サナの場合④
玄関ドアを開けた、21時過ぎ。
「おかえり」と聞き慣れた声が聞こえたから「ただいま」といつものように返した。
ローファーを脱ぎながら「結局、夜カフェ行けなくてー」と話し始める。
カバンをソファの端に下ろして「締めの業務でバタついて、無しになったんだよ。だから、めっちゃお腹空いてる。何か食べるものあるかなー」と言いながら、冷蔵庫を開けた。
嘘を吐いてるなんて、感覚はない。
罪悪感もない。いや、少しならある。
けど、気にならない程度。
「餃子でいいならあるよ。駅前のやつだけど」
真後ろからシンの声が聞こえて、100点の笑顔を保持して振り向く。
「にんにく抜き?」
「あり」
「えー、明日仕事なのに」と、分かりやすくプクッと頬を膨らます。
「大丈夫だよ」とシンが微笑みながら、私の髪を撫でるから、一瞬ホテルのシャンプーの匂いがしないかなって考えが頭をよぎった。
「牛乳と一緒に食べようかなー」
「なんで?」
「匂い消し?」
「意味ある?」とシンが笑う。
白い歯がキラキラ綺麗で、私もつられてアハハと笑った。
「温めるよ」とまで言い出す優しい彼。
さすがにそれは申し訳なくて「自分でする」と餃子の入ったトレイを取り出し、レンジにセットした。
幸せだった。
理想的な婚約者(仮)と大人の魅力いっぱいの彼。
気持ちの全部を満たされている満足感と優越感。
これ以上、欲しがることなんてない。
自分でも、そう思っていたのに、ね。




