↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/24

サナの場合⑨



「シン」


もう一度、呼ぶ。


たっぷりと15秒の沈黙の後。

「昨日、どこに居たの?」と泣きそうに潤んだ瞳と視線がぶつかった。


ああ、やっぱり。


どこかで感じていた結末が現実にやってきて、そりゃ、そうだよなと納得している自分がいる。


ユキヤと二人で居るのを見られたんだろうな。


どこまで見られたのかな。

ラブホに入るとこかな。


だったら、終わりだな。


今から別れ話かな、面倒だな、まで考えて、小さくため息を吐き出した後、とりあえず「ごめんなさい」と呟いた。



「サナが男と歩いてて、頬にキスされて、その後、手繋いでるところ見た」


「……」


あー、そこね。


項垂れながら、やけにクリアな思考が状況を把握していく。

なるほど、ホテルに入るところを見られた訳じゃないんだ。


「その後は、見失った」


「……」


「あの男は誰?」


潤んだ二つの黒目が不安げに揺れている。


真実を知りたい?知りたくない?

表情からは読み取れない。


だから、勝手にこっちが想像するしかない。


シンの目を真っ直ぐ見つめながら、ゆっくりと決意する。

全ては私が墓場まで。



「昨日、会社の帰り、カフェに寄ったらたまたま大学の時、ちょっと付き合ってた人に会って。一緒に飲むことになって、それで……。でもね、シンが目撃した以上のことはない、それは本当だよ、信じて」


彼の視線が小刻みに揺れる。


私の言葉を信じていいのか、思案しているのだろう。



「不安だったの。口約束の婚約だし、来年30だし、本当にシンと結婚するのかな、出来るのかなって、不安で。だから、わたし……」


ふいに抱きしめられて、全身に緊張が走る。


「うん、ごめん。俺のせいだ」


「ううん、悪いのは私だから。本当にごめんなさい。もう絶対にシンを裏切らない。だから、結婚しよ」


「それさ、俺のセリフ」とシンが泣きながら笑うから、私も目尻の涙を拭いながら笑った。



茶番だろうか。


もしかしたら、シンは全て知っているのかもしれない。


いや、知らないか。

こんな綺麗な涙を流すんだから。


真っ直ぐで純粋な人を傷つけるなんて、最低だ、私は。

だから、これからは……。



足元に置いたバッグの隙間からスマホが確認出来た。


表示画面にフリーメール一件の文字。



だから、これからは、もっと気をつけて行動しなきゃね。


来週辺り、私はきっといつものバーにいる。

藤堂さんと二人で。


全ては墓場まで、持っていくから、もう少し。

もう少しだけ、今を楽しませて。


だから、どうか見逃してね、神様。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初は「理想的な恋愛」の話なのかなと思っていたのに、読み進めるほどサナの中の歪みが見えてきて、気づけば夢中になっていました。「これからは、もっと気をつけて行動しなきゃね。」という最後の一文が特に印象的…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。