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百合子の場合⑦
久しぶりにあの夢を見た。
2年前まではよく見た夢。
大きな川の向こうに、3歳くらいの男の子が立っている。
こっちをじっと見て、口を開く。
「ママ」
あなたは誰なの?
「ママ」
跳ねるような声色、可愛らしい響き。
「ママ」
ああ、泣きそうなほど苦しい。
「……」
川を渡り、彼を抱きしめたかった。
彼の名前を大きな声で叫びたかった。
だけど、それは叶わないこと。
だって、私は彼の名前を知らない。
「ママ、自分を責めないで」
こっちに来なくていいよ。
僕のことで思い悩まなくていいよ。
僕の名前を呼ばなくていいよ。
僕を抱きしめなくていい。
幼い男の子が、私に手を振る。
バイバイ、さようなら。
優しく暖かいその眼差しに、私は涙を流す。
さよならなんてしたくないのに。
それしか選択肢がなくて、苦しいほど切ない。
ごめんね、こんな私でごめん。
そこでいつも目が覚める。
決まって私の目尻は濡れている。
ああ、久しぶりに見た。
あの子にまた会えたことの嬉しさと苦しさで、暫くベッドから動けずにいたら。
「ゆ……り、こ」
微かな呻き声が廊下から聞こえた。




