第2話「バレたら即処刑!? 秘密の魔法少女生活!」
〇佐藤家・リビング/朝
朝の光が差し込むリビング。
テーブルの上には、由衣が用意した紅茶と焼き菓子が並んでいた。
ソファの真ん中では、璃音がクッションを抱きしめながら、満足そうに足を揺らしている。
「ふふん……やっぱり、かわいいものに囲まれる生活って最高だよね!」
「璃音、それ、わたしが座ろうと思ってたクッションなんだけど……」
「えーっ!でも、ボクが持ってるほうがかわいくない?」
「クッションに聞いてみたら?」
「クッションはしゃべれないもん!」
テーブルの上に座っていた白いユニコーン――ルクスが、呆れたようにため息をつく。
「……朝から何をしているのだ、貴様らは」
「何って、くつろいでるんだよ!」
「今日は訓練を行うと言ったはずだ。遊びに来たのではない」
「うっ……そ、そうだった……」
「そういえば、どこで訓練するの?ここだと、ご近所さんに見られちゃうよね」
「当然だ。魔力の制御を誤れば、周囲に被害が出る可能性もある。ここで行うわけにはいかぬ」
「じゃあ、どうするの?」
「私が見つけておいた場所がある。町外れの廃倉庫だ。以前は資材置き場だったらしいが、今は使われていない」
「そんな場所があるんだ……」
「周囲に人家も少なく、訓練には都合がよい。もっとも、廃墟である以上、足元には注意が必要だがな」
「廃倉庫かぁ……! なんだか秘密基地みたい!」
「秘密基地って……」
「だって、魔法少女の秘密基地だよ!? かっこいいじゃん!」
「遊び場ではないぞ」
「分かってるってば!」
「……本当に分かっているのか?」
「とーぜん!何故なら、ボクは世界で一番かわいいから!」
「その理屈は、いつ聞いても理解できぬのだが……」
由衣は二人のやり取りを見て、くすりと笑った。
「じゃあ、準備ができたら出発しようか」
「うん!いざ、秘密基地へ!」
「……先が思いやられる」
〇郊外・廃倉庫/午前
町外れの道路から少し離れた場所。
錆びたシャッターを開けると、広い倉庫の内部が姿を現した。
床には薄く埃が積もり、壁際には使われなくなった木箱が並んでいる。天井の一部から差し込む光が、静かな空間を照らしていた。
「おおおーっ!本当に秘密基地みたい!」
「声、大きいよ、璃音……」
「だって、こんな場所で魔法少女の訓練ができるなんて、ワクワクするじゃん!」
「浮かれている暇はない。ここなら多少の魔力が漏れても人目につきにくいが、無制限に力を使ってよいわけではないぞ」
「はーい!」
「……返事だけは一人前だな」
ルクスは倉庫の中央まで進み、璃音に向き直った。
「訓練を始める前に、まずは変身時の動作を確認する」
「変身時の動作?」
「戦闘では、変身に時間をかけるほど不利になる。必要なときに、即座に変身できるようにしておくべきだ」
「なるほど!じゃあ、見ててね!」
璃音は一歩前に出て、剣を掲げる。
「世界一のかわいさに、きらめく勇気を!」
ピンク色の光が、璃音の周囲に舞い始める。
「星の輝きよ、ボクの剣に宿れ!」
光が弾け、髪が長いツインテールへと変化する。
「みんなの笑顔を守るため、奇跡の光よ、今ここに!」
フリルのドレスが花開くように広がり、白とピンクの衣装が光をまとって完成する。
最後に、光の粒子が一本の剣へと集まった。
「魔法少女ルミナ・セレスティア、ここに参上!」
「何故なら、ボクは世界で一番かわいいから!」
ルミナはお馴染みの言葉と共に完璧な決めポーズを取る。
「……うん。やっぱり、かわいいね」
「えへへ! でしょー!」
