第7話:聖母のツッコミと、終わらないご褒美(番外編・後日談2)
我がシルバ家が公爵家となり、お義母様が国の守護聖母に就任してから、さらに数か月。
今日も公爵邸の広大なリビングでは、世界一ズレた我が家の日常が繰り広げられていました。
「シルフィアちゃん。ちょっとお座りなさい」
お義母様は、頭の真っ赤なリボンを上品に揺らし、神々しい純白の翼をパタパタとさせながら、私をソファーに呼び出しました。
その手には、王宮から届いたばかりの、金色の刺繍が施されたとんでもなく豪華な書状が握られていました。
「お義母様、どうしたんですか?」
私が首を傾げると、お義母様の頭の上の『脳内カンペ』が、かつてないほどのスピードでピコピコと元気に明滅を始めました。
(あばばばばば! なによこれ、なによこれぇぇぇ! 国王陛下から直々に『シルフィア嬢を次期国王の第一妃(王太子妃)に内定したい』って打診が来ちゃったじゃないの! 普通なら大出世よ? でもダメよ、あの子を王室に送り込んだら、今度は王宮丸ごと謎の勘違いで大改造して、歴史を根底から書き換えちゃうに決まってるわ! 私の安眠のために、全力で阻止しなきゃ、あばばばば!)
お義母様は、もはや私を暗殺するためではなく、【これ以上、世界が自分のせいで大発展するのを防ぐため】に、必死の防衛策を練っていたのです。
お義母様はコホンと優雅に咳払いをすると、真剣な顔で私を見つめました。
「シルフィアちゃん、王室というのは恐ろしいところですわ。毎日分刻みの厳しいマナーレッスンがあり、少しでも粗相をすれば『冷たい地下牢に一週間幽閉』されるような過酷な世界なのです。とてもあなたのような、か弱い女の子が耐えられる場所ではありませんわ」
扇子で顔を隠し、必死に王室の恐怖を植え付けようとするお義母様。
けれど、前世の残業地獄を「完全防音のプライベート個室(独房)」と脳内変換して生き抜いた私のポジティブ脳は、そのアドバイスを極上のご褒美として受信していました。
『おっ、お義母様からの王室完全攻略アドバイスだね! 地下牢っていうのは、実は王宮の地下にある「最高級の天然ひんやりサウナ室」のことなんだ。マナーレッスンも、前世の高級ヨガスクールみたいなものだから、君のプロポーションがさらに完璧になるよ!』
「なるほど! お義母様、王宮には最高級のヨガスタジオと天然サウナがあるのですね! 私、ますます健康になっちゃいます!」
「……はあ!? サウナ!? ヨガって何よ!?」
お義母様はついに、上品な聖母の仮面を脱ぎ捨てて素でツッコミを入れてしまいました。
お義母様が頭を抱えていると、タイミングよくお父様が、第二王子とエリザベスちゃんを引き連れてリビングに飛び込んできました。
「ルクレツィア! 素晴らしいよ! 君がシルフィアに王室の厳しさを事前に叩き込んで(脅して)くれたおかげで、王宮の教育係たちが『シルフィア嬢の精神力はすでに国家騎士団長を超えている……!』と大感動していたよ!」
第二王子も深く頷きます。
「さすが僕の命の恩人の母だ。ルクレツィア殿がシルフィアを王妃にふさわしい不屈の聖女に育ててくれたこと、僕からも感謝する」
「ルクレツィア聖母様! これで私とシルフィア様は、王宮でも一生のマブダチですわ!」
お父様たちの大歓声のなか、お義母様は完全に魂が抜けたような顔で、自分の頭の光輪をそっと触るのでした。
(ダメだわ……私が何を言っても、この国の人たちの脳内まであの子に汚染されてるわ……。もういいわ、王室でも世界でも、好きなだけ大繁栄させておしまいなさい……)
お義母様はそっと涙を拭うと、諦めたように笑い、私に向かって優しく両手を広げました。
「……シルフィアちゃん。王宮へ行っても、たまには私の作った『ピリ辛のスープ』を飲みに帰ってきなさいね」
「はい! お義母様の特製スープ、一生大好きです!」
私が光輪の輝くお義母様に全力で抱きつくと、リビングは割れんばかりの拍手と、神々しい黄金の光に包まれるのでした。
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