サナの場合③
藤堂さんとの出会いは、三年前。
前の会社で派遣社員として働いていた26の頃。
藤堂さんは直属の上司だったけど、仕事以外は目すら合わすことがなくて、寡黙で怖い人って印象だった。
話すようになったキッカケは、残業の後のコーヒータイム。
職場の自販機でカフェオレをご馳走になって「ありがとうございます」とお礼を伝えたら、「ちゃんとしてるんだね」と柔らかい声が落ちてきた。
「え?」
「若い子って感覚違うだろうから」
「若い子って、私、26ですよ?」
アハハとワザとらしく、笑ってみせた。
「若いよ。僕より7つも下だし、緊張する」
緊張なんて言葉を使われたら、一気に意識してしまって、頬がじんわりと熱くなった。
「夏目さんは、転職とか考えてる?」
「え……」
派遣社員だったから、投げかけられてもおかしくない質問だったのに、上手く返事が出来ない。
この先のことなんて、何一つ考えてなかったから。
「僕はもうすぐ転職しようと思ってる。だから、今日夏目さんと話せてよかったよ」
「……」
「ずっと話してみたいと思ってたから」
ずるい人。
いつもは冷たい視線を向けるだけのくせに、急に柔らかい表情を見せる。
転職の話だって、いきなり打ち明けられて、ビックリしている。
今まで業務外の話は、全然したことないのに。
なんで、今、私にいきなり言ったの?
話してみたいと思ってたって何?
私に彼氏がいるとか、いないとか。
藤堂さんに恋人がいるとか、いないとか。
そんなこと、どうでもよくなるスピードで私たちは近づいた。
藤堂さんがヘッドハンティングされ、退職する日。
何度かの夜を共にし、私の呼び名は夏目に変わっていた。
藤堂さんが転職した後、私も彼のアドバイスで職場を変え、正社員になった。
仕事の相談はシンより藤堂さんにしたいと思っている自分がいた。
彼を頼りたい。
彼に話を聞いて欲しい。
だから、会いたい。
二週間に一回か、二回。
会う関係を三年近く続けている。
シンにバレる気配はない。
バレた時のことなんて考えたこと、ない。
だって、藤堂さんのことはシンには関係ないもの。
そう思う私って最低なのかな。
なら、最低でいいや。
だって、二人とも必要だし、手放せないと思ってしまう、最低な女だ、結局、私は。




