第1話 世界一かわいい魔法少女ルミナ・セレスティア登場!
朝、五時半。
街がまだ静かな時間に、天羽璃音は目を覚ました。
「んーっ!今日もいい朝!」
ベッドから飛び起き、カーテンを開ける。朝日が差し込む部屋で、璃音は大きく伸びをした。
洗顔、スキンケア、髪の手入れ。軽いストレッチを済ませたら、朝ごはんの準備だ。
焼きたてのトーストに、ふわふわのスクランブルエッグ。彩りを考えたサラダに、丁寧に淹れた紅茶。
母親の分も含めて食卓を整え、使った調理器具まで片づける。
それから、鏡の前へ戻った。
髪の流れを整え、頬に触れ、笑顔を確かめる。
「……うんっ! 今日もかわいい!」
満足そうにうなずいた。
天宮璃音。
成績優秀、運動神経抜群、料理も得意。何をやらせても一流の結果を出す少年である。
そして、本人には何よりも大切にしている信念があった。
自分こそが、世界で一番かわいい。
かわいい服が好き。かわいい小物が好き。自分をかわいく磨き上げることが大好き。
ただ好きなものを身につけるだけではない。自分に似合う服を研究し、体型を維持するために運動し、肌の手入れを欠かさず、かわいく見える仕草まで考えている。
努力を惜しまないからこそ、自信があるのだ。
「かわいいは才能!でも、努力も大事!えへへ、ボクってば完璧!」
そのとき、寝室の扉が開いた。
「……璃音?もう起きてたの?」
母親が、まだ眠そうな顔で廊下から顔を出した。
「おはよー、お母さん!朝ごはんできてるよ!」
「えっ、もう?いつもありがとうね」
「とーぜん!お母さんには元気でいてほしいもん!」
璃音は得意げに胸を張った。
「ちゃんと栄養も考えてあるからね!いっぱい食べて!」
「ふふっ、頼もしいわね」
母親が笑顔で食卓につく。
璃音はその姿を見届けてから、自分の部屋へ戻った。
お気に入りのリボンを選び、かわいらしい衣服で身を包み、鏡の前で最後の確認をする。
「よーし! 今日もかわいくいくぞー!」
準備を終えた璃音が玄関へ向かうと、ちょうどチャイムが鳴った。
「璃音ー! 起きてるー?」
「はーい!」
扉を開けると、幼馴染の佐藤由衣が立っていた。
「おはよう。……って、これまた朝から気合を入れてきたわね?」
「とーぜん!ボクを誰だと思ってるの?」
「自称・世界一かわいい人?」
「自称じゃなくてボクは世界一かわいいの!わかった?」
「自分で言わないの!」
由衣は呆れながらも笑っていた。
二人は幼いころからの付き合いだ。
璃音がどれだけ自分を褒めても、どれだけ大げさなことを言っても、由衣は驚かない。
彼の得意なことも、苦手なことも、わがままなところもよく知っている。
「ほら、学校に遅れるよ。行こっ!」
「はーい!あ、ちょっと待って!」
璃音は玄関に置いてあった小さなポーチを手に取った。
「よしっ、完璧!」
「……それ、何?」
「かわいいものを入れるポーチ!」
「中身は?」
「かわいいもの!」
「答えになってないわよ!」
二人は笑いながら、学校へ向かった。
放課後。
帰り道を歩いていた璃音は、由衣がいつもより静かなことに気づいた。
「ねえ、由衣。どうしたの?」
「えっ?何が?」
「なんか、いつもより元気ないよ?」
由衣は少し迷ったあと、口を開いた。
「……ねえ、璃音。魔法少女の噂って知ってる?」
「魔法少女?怪物を倒す女の子がいるっていう、あれ?」
「うん。最近、街で変な事件が増えてるでしょ?それに関係してるんじゃないかって」
ここ最近、街では不可解な事件が続いていた。
原因不明の爆発。突然壊される建物。
そして、目撃者たちが口をそろえて語る異形の怪物。
警察も調査を進めていたが、決定的な情報は得られていない。
「それでね……私、魔法少女になりたいと思ってるの」
「……えっ?」
璃音は足を止めた。
「由衣が?」
「うん」
「魔法少女に?」
「そうだよ」
「……へえーっ!」
