第6話:聖母の優雅な一日と、やっぱりズレているお茶会(番外編・後日談)
世界を巻き込んだ私の成人式から、数か月。
我がシルバ家は正式に『公爵家』となり、お義母様は神々から授えられた光輪と純白の翼のせいで、国中の人々から「歩くパワースポット」として拝まれる毎日を送っていました。
「……あら、皆様。ごきげんよう」
公爵邸の美しい薔薇が咲き誇る庭園で、お義母様、ルクレツィア様は、頭の真っ赤なリボンを上品に揺らしながら、優雅に最高級の紅茶を啜っていました。
すべての暗殺計画を諦めたお義母様のお肌は、今や胃薬の手放せなかった頃が嘘のように、ツヤツヤと輝いています。
今日のお茶会には、私のマブダチであるエリザベスちゃんや第二王子、そしてすっかり我が家の私設騎士団長となった『死の森のオオカミ(礼服着用)』、さらには実のお父様であるエドワードも同席していました。
「それにしても、ルクレツィア。君が新しく考案してくれた、我が公爵領の『魔導ハーブティー』は本当に素晴らしいね。王都の貴族たちの間で、一杯一万ゴルドという超高値で取引されているよ」
お父様が嬉しそうに書類を見せると、お義母様はフフフと扇子で口元を隠しました。
その頭上では、今日も私の大好きな『脳内カンペ』がピコピコと元気に緑色に点滅しています。
(フフフ……当たり前よ。あれ、本当はただのハーブティーじゃないわ。実家に眠っていた、飲むと一週間お腹を下し続ける呪いの下剤ハーブ『デトックス・デス』を極秘で調合したんですもの。あの子の胃袋には効かなかったから、せめて王都の生意気な貴族どものお腹を破壊してやろうと思ったら……)
「ええ、あなた。皆様の体内の『毒素』が綺麗に排出されて、お痩せになったと大評判ですわ。私の愛が、また世界を救ってしまいましたのね。フフフ……あばばばば」
お義母様は、自分が仕掛けた嫌がらせの「超強力な下剤」が、王都のセレブたちの間で【飲むだけで一瞬で痩せる、伝説の奇跡のダイエット茶】として大爆発的な大ヒットを記録し、公爵家にさらなる国家予算級の富をもたらしてしまった現実に、遠い目をしていました。
そんなお義母様の横で、私はホカホカの黄金ジャガイモのスコーンを美味しそうに頬張っていました。
『おっ、お義母様からの新しいビジネスイベントは大成功だね! あのハーブ、前世の高級エステで使われていた腸内洗浄成分と100%同じなんだよ。お義母様、本当に美容の天才だね!』
「お義母様、このお茶本当に美味しいです! お肌がもっとピカピカになっちゃいました!」
「……それは重畳ですわね、シルフィアちゃん」
お義母様は引きつった笑顔で、私の頭を優しく撫でてくれました。
そこへ、エリザベスちゃんが目を輝かせてお義母様に身を乗り出しました。
「ルクレツィア聖母様! 私、シルフィア様と一緒にお義母様のハーブ農園をさらに拡大して、隣国への輸出計画を立てておりますの! 第二王子殿下の暗殺組織(※今はただの超高速物流ギルド)の馬車を使えば、来月には世界中で我が公爵家のお茶が飲まれるようになりますわ!」
「まあ! それは素晴らしいですわね(世界中の人間のお腹が破壊されるわ、あばばばばばば!)」
お義母様は心の中で絶叫していましたが、その体から溢れ出る神聖な聖母のオーラのせいで、周囲には「なんて慈愛に満ちた、世界平和を願う美しい微笑みなの!」と100%ポジティブに受信されていました。
今日も我が公爵家は、お義母様のちょっぴりズレた悪意と、私の無敵のポジティブ脳、そして周囲の完璧な勘違いによって、世界で一番幸せな大繁栄を続けていくのでした。




