第3話「契約照合で大ピンチ!? 世界一かわいいボクの秘密!」
○佐藤家・リビング/夕方
窓から夕日が差し込む佐藤家のリビング。
テーブルの上には、ルクスが用意した小さな魔法陣が浮かび上がっている。
その前で、璃音は落ち着かない様子でそわそわしていた。
「ねえ、本当に今日やるの?」
「昨日、私がそう告げたはずなのだ。契約を結んだ以上、状態を確認するのは当然であろう」
「そ、そうだけどさ……」
「大丈夫だよ。昨日もちゃんと変身できてたし、戦いだって問題なかったじゃない」
「そ、それはそうだけど……!」
璃音は由衣の言葉に頷きながらも、魔法陣をちらちらと見つめる。
昨日の特訓では、魔力の制御に苦戦したものの、最後には自分の力で攻撃を操れるようになった。
しかし、今日の確認は別問題だった。
(もし、男の子だって分かっちゃったら……)
ルクスは、男の子が魔法少女の契約を結ぶことは禁忌だと言っていた。
そして、その禁忌を犯した者は、聖獣自身の手で処刑しなければならない。
もちろん、ルクスは璃音が男の子だとは知らない。
だからこそ、今回の確認が怖かった。
「では、始めるぞ。璃音、魔法陣の中央に立つのだ」
「う、うん……」
璃音は恐る恐る魔法陣の中央に立つ。
ルクスが角を光らせると、魔法陣が淡い光を放ち、璃音の身体を包み込んだ。
「契約者の魔力を確認する。契約の接続状態、魔力の安定性、聖獣との同調率……」
魔法陣の光が少しずつ強くなる。
璃音は思わず目を閉じた。
(お願い……! 何も出ないで……!)
やがて光が収まり、魔法陣の上にいくつかの文字が浮かび上がった。
「ふむ。問題ないようだな」
「ほ、本当!?」
「契約は安定している。魔力の流れにも異常はない。昨日の戦闘による負荷も、許容範囲内だ」
「よ、よかったぁ……!」
璃音はその場にへたり込んだ。
「そんなに心配してたの?」
「だ、だって!何が分かるか分からないじゃない!」
「何が分かるか、とはどういう意味なのだ?」
「えっ?」
ルクスが首を傾げる。
「今回の照合は、魔力と契約の状態を確認するためのものだ。身体的な特徴を調べる機能などないぞ」
「…………え?」
「契約の成立条件は契約時に満たされているものとして扱われるからな」
「そ、そうなんだ……」
璃音の表情が固まる。
「つまり、最初からそんなことは調べていないのだ」
「そ、そういうことは先に言ってよぉ!」
「聞かれなかったからな」
「聞けるわけないでしょ!」
思わず声を荒らげる璃音。
由衣は苦笑しながら、そんな二人を見守っていた。
「でも、これでひとまず安心だね」
「うん……。まあ、契約が安定してるならよかったよ」
「何をそんなに慌てていたのか、ますます分からなくなったのだが……」
「な、何でもない!」
璃音は慌てて顔を背けた。
ルクスは少しだけ不思議そうに首を傾げたが、それ以上追及することはなかった。
○佐藤家・キッチン/夕方
契約照合が終わり、ようやく一息ついた三人。
璃音はキッチンへ向かうと、エプロンを手に取った。
「よーし!じゃあ、次はボクの出番だね!」
「何をするつもりなのだ?」
「ごはんを作るの!昨日から由依には色々お世話になってるし、お礼くらいしないとね!」
「えっ、璃音が作ってくれるの?」
「とーぜん!ボク、料理も得意なんだから!」
璃音は自信満々に胸を張る。
「それなら、私も手伝うよ」
「いいよ。今日はボクに任せて!」
「でも……」
「由衣は座ってて!今日くらいはボクにかっこいいところを見せさせてよね!」
「ふふっ。分かった」
由衣がリビングへ戻るのを見届けると、璃音は手際よく調理を始めた。
卵を割り、ボウルに入れて丁寧に混ぜる。
フライパンを温め、バターを溶かす。
その隣では、野菜を切りそろえ、スープの準備も進めていた。
「ふむ。なかなか手際がよいな」
「でしょ?料理は段取りが大事なんだよ!」
「魔法の訓練でも、そのように落ち着いて取り組めばよいのだがな」
「うっ……!い、今は料理の話をしてるの!」
ルクスの指摘に、璃音は少しだけ頬を膨らませた。
やがて、キッチンには卵とバターの香ばしい匂いが広がっていく。
「はい、完成!世界一かわいいオムライスだよ!」
テーブルに並べられたのは、ふんわりとした卵に包まれたオムライス。
オムライスにはケチャップでルクスのイラストが描かれていた。
添えられたサラダと野菜スープも、彩りよく盛り付けられている。
「わあ……!すごくおいしそう!それにかわいい!」
「えへへ!見た目も大事だからね!」
「これは私か?料理までできるとは、なかなか器用なものだな」
「ふふん!世界一かわいいボクにできないことなんてないんだから!」
三人は席につき、食事を始める。
由衣は一口食べると、ぱっと表情を明るくした。
「おいしい!卵がふわふわだね!」
「でしょ?火加減が大事なんだよ!」