璃音は目を輝かせた。
「すごい!魔法少女って、変身するんでしょ?キラキラしてて、かわいい衣装で、魔法も使えて……!」
「えっと……うん。そういう話もあるね」
「いいなあ! ボクも変身してみたい!」
「……璃音、話を聞いてる?」
「あっ、ごめん!」
璃音は慌てて口を閉じた。
由衣は少しだけ笑みを浮かべてから、前を向いた。
「私ね、昔、目の前で困ってる人がいたのに、何もできなかったことがあるの」
その声は、いつもより小さかった。
「危ないことが起きて、助けなきゃって思ったのに……怖くて、動けなかった。その人は無事だったけど、ずっと後悔してるんだ」
「……由衣」
「もし、また同じことが起きたら。もし、今度は誰も助けてくれなかったら……。そう考えると、何もできない自分が嫌になるの」
由衣は手をぎゅっと握った。
「だから、力が欲しい。誰かを守れる力が」
璃音は、いつもより真剣な顔で彼女を見つめた。
由衣は昔から努力家だった。
苦手なことから逃げず、誰かが困っていれば放っておけない。
その理由を、璃音は今まで詳しく知らなかった。
「……そっか」
璃音は由衣の顔を見た。
いつもは迷いなく話す彼女が、今日は少しだけ不安そうだった。
「だいじょうぶだよ、由衣!」
「えっ?」
「由衣は頑張り屋さんだもん!いつかきっと、なれるよ!」
由衣は目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「……ありがとう、璃音」
「えへへ!もっとほめてもいいんだよ!何故ならボクは世界一かわいいんだから!」
「はいはい」
二人は再び歩き始めた。
そのときだった。
「……ん?」
道端の植え込みから、小さな物音がした。
「今、何か聞こえなかった?」
「うん。猫かな?」
璃音が植え込みをのぞき込む。
そこにいたのは、白くて小さな生き物だった。
ふわふわの毛並み。大きな瞳。小さな翼。そして、額に生えた真珠のような角。
まるで、ぬいぐるみのようなユニコーンだった。
「……わぁっ!」
璃音の目が輝いた。
「ユニコーンだ!かわいいーっ!」
ユニコーンは、ぴくりと耳を動かした。
「……む?そなたたちは……」
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「私の名はルクス。魔法少女を導く使命を帯びた聖獣なのだ」
璃音と由衣は、顔を見合わせた。
「……しゃべった!?」
「……しゃべったね!?」
ルクスは堂々と胸を張った。
「驚くのも無理はない。だが、私はただの動物ではないのだ」
璃音はルクスの周囲をぐるぐる回った。
「ねえねえ、ルクス!すっごくかわいいね! ふわふわだし、おめめも大きいし、ちっちゃい羽もついてる!」
「……ふむ。私の姿を見て、そのような感想を抱くとは。そなた、なかなか見る目があるようだな」
「えへへ!でしょー!」
「ちょっと、璃音!今はそういう話じゃないでしょ!」
由衣が慌てて璃音を引き戻した。
ルクスは由衣の前へ移動した。
「さて……そなたが佐藤由衣で間違いないな?」
「えっ?どうして私の名前を?」
「私は、魔法少女となる素質を持つ者を探していたのだ。そなたには、誰かを守りたいという強い願いがある。その心を感じ取り、ここまで導かれた」
「……私が?」
「うむ。そなたは魔法少女になりたいと願っているのだろう?」
由衣は息をのんだ。
「……はい」
ルクスの角が、淡い光を放ち始めた。
「ならば、私がそなたを魔法少女へと導こう。力を得ることは、同時に責任を背負うことでもある。その覚悟はあるか?」
由衣は一度、目を閉じた。
そして、しっかりとうなずいた。
「あります。私、もう後悔したくないんです。誰かが困っているとき、今度こそ手を伸ばせる人になりたい」
「……うむ。よい返事だ」
ルクスは満足そうにうなずいた。
「では、契約を始めよう」
その瞬間だった。