「…………」
「……あれ?ルクス?どうしたの?」
「今の変身に、十二秒もかかったのだが」
「うん!」
「変身そのものは一瞬で完了できる。口上を唱える必要も、あのような演出を加える必要もない」
「えっ」
「なぜ、わざわざ時間をかけた?」
「だって、魔法少女といったらかわいい変身でしょ!」
「必要ないと言っているのだ!」
「必要あるもん!変身は一番大事な見せ場なんだよ!」
「敵が目の前にいるときにも同じことをするつもりか!?」
「そ、それは……状況に応じて考えるよ!」
「今すぐ考えを改めろ!」
「でも、わたしは好きだよ?その変身口上」
「ほらーっ!由衣は分かってる!」
「由衣、貴様まで甘やかすな!」
ルミナは満面の笑みで剣を掲げた。
「ふふん!これが、世界一かわいい魔法少女の流儀なのだ!」
「……先が思いやられる」
〇郊外・廃倉庫/午前・訓練開始
ルクスは、床に置かれていた空き缶を指し示した。
「では、訓練を始める。まずは魔力制御だ。魔法少女の力は、ただ強ければよいというものではない。必要な力を、必要なだけ使う。それが基本なのだ」
「ふーん。つまり、狙ったところに魔法を当てればいいんでしょ?」
「それだけではない。出力を一定に保ち、無駄な魔力を消費しないことも重要だ」
「分かった分かった!見ててね!」
ルミナは剣を構える。
剣先にピンク色の光が集まっていく。
「待て。魔力を込めすぎだ」
「えっ?」
次の瞬間、光が弾けた。
空き缶が吹き飛び、その後ろに積まれていた木箱まで倒れる。
「……えへへ。ちょっと、張り切りすぎちゃった?」
「ちょっとではない!標的だけを狙えと言ったはずだぞ!」
「で、でも、威力はすごかったでしょ?」
「威力だけで戦いに勝てるなら、訓練など必要ないのだ!」
「うぅ……」
「大丈夫だよ。最初から完璧にできる人なんていないんだから」
「由衣……」
「もう一回やってみよう。今度は少しずつ力を込めていけばいいと思う」
ルミナは一度深呼吸し、再び剣を構えた。
「……よし。今度こそ!」
剣先に、小さな光が集まる。
ルミナは慎重に狙いを定め、光を放った。
光弾は空き缶に命中し、缶を数メートル先まで転がした。
「えへへ!どう?ボクって天才!」
「……今のは及第点だ。だが、まだ出力が安定していない」
「えーっ! そこは褒めるところでしょ!」
「褒めている。調子に乗るなと言っているのだ」
「むぅーっ!」
由衣は笑いながら、倒れた木箱を元の場所へ戻し始めた。
「でも、さっきよりずっと上手になったよ」
「でしょでしょ!もっと褒めてくれてもいいんだよ!」
「……貴様は褒めるとすぐ調子に乗るな」
「褒められたら嬉しいのは当然でしょ!」
〇郊外・廃倉庫/午後
訓練を再開したルミナは、剣を構えながらルクスの指示を聞いていた。
「魔力を剣に集中させるのだ。身体全体に力を巡らせるのではなく、必要な場所にだけ流す」
「うーん……こう?」
剣の周囲に光が集まる。
「そうだ。その状態を保て」
「……っ、けっこう難しいね、これ……!」
「ルミナ、頑張って!」
「うん……!」
しばらくすると、剣の光が揺らぎ始めた。
「わっ、わわっ!」
光が弾け、剣から小さな火花が散る。
「力を入れすぎだ。呼吸を整えろ!」
「うぅ……!」
ルミナは悔しそうに唇を尖らせた。
「……ボク、もっと簡単にできると思ってた」
「……」
「魔法少女になったら、もっと何でもできると思ってたんだ。昨日だって勝てたし……」
「一度勝てたからといって、すべてを理解したことにはならぬ。相手が違えば、戦い方も変わる」