「うむ。悪くない」
「悪くないじゃなくて、おいしいって言ってよ!」
「……おいしい、という評価で問題ない」
「最初からそう言えばいいのに!」
璃音は満足そうに笑う。
由衣も、そんな璃音を見て嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。璃音」
「えへへ! どういたしまして!」
いつもなら騒がしい食卓も、今日はどこか穏やかだった。
○佐藤家・リビング/夜
食事を終え、食器を片付けた三人。
由衣は温かいお茶を用意し、テーブルに並べた。
「ねえ、ルクス」
「何だ?」
「私も、いつか魔法少女になれるのかな?」
その言葉に、璃音が由衣の方を向く。
ルクスは少し考えるように目を伏せた。
「可能性はある。だが、私と由衣が契約を結ぶことはできない」
「やっぱり、そうなんだね」
「聖獣一体につき、契約できる人間は一人だけなのだ。私と璃音の契約が続いている限り、私が別の人間と契約することはできない」
「じゃあ、別の聖獣を探せばいいの?」
「そうなる。だが、聖獣との出会いは簡単なものではない。互いに認め合い、契約を結ぶ意思を確認する必要がある」
「そっか……」
由衣は少しだけ考え込む。
「それに、魔法少女になるということは、戦いに身を置くということでもある。力を得るだけでは済まない。自分の選択に責任を持つ覚悟が必要なのだ」
「うん。分かってる」
由衣は静かに頷いた。
璃音は、そんな由衣を見つめる。
「でも、由衣が魔法少女になったら、ボクは嬉しいよ!」
「本当?」
「もちろん!一緒に戦える仲間が増えるんだもん!」
「ありがとう」
「ただし!」
璃音は人差し指を立て、少しだけ真剣な表情になる。
「危ないことをする時は、ちゃんと相談してね。ボクだって、由衣に怪我してほしくないんだから」
「それは璃音にも言えることだよ」
「えっ?」
「璃音だって、無茶をしないでね。昨日の訓練だって、最後はかなり疲れてたでしょ?」
「うっ……。あ、あれはちょっと頑張りすぎただけ!」
「そういうところだよ」
由衣は困ったように笑う。
「お互いに、ちゃんと相談すること。約束ね」
「……うん。約束!」
璃音は小指を差し出した。
由衣もその指に自分の小指を絡める。
「ふむ。人間というものは、そうやって約束を交わすのだな」
「ルクスも一緒に約束する?」
「私は聖獣だぞ。契約者を守るのは当然の責務なのだ」
「じゃあ、約束しなくても守ってくれるんだね!」
「当然だ」
「えへへ!頼りにしてるよ!」
ルクスは少しだけ胸を張った。
○佐藤家・リビング/夜・その後
三人の会話がひと段落し、瑠音が帰宅しようとした頃。
突然、ルクスの角が淡く光った。
「……む?」
「どうしたの?」
ルクスは窓の外へ視線を向ける。
「今、何かを感じた」
「禍獣?」
「いや……違う」
ルクスは目を細めた。
「禍獣の気配とは異なる。微弱だが、確かに魔力の反応があった」
「それって、どういうこと?」
「まだ分からぬ。すぐに危険が迫っているというわけではないようだが……」
ルクスはしばらく外を見つめていた。
やがて光は消え、いつもの静かな夜が戻ってくる。
「……今は様子を見るしかないな」
「そっか……」
璃音は少し不安そうに窓の外を見た。
「ねえ、ルクス。その反応って、もしかして他の魔法少女だったりするの?」
「可能性は否定できない。だが、断定するには情報が足りぬ」
「そっか。じゃあ、いつか会えるかもしれないんだね」
由衣は窓の外を見つめながら、小さく呟いた。
「私も、いつか……」
その言葉に、璃音は由衣の隣へ並ぶ。
「大丈夫だよ。由衣ならきっとなれるって!」
「ふふっ。ありがとう」
「その時は世界一かわいい魔法少女であるボクが先輩として、いろいろ教えてあげるからね!まずはかわいい衣装の考え方から〜」
「まずは自分の魔力をきちんと制御できるようになってからだな」
「ルクスは一言多いの!」
由衣の笑い声が、静かな部屋に響いた。
三人で過ごす新しい日常。
その先に何が待っているのか、まだ誰にも分からない。
けれど、璃音は確かに思っていた。
由衣とルクスが一緒なら、きっと何とかなる。
なんと言っても自分は世界一かわいい魔法少女なのだから。
次回予告
「ねえ、ルクス!この前の魔力反応、また感じたの?」
「うむ。今度は前よりもはっきりしている」
「えっ、それって何か大変なことが起きるってこと?」
「まだ分からぬ。だが、何かが動き始めているのは確かなようだ」
「ふーん……。じゃあ、ボクたちも調べに行こうよ!」
「待て、璃音!不用意に動くのは危険なのだ!」
「大丈夫、大丈夫!ボクに任せて!」
「その自信が一番心配なんだけど……!」
第4話「街に潜む不思議な光!? 新しい出会いの予感!」
「次回も、ボクのかわいさに注目してね!」