「待ったーっ!」
璃音が二人の間に割って入った。
「……何?」
ルクスが目を細める。
由衣は口をあんぐりと開けた。
「り、璃音!?」
璃音はルクスを指さした。
「その契約、ボクがする!」
「……はあ!?」
「だって、魔法少女ってかわいいんでしょ? だったら、ボクがなるのが一番だよ!」
「どうしてそうなるの!?」
由衣が叫んだ。
「だって、ボクのほうがかわいいもん!」
「そんな理由で横取りしないでよ!」
「横取りじゃないもん!適任者が交代するだけだもん!」
「言い方を変えても同じよ!」
璃音は両手を腰に当て、胸を張った。
「いい?魔法少女は、かわいくなくちゃいけないの!そして、ボクは――」
満面の笑顔。
「世界で一番かわいいから!」
公園に沈黙が落ちた。
由衣は頭を抱えた。
「……ああ、もう。いつものが始まった」
ルクスは璃音をじっと見つめていた。
「……そなた、己の美しさに絶対の自信があるのだな」
「とーぜん!」
「その自信、ただの虚勢ではないようだ。己を磨く努力も怠っていないと見える」
「でしょでしょ!?」
璃音は嬉しそうに跳ねた。
「毎日ちゃんとお手入れしてるし、かわいいお洋服も研究してるんだよ!」
「なるほど。努力を惜しまぬ姿勢は評価に値するのだ」
「ほら!ルクスもわかってくれた!」
「だが、魔法少女とは美しさを誇るだけの存在ではない。
己の力を何のために使うのか、それを忘れてはならぬ。」
「もちろん!」
璃音はすぐに答えた。
「かわいいものを守るために使うよ!」
「……そなた、私の話を理解しているか?」
「してるもん!」
璃音は胸を張った。
「かわいいものを守るってことは、みんなを守るってことでしょ?」
ルクスは少しだけ目を見開いた。
ふざけた態度の奥に、彼なりの考えがあるらしい。
「……ふむ。よかろう。そなたの願いと覚悟、私が見極めてやろう」
「ルクス!?」
由衣が悲鳴を上げた。
「ちょっと待って!私が契約するはずだったんでしょ!?」
「由衣、君の気持ちはわかるよ!」
「だったら譲って!」
「でも、かわいさは譲れないもん!」
「そこなの!?」
璃音はルクスへ向き直った。
「さあ、契約しよう!」
「うむ。では、そなたの名を聞こう」
「天羽璃音!覚えておいてね!」
「天羽璃音か。よい名だ」
璃音は得意げに笑った。
「そして、魔法少女としての名前は――ルミナ・セレスティア!」
「……ルミナ・セレスティア」
ルクスはその名を繰り返した。
「星の光を思わせる、美しい名だ。そなたによく似合っているのだ」
「えへへ! でしょー!」
「では、契約を始めよう」
ルクスの角が、まばゆい光を放った。
光が璃音を包み込む。
髪がふわりと舞い上がり、身体を光の粒子が覆っていく。
やがて光の中から現れたのは、白を基調とした華やかな衣装だった。
胸元には大きなリボン。
幾重にも重なったフリル。
星をあしらった装飾。
手には宝石を先端に宿した剣。
髪は伸び、青みがかった色から水色へと変化した。
最後に、小さなティアラが頭上へ現れた。
光が収まる。
そこに立っていたのは、誰がどう見ても可憐な魔法少女だった。
「……おお」
ルクスが感嘆の声を漏らした。
「これは見事だ。衣装も魔力の巡りも、そなたの雰囲気によく合っている。初めての変身で、ここまで完成された姿を見せるとはな」
「えへへっ!どう? かわいい?」
璃音はくるりと一回転した。
スカートがふわりと広がる。
髪の流れを確認し、杖を構え、最後に決めポーズを取った。
「……うんっ!完璧!」
璃音は満足そうに笑った。
「やっぱり、ボクって世界一かわいい!」
「……悔しいけど、かわいいわ、似合ってる」
由衣が思わず本音を漏らした。
「聞こえたよ、由衣!」
「聞こえるように言ったのよ!」
「えへへ!もっとほめてもいいんだよ?」
「調子に乗らないの!」
その直後だった。
――ドォンッ!!