「……分かってるよ」
ルミナは剣を見つめる。
「……でも、ボクは強くなりたいんだ」
「うん」
「せっかく魔法少女になれたんだもん。かわいいだけじゃなくて、ちゃんとみんなを守れるようになりたい。
勿論、由依の分もね!」
由衣は静かに頷いた。
「……璃音なら、きっとなれるよ」
「……えへへ。とーぜん!」
ルミナはもう一度剣を構える。
今度は、力を込めすぎないように意識した。
剣先に集まった光が、先ほどよりも安定する。
「……そうだ。その感覚を忘れるな」
「よしっ! 次はもっと上手にやってみせるから!」
「頑張って、璃音!」
そのときだった。
ルクスの角が、突然強く輝き始めた。
「……む?」
「どうしたの?」
「禍獣の反応だ。場所は……商店街付近!反応の規模は大きくないようだが、放置はできぬ。現場へ向かうぞ」
ルミナは剣を握り直した。
「……分かった!今度は、ちゃんと訓練の成果を見せてあげる!」
「わたしも行く!」
「由衣、貴様はまだ契約者ではない。無理はするな」
「分かってる。でも、できることがあるなら手伝いたいの」
「うん!由衣はボクのサポートをお願い!」
「……うん!」
「よーし!世界一かわいい魔法少女の出番だよ!」
「その前に、変身口上を短くする訓練も必要だな」
「それは絶対にイヤーッ!」
〇商店街・路地/午後
商店街の一角。
人々が逃げ惑う先に、黒い靄をまとった異形の怪物――禍獣が立っていた。
その身体は獣のようでありながら、ところどころが歪に膨らみ、黒い甲殻に覆われている。
「うわぁ……! 近くで見ると、やっぱり怖いね……!」
「怖いのなら、なおさら慎重に動くのだ。相手の動きをよく見ろ」
「わ、分かってるよ!」
禍獣が咆哮を上げ、ルミナへと突進する。
「きゃっ!」
ルミナは横へ飛び退き、剣で攻撃を受け流す。
金属音のような音が響き、禍獣の爪が地面をえぐった。
「うわわっ!あっぶなーい!」
「騒いでいる暇があれば、相手を観察しろ!」
「分かってるってば!」
禍獣が再び飛びかかる。
ルミナは今度こそ落ち着いて相手の動きを見極め、紙一重で攻撃をかわした。
そして、すれ違いざまに剣を振るう。
「えいっ!」
斬撃が禍獣の身体を切り裂く。
しかし、傷口から黒い靄が噴き出すと、肉体がうごめき、傷が少しずつ塞がっていく。
「ええっ!? せっかく斬ったのに!」
「再生能力か。力任せに攻撃しても、決着はつかぬようだな」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「観察しろと言ったはずだ。再生の仕組みを見極めるのだ」
ルミナは禍獣から距離を取り、動きを観察する。
傷が塞がるたび、胸部にある黒い結晶が明滅していた。
「……あっ! もしかして、あそこが再生の中心?」
「その可能性はある。試してみる価値はあるだろう」
禍獣が再び突進する。
ルミナはあえて攻撃を誘い、直前で身をひねってかわした。
そして、禍獣の胸元へ剣を突き出す。
「そこだぁっ!」
剣先が黒い結晶を捉えた。
結晶に亀裂が走り、禍獣の動きが止まる。
「やった! これで――」
しかし、結晶は完全には砕けていなかった。
禍獣は苦しげに身をよじり、最後の力を振り絞るように腕を振り上げる。
「まだだ!とどめを刺せ!」
「言われなくても!」
ルミナは剣を両手で握り直す。
剣身に、星屑のような光が集まっていく。
「世界一のかわいさに、きらめく勇気を!」
「また口上を始めたぞ!?」
「星の輝きよ、ボクの剣に宿れ!」
「今は戦闘中だと言っているだろう!」
