
「……なるほど。魔法少女はそちらだったのだな」
ルクスが小さく呟く。
「えっ!? 澄玲ちゃんが魔法少女だったの!?」
璃音が驚きの声を上げた。
「ふふっ。驚かれましたか?」
澄玲は少しだけ頬を緩める。
「まさか、麗華ちゃんじゃなくて澄玲ちゃんだったなんて……!」
「おーっほっほっほ!当然ですわ! わたくしは澄玲を支える役目ですもの!」
「麗華様、あまり大きな声を出すと、敵に気づかれてしまいますよ」
「……こほん。失礼いたしましたわ」
「……変身前から随分と息が合っているのだな」
ルクスの言葉に、アルバが得意げに胸を張る。
「そりゃそーだよ!うちらは最強トリオなんだから!」
その様子を見て、璃音はにっこりと笑った。
「えへへ! なんだか面白い3人だね!」
「お話は後にしましょう。今はあの禍獣を止めなくては」
エルシアが銃を構える。
「うん! ボクも負けてられないよ!」
璃音は禍獣から少し離れた場所へ移動し、光に包まれる。
「世界一のかわいさに、きらめく勇気を!
星の輝きよ、ボクの剣に宿れ!
みんなの笑顔を守るため、奇跡の光よ、今ここに!」
「魔法少女ルミナ・セレスティア、ここに参上!」
「何故なら、ボクは世界で一番かわいいから!」
「……相変わらず、口上の長さだけは一人前なのだ」
「そこがいいんでしょ!」
ルミナは胸を張り、聖剣を構えた。
「さあ、いくよ!」
禍獣が触手を振り回す。
ルミナは身を翻して攻撃をかわし、聖剣で触手を弾き返した。
「わっ、と! もう、しつこいなあ!」
触手が地面を叩く。
ルミナはその隙を見て懐へ飛び込むが、外殻に剣を弾かれてしまう。
「わわっ!?」
「ルミナさん、無理に近づいては危険です!」
エルシアが魔力弾を放つ。
しかし、弾丸は外殻に当たると、弾かれるように軌道を変えて地面へ落ちた。
「……魔力を反射している?」
「そうみたいだね。普通に撃っても通らないっぽい!」
アルバが敵を見つめる。
「エルシア、あの外殻をよく見て! 魔力が表面を巡ってる!」
「はい。攻撃を受け流す仕組みのようですね」
「なら、そこを崩せばいいんだね!」
ルミナは再び触手をかわし、敵の動きを観察する。
「でも、どうやって……?」
「少しお待ちくださいませ!」
麗華が敵の動きをじっと見つめる。
触手が地面を叩くたび、外殻の魔力がわずかに揺らいでいた。
「……分かりましたわ!」
麗華がエルシアを振り返る。
「エルシア!属性を指定しますわ! 風と雷ですわ!」
「風と雷……!」
「風で弾丸を加速させ、雷で外殻の魔力を乱しますの! 右肩の付け根、そこが防御の薄い部分ですわ!」
「分かりました!」
澄玲はシリンダーを開き緑と紫の弾丸を装填、回転させ構え直す。
「アルバ、魔力を!」
「りょーかい! 澄玲、集中して!」
銃身に風の魔力が渦巻き、続いて紫電が幾重にも絡みつく。
異なる二つの属性が反発しながらも、澄玲の魔力制御によってひとつの弾丸へと収束していった。
「《プリズム・アーツ》……!」
「今ですわ、エルシア!」
「《ライトニング・レイヴン》!」
放たれた弾丸は風をまとって加速し、雷の閃光とともに禍獣の右肩を撃ち抜いた。
「グギャアアアッ!」
禍獣が大きくのけぞる。
「やった!」
由依が声を上げる。
「いい感じじゃん! エルシア!」
アルバも嬉しそうに翼を広げた。
しかし、禍獣は倒れない。
傷ついた外殻が蠢き、再び魔力を集め始めた。
「再生している……!」
ルクスが険しい表情を浮かべる。
「傷を受けた部分を補修しているのだ。長引かせるのは危険だぞ」
「そんな……!」
「大丈夫ですわ。今の攻撃で、あの外殻の仕組みは分かりましたもの」
麗華は落ち着いて敵を見つめる。
「エルシア!もう一度ですわ! 今度は火と光を組み合わせますの!」
「火と光……?」
「ええ! 火で再生のための魔力を焼き、光でその魔力の流れを断ち切りますわ! 狙うのは胸部中央。そこが再生の起点です!」
「分かりました。麗華様を信じます」
麗華の表情が、ほんの少しだけ和らぐ。
そのとき、禍獣の触手がエルシアへ向かって伸びた。
「エルシア、危ない!」
ルミナが飛び込み、聖剣で触手を受け止める。
「うわっ……! こっちはボクに任せて!」