公園の外から、凄まじい爆発音が響いた。
地面が揺れ、遠くで悲鳴が上がる。
ルクスの表情が変わった。
「……これは!」
小さな身体が、すっと宙に浮かび上がる。
「禍獣だ!璃音、警戒するのだ!」
「ま、がじゅう?」
璃音は公園の外を見た。
黒煙の向こうから、巨大な怪物が姿を現していた。
歪な四肢、硬質な外殻、赤く光る眼。
怪物は咆哮を上げ、近くの建物へと突進した。
「禍獣とは、人間に害をなす異形の存在なのだ。放置すれば、周囲の人々に危険が及ぶ!」
ルクスが叫ぶ。
「璃音、そなたの力が必要だ!」
璃音は剣をぎゅっと握った。
怖くないと言えば嘘になる。
けれど、魔法少女になったばかりの自分には、やるべきことがある。
「……よーし!」
璃音は顔を上げた。
「ボクにまっかせて!」
禍獣が咆哮し、道路へと飛び出した。
人々が悲鳴を上げて逃げていく。
璃音は剣を掲げた。
「さあ!ボクのかわいさにひれ伏したまえ!」
剣の先端に光が集まり、光弾となって放たれる。
攻撃は禍獣の脚に命中した。
怪物がよろめく。
「おおっ!魔法って凄いんだね!エフェクトもキラキラでかわいい〜!」
「感心している場合ではない!敵の動きを見るのだ!」
「わかってるもん!」
璃音は禍獣の動きを観察した。
右脚の動きが遅い。
突進の前には必ず身体を低くする。
そして、攻撃を外したあとは大きく体勢を崩す。
「……なるほど!」
璃音はにっこりと笑った。
「次は、そこだね!」
禍獣が再び突進してくる。
璃音は紙一重でかわし、怪物の側面へ回り込んだ。
「はい、いただきっ!」
剣を振るう。
光の帯が禍獣の脚へ絡みつき、動きを封じた。
「璃音、今だ!」
「うんっ!」
璃音は剣を高く掲げた。
頭上に魔法陣が展開され、無数の光の矢が生まれる。
「ルミナス・スターダスト!」
光の矢が一斉に降り注いだ。
閃光。
轟音。
そして、静寂。
禍獣の巨体は光の粒子となって崩れ去った。
「……やったぁ!」
璃音はぴょんと飛び跳ねた。
「勝った!ボク、勝っちゃったよ!」
「……ふむ。初陣にしては上出来だな」
ルクスは満足そうにうなずいた。
「敵の動きをよく観察し、弱点を見極めた判断は見事だった。
だが、勝利に浮かれるのはまだ早いぞ。」
「はーい!」
璃音は元気よく返事をした。
そして、衣装の裾を整えた。
「……よしっ。戦闘後の姿も完璧!」
「……そなたは、本当にぶれぬな」
ルクスが小さく息を吐いた。
そのとき。
「ママぁっ!」
幼い女の子の泣き声が聞こえた。
璃音が振り返ると、道路脇に倒れた看板や崩れた外壁の破片が散乱していた。
その向こうで、小さな女の子が母親の手を握っている。
母親は、崩れたコンクリートの塊と曲がった鉄骨に足を挟まれ、身動きが取れなくなっていた。
「ママ!ママぁ!」
女の子は泣きながら母親の手を握りしめている。
由衣が駆け寄った。
「今、助けます!」
彼女は鉄骨に手をかけ、持ち上げようとした。
しかし、びくともしない。
「くっ……! お願い、動いて……!」
力を込めても、鉄骨はわずかに揺れるだけだった。
母親の足は瓦礫に挟まれたまま。女の子は母親から離れようとしない。
由衣の脳裏に、昔の記憶がよみがえった。
助けたかった。
けれど、何もできなかった。
あのときと同じだ。
目の前に助けを必要としている人がいる。
なのに、自分の力が足りない。
「お願い……! 今度こそ……!」
由衣は必死に鉄骨を持ち上げようとした。
そのとき。
「由衣!ちょっと下がって!」
璃音が駆け寄ってきた。
「璃音……!」
「もうっ!ひとりで頑張りすぎだよ!」
璃音は鉄骨に手をかけた。
ぐっと力を込める。
重い鉄骨が、少しずつ持ち上がっていく。