「みんなの笑顔を守るため、奇跡の光よ!今ここに!」
「ルミナ、頑張って!」
「とーぜん!」
剣がまばゆい光を放つ。
「ルミナス・シューティングスタースラッシュ!」
星の軌跡を描く一閃が、禍獣を切り裂いた。
黒い結晶が砕け散り、禍獣の身体は光の粒子となって消滅する。
「……やったぁ!」
「すごい、ルミナ!」
「えへへ!見た?ボクの大活躍!」
「……威力は申し分ない。だが、やはり口上が長すぎる」
「そこは褒めるところでしょーっ!」
〇商店街・路地
戦闘が終わり、人々が少しずつ戻ってくる。
「ふぅ……。やっぱり、実戦は緊張するね」
「でも、さっきより落ち着いて戦えてたよ」
「でしょ? ボク、ちゃんと成長してるんだから!」
「魔力制御については改善が見られた。相手の特徴を観察した点も評価できる」
「えへへ! もっと褒めていいんだよ!」
「ただし、戦闘中の口上は改善の余地がある」
「そこはもういいでしょーっ!」
由衣は笑いながら、ルミナの肩についた埃を払った。
「ねえ、璃音。そろそろ帰ろう?」
「うん!」
光が弾け、璃音はいつもの姿へと戻った。
「ふぅ……。やっぱり、こっちのほうが落ち着くね!」
「お疲れさま、璃音」
「さて、今日の訓練と戦闘については、ひとまずここまでだ」
「やったぁ!これで帰れるね!」
「ただし、契約者としての状態については、まだ確認が必要だ」
「……えっ?」
「明日、契約情報の照合を行う。魔力の流れや、聖獣との接続状態を調べるのだ」
「え、ええええっ!?あ、明日!?」
「何か問題でもあるのか?」
「な、ないよ!ぜーんぜん、ない!」
由衣は璃音の様子を見て、小さく息をのむ。
「……璃音」
「な、何?」
「……大丈夫。わたしも一緒に考えるから」
「由衣ぃ……!」
「……やはり、二人とも何か隠しているな?」
「「っ!」」
ルクスは二人をじっと見つめる。
「まあよい。明日、確認すれば分かることだ」
璃音は、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「そ、そうだね……あはは……」
〇璃音の部屋/夜
璃音は枕を抱えて、ベッドの上を転がっていた。
「ど、どうしよう……!契約情報を確認されたら、ボクが男の子だってバレちゃう……!バレたら……処刑……!?やだやだやだ! ボク、まだ死にたくないよぉ……!」
枕に顔を埋める璃音。
「……でも、由衣との約束もあるし……魔法少女も続けたいし……」
璃音は、ゆっくりと顔を上げた。
「……大丈夫。ボクは世界一かわいいんだから。きっと、何とかなるよね……?」
自分に言い聞かせるように呟く。
「……うん。何とかなる、何とかなる……!」
〇佐藤家・リビング/同時刻
ルクスは静かに目を閉じていた。
「……あの二人、何かを隠している。
だが、いずれ分かることだ」
ルクスの角が、淡く光る。
「……明日、確かめるとしよう。」
「みんなーっ! 次回もボクの活躍に期待してね!」
「次回は、ルクスが契約情報の確認をするみたいだよ」
「えっ? そ、それって……!」
「契約者の情報確認に加え、魔法少女としての行動にも不審な点がある。次回こそ、徹底的に調べさせてもらうぞ」
「ちょ、ちょっと待って!それは困るよーっ!」
「璃音、落ち着いて!」
「落ち着いていられるわけないでしょーっ!」
「次回、『契約照合で大ピンチ!? 世界一かわいいボクの秘密!』」
「次回も、ボクは世界一かわいいから!」
「……その前に、正体がバレないといいね」
「言わないでぇーっ!!」




