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佳織の場合①
「橋本さんは優秀だな。これからの主任候補だよ」
当時勤務していた職場の課長がくれたセリフ。
今でも覚えている、お守りみたいな言葉。
あの時が人生最良で、一番自分らしく輝いていたかもしれない。
その直後からの私の人生なんて、本当にため息が出るほど……。
「ぎゃー」という聞き慣れた叫び声で、浅い眠りから覚める。
「イヤイヤ」
起きてすぐ、2歳半のマナがいつも通り隣でごねているのを確認する。
ぐずりの原因は、ネクタイを締め、出かけようとしているパパの姿が見えたから。
「パパ、イヤイヤ、だめ」
パパっ子であることと、イヤイヤ期が重なって、平日の朝は毎回が悲惨。
出かけるまで、イヤイヤが止まらない。
「マナ、ごめんな。夜には帰ってくるから」
小さな怪獣を残し、颯爽とアパートから出ていくパパ。
ああ、羨ましい。
私も会社に行きたい。
私の方がパパより能力は高かったんだから。
仕事、したいなー。
不本意ながら、現実に与えられた役目は一つ。
イヤイヤ期大絶賛の娘と今日も1日過ごすこと。
「イヤイヤー、パパ」
いつまでも泣き止みそうにないマナを横目で確認しながら、「朝ご飯にしようね」とようやく布団から抜け出した。