「お母さん!足、抜けそう!?」
「は、はい……!もう少しです……!」
「よーし!じゃあ、がんばって!」
璃音は歯を食いしばり、鉄骨を持ち上げ続けた。
「今だよ!」
母親は痛みに顔をしかめながらも、挟まれていた足を引き抜いた。
由衣がすぐに駆け寄り、母親の身体を支える。
「立てますか? 無理しないでください!」
「ありがとうございます……!」
女の子は母親に抱きついた。
「ママぁ……!」
「ごめんね……怖かったね……」
母親は娘を抱きしめ、涙を流した。
璃音はほっと息を吐いた。
「よかったぁ……!」
女の子は涙を拭い、璃音を見上げた。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして!かわいい女の子を守るのは、かわいい魔法少女のお仕事だもん!」
「おねえちゃん、すっごくかわいい!」
「えへへっ!ボクはかわいいんじゃなくて、世界一かわいいんだよ!」
璃音は嬉しそうに胸を張った。
母親も、何度も頭を下げた。
その横で、由衣は二人が無事だったことに安堵していた。
けれど、表情には悔しさも残っていた。
自分は助けようとした。
でも、助けられなかった。
璃音がいなければ、母親はまだ瓦礫に挟まれたままだったかもしれない。
「……私、もっと強くならなきゃ」
由衣がつぶやいた。
璃音は彼女を見つめた。
「由衣……」
「私、あの親子を助けることも、できなかった」
「……でも、由衣は助けようとしたでしょ?」
璃音は首を傾げた。
「ボクが来るまで、ずっと頑張ってたじゃん」
「でも……」
「でもじゃないよ!」
璃音は少しだけ頬を膨らませた。
「助けたいって思って、ちゃんと動いたんでしょ?それって、すごいことだと思うよ!」
由衣は驚いたように顔を上げた。
「……璃音」
「ま、まあ!ボクが助けたほうが早かったけどね!」
「……ふふっ。そういうところは、本当に璃音だね」
「えへへ!もっとほめてもいいんだよ!」
「調子に乗らないの!」
二人は顔を見合わせ、少しだけ笑った。
その後、璃音は変身を解き、いつもの少年の姿に戻った。
ルクスは小さな翼を動かしながら、璃音の周囲を飛んだ。
「璃音。そなたには、魔法少女としての素質があるようだな」
「ほんと!?」
「うむ。魔力の制御も悪くない。敵の動きを観察し、弱点を見極めた判断も見事だった」
「えへへっ!やっぱりボクって天才!」
「……だが、力を過信してはならぬ。これからも学び続けることだ」
「はーい!」
璃音は元気よく返事をした。
ルクスは満足そうにうなずいたあと、ふと思い出したように口を開いた。
「さて。契約者として、そなたに伝えておかねばならぬことがある」
「ん?なあに?」
「魔法少女の契約には、絶対に破ってはならぬ掟が存在するのだ」
ルクスの声が、少しだけ硬くなった。
「契約者は、魔法少女としての資格を偽ってはならない。特に、性別に関する偽りは重大な禁忌となる」
「……性別?」
「うむ。魔法少女の契約は、女性にのみ許されているのだ」
璃音は首を傾げた。
「ふうん……。そうなんだ?」
「もし契約者が男性であった場合、その契約は禁忌に触れたものとなる。そして、禁忌を犯した契約者は――」
ルクスの額にある角が、きらりと光った。
「私自らの手で、処刑せねばならぬのだ」
「…………え?」
璃音の笑顔が固まった。
由衣も、思わず息をのんだ。
「しょ、処刑……?」
「そうだ。契約の掟は絶対なのだ。たとえ本人に悪意がなかったとしても、例外は認められぬ」
ルクスは真剣な表情で続けた。
「魔法少女の力は、人々を守るためのもの。その根幹を揺るがす禁忌を見逃すわけにはゆかぬのだ」
璃音は、ゆっくりと自分の姿を見下ろした。