「ルミナさん!」
「今のうちに準備して! ボクがこいつを引きつけるから!」
ルミナは触手を弾き、禍獣の周囲を駆け回る。
「ほらほら! こっちだよ!」
触手がルミナを追いかけ、敵の胸部が露わになった。
「エルシア、今ですわ!」
澄玲はシリンダーに赤と金の弾丸を装填、回転させ構え直す。
火の魔力が弾丸を包み込み、光の魔力がその中心に凝縮される。
「《プリズム・アーツ》……!」
「エルシア、あなたならできますわ!」
「はい……!」
エルシアは銃を構え、照準を敵の胸部へと合わせた。
「大切な人の隣に立つために……!」
「今ですわ!」
「《プリズム・ヴァニッシュ》!」
放たれた弾丸は、まばゆい光をまとって禍獣の胸部へと突き刺さる。
次の瞬間、内部で火の魔力が弾け、光の魔力が禍獣の魔力の流れを断ち切った。
「グオオオオオッ!」
禍獣の全身に亀裂が走り、黒い光となって砕け散っていく。
やがて、公園には静けさが戻った。
「……やりましたわね!」
麗華がエルシアのもとへ駆け寄る。
「はい。麗華様のおかげです」
「ふふっ。当然ですわ!」
「エルシア、めっちゃよかったじゃん!」
アルバが嬉しそうに澄玲の周囲を飛び回る。
「ありがとうございます。アルバも」
「えへへ!」
ルミナも聖剣を収め、二人のもとへ歩いてきた。
「すごいね、澄玲ちゃん! それに麗華ちゃんも!」
「ありがとうございます。璃音さんが敵を引きつけてくださったおかげです」
「えへへ! まあね! 世界一かわいいボクがいなかったら、あんなに上手くいかなかったかも!」
「ふふっ。そうかもしれませんわね」
麗華が微笑む。
「……あの技、麗華の分析力と澄玲の魔力制御があってこそ成立しえる技なのだな」
ルクスが口を開いた。
「異なる属性を組み合わせ、敵の性質に合わせて攻撃を変える。あの技術は興味深い」
「《プリズム・アーツ》と申します。複数の属性を持つ弾丸を組み合わせることで、相手に合わせた魔力弾を作り出す技能です」
澄玲が説明する。
「ですが、どの属性を組み合わせるか、どこを狙うかを判断するのは簡単ではありません。麗華様の分析がなければ、あの攻撃はできませんでした」
「エルシアの力を最大限に引き出すこと。それがわたくしの役目ですわ!」
「……二人で一つ、というわけか」
「はい。麗華様は、わたしにとって大切な人ですから」
麗華は澄玲を見つめる。
「わたくしは、あなたの隣に立つために」
「……澄玲」
澄玲は少しだけ目を伏せ、それから胸を張った。
「わたしは、あなたを守るために」
二人は互いに微笑み合う。
その様子を見ていたルミナは、にこにこと笑った。
「えへへ。二人とも仲良しだね!」
「当然ですわ!」
「ふふっ。」
一方、由依は少し離れた場所からアルバを見つめていた。
「……アルバちゃん」
「ん? なーに?」
「さっき、わたしのことを見ていたよね?」
「あー……うん。なんか、ちょっと気になっちゃって」
「気になる?」
「うーん。なんて言えばいいんだろ。由依って、なんか不思議な感じがするんだよね」
アルバは首を傾げる。
「でも、あたしにもよく分かんないや!」
「そうなんだ……」
由依は不思議そうに自分の手を見つめた。
ルクスもまた、由依の様子を見ていたが、何も言わなかった。
◯街の公園・人目のない場所/夜
公園から少し離れた木々の陰。
そこには、先ほどの戦いを見つめていた何者かの影があった。
「……なるほど」
影は、禍獣が消えた場所を見つめる。
「新たな魔力。そして、もう一つの条件……」
その声は、夜の闇に静かに溶けていった。
「これで、また一歩近づいた」
影が消えると、そこには誰も残っていなかった。
「ふふん! 次のお休みは、わたくしたちが皆さんをおもてなしして差し上げますわ!」
「えっ、おもてなし? それならボクだって負けないよ!」
「澄玲、あたしたちの腕の見せどころじゃん!」
「……アルバ、あまり騒がしくしないでくださいね」
「料理にお菓子に、楽しいおしゃべり! 今日はみんなで思いっきり遊んじゃおう!」
「次回、魔法少女ルミナ・セレスティアは世界一かわいい!
第6話『お嬢様のおもてなし!今日はみんなでお茶会ですわ!』」
「次回も、ボクのかわいさに注目してね!」




