百合子の場合⑤
「あなた、今日はトンカツでいい?」
「明日はマルゲリータを生地から作ってみようかな」
「そうだ、友達からワインを貰ったの。私、ワインは苦手だから飲んでくれない?」
どのくらいの月日がかかり、どれほどの効果があるのか、予想も付かない。
途方もない、無駄な企みかもしれない。
結果、無理なら無理でもいい。
何も起こらなくてもいいのかもしれない。
ただ、私の仕向けることが、彼の健康をジワジワと蝕んでいる。
そう思うだけで、少しだけ気分が高揚してくる私は相当歪んでいるのだろう。
「最近さ、ちょっと太り気味なんだよな。油物も多くないか?」
「そう?今までが痩せ過ぎだったよ。今くらいでちょうど良いと思うよ」と返事をしながら、砂糖と醤油を彼の分だけ倍量入れた肉じゃがを手渡す。
「あと、油物って言い方、年寄りくさい。あなた、まだ55歳じゃない」
「あ、うん。そうだな、まだ55だよな」
「そうそう。まだまだ若いんだから、脂質も糖質も沢山必要だよ」
自分の分のアッサリ味の肉じゃがを口に運びながら、キュッと口角を上げた。
この三ヶ月で、夫の体重は五キロ増えた。
腹部にボテっと肉がつき、見るからにおじさん体型。
働いていた時は、実年齢より若く見られたのにね。
血液検査をしていないから、正確には分からないけど、きっと血糖値もコレステロール値も上昇しているはず。
「ふふ」
「どうした?良いことでもあった?」
急に笑い出した私を見て、夫は不思議そうに首を傾げた。
ダメダメ、喜んだりしては。
私の幸福の為。
ジワジワと、密かに進む計画。
夫にバレる訳にはいかない。
美味しそうに味付け濃いめの肉じゃがを頬張る夫に愛しさすら感じ初めて、「こんな時間も良いね」と穏やかな微笑みを返した。