そして、ルクスを見た。
「……ねえ、ルクス」
「何だ?」
「ルクスは、ボクのこと……女の子だと思ってるの?」
「当然であろう。そなたは誰がどう見ても、可憐な少女にしか見えぬ」
「…………」
数秒の沈黙。
璃音の顔が、みるみる青ざめていった。
そして横にいる由衣を引き寄せ小声で話し始めた。
「……由衣」
「……何?」
「ボク……男の子なんだけど」
「知ってるわよ!!」
「ど、どうしよう……!ボク、処刑されちゃうの!?」
璃音は由衣の袖をぎゅっとつかんだ。
「やだやだ!ボク、まだ死にたくないよぉ! せっかく魔法少女になれたのにぃ!」
「だから、契約する前に人の話を聞きなさいって言ったでしょ!」
「だってぇ!ボクが一番かわいいんだもん!」
「今はかわいさの話をしてないの!」
ルクスは二人を交互に見つめた。
「……待て。そなた、今、何と言った?」
「えっ?」
「男の子、と言ったように聞こえたのだが」
「……き、気のせいだよ!」
「いや、確かに聞こえたぞ。璃音、そなたは……」
「わーっ!わーっ!何でもないよ!」
璃音は必死に声を張り上げた。
ルクスは疑わしげに目を細めたが、璃音の変身した姿を見て、ひとまず考え込んだ。
「……ふむ。まだ確認はできておらぬが、契約の掟に関わる問題であるならば、曖昧にはできぬ。後ほど、きちんと確かめる必要があるな」
「そ、そんなぁ……!」
璃音は今にも泣き出しそうだった。
由衣は深くため息をついた。
「……もう。わかったわよ。私も協力する」
「由衣……!」
「ただし、これからは勝手なことをする前に、私に相談すること。今回みたいなことをされたら、今度こそ助けられないからね」
「う、うん……!」
璃音は何度もうなずいた。
その様子を見て、ルクスが口を開いた。
「……ところで、私がそなたの家に出入りするのは避けたほうがよいであろうな。魔法少女の活動には秘密が伴う。家族に知られれば、余計な危険を招く可能性があるのだ」
「そ、それなら……」
由衣は少し考えてから、ルクスに向き直った。
「しばらく、私の家に来ない?私の両親は海外出張で居ないし、璃音も、訓練のときはうちに来ればいいし」
「ふむ。それがよかろう。そなたの家を拠点とすれば、璃音の指導も行いやすい」
「やったぁ!また由衣の家に遊びに行けるんだね!」
「訓練のためよ!」
「えへへ、わかってるもん!」
「……本当にわかっているのか、少々不安なのだが」
ルクスは小さく息を吐いた。
由衣は小さなユニコーンをそっと抱き上げた。
「じゃあ、帰ろうか。ルクス、うちに来るなら、ちゃんとおとなしくしててね」
「無論だ。私は魔法少女を導く者なのだぞ」
「ぬいぐるみみたいでかわいいから、きっと大丈夫だよ!」
「璃音は黙ってて!」
「ええーっ!?」
夕暮れの街に、三人の声が響いた。
こうして、世界一かわいい魔法少女ルミナ・セレスティアの秘密の生活が始まった。
その正体は、天羽璃音という男の子。
正体が露見すれば処刑されるという、とんでもない秘密を抱えながら。
次回予告
「由衣の部屋って、かわいいものがいっぱい!えへへ、ここをボクのお部屋にしちゃおうかな!」
「しないで! ここは私の家!」
「璃音、遊びに来たのではあるまい。魔法少女としての訓練を始めるぞ」
「はーい!……ところでルクス、男の子が魔法少女になったら、どうなるんだっけ?」
「決まっている。禁忌を犯した者は、私の角で胸を貫き処刑するのだ」
「ひゃあああっ!やっぱり覚えてるぅーっ!」
「だから、余計なことを聞かないの!」
「……今の反応、どうにも気になるのだが」
「な、何でもないよーっ!」
次回、第2話「バレたら即処刑!?秘密の魔法少女生活!」
お楽しみに!




