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【完全版】義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第1話:愛の特製スープ(お義母様の最初の暗殺)

お義母様が我が家にやってきてから、一週間。

 王都の華やかな生活から一転、この果てしない田舎の男爵領に閉じ込められたお義母様のストレスは、すでに限界を迎えつつありました。

「……フフ、フフフフフ」

 豪華なドレスにエプロンをまとい、我が家の薄暗い厨房で怪しい小瓶を振るお義母様。

 頭の真っ赤なリボンをキリリと締め直し、大釜のスープに紫色の怪しい液体をドボドボと注ぎ込んでいます。その目は完全に血走っていました。

(あばばばば! なによこのド田舎は! 娯楽もない、泥臭い領民しかいない! 一刻も早くこの小娘、シルフィアを処理して『領地発展スキル』を奪い、王都に帰るのよ! これは我が実家に伝わる、象をも一撃で即死させる魔界の猛毒『トリカブト・エクスプレス』。これを飲めば、心臓麻痺による『不慮の事故死』は確実……! さあ、地獄へ逝きなさい!)

 お義母様が恐ろしい執念でスープを混ぜていると、厨房の扉が開き、我がシルバ男爵家の主であり、私の実の父親であるエドワードがのんきな顔を出しました。

「おや、ルクレツィア。王都の公爵夫人だった君が、自ら厨房に立ってスープを作ってくれているのかい? 我が家は貧乏でまともな料理人も雇えないからね……本当にすまない、そしてありがとう」

 私の実の父親は、お気楽という言葉を具現化したような、超がつくほどの天然パパでした。

 お義母様は一瞬ビクッと肩を震わせましたが、すぐに扇子で顔を隠し、淑やかな笑みを貼り付けました。

「ええ、あなた。私、シルフィアちゃんの健康が心配でたまらないのですわ。だから、私の実家に伝わる『特別な栄養素(猛毒)』をたっぷり配合した、愛の特製スープを仕込んで差し上げましたの。これで一発で、お悩みも全て『解決』いたしますわ」

「おお、なんと素晴らしい! シルフィアは母親を早くに亡くして、まともな家庭料理を食べさせてやれなかったんだ。ルクレツィア、君はなんて優しく、教育熱心な聖母なんだ……!」

 お父様は目を潤ませて大感動しています。

 お義母様が裏でどれほど緻密な殺害計画を練っていようとも、我が家の男たちは誰もその悪意に気づきません。なぜなら、私の頭の上に浮かぶ『脳内カンペ』のポップな通知を読めるのは、世界中で私だけだからです。

 ――そして、夕食の時間。

 食卓に並べられたのは、不自然にドロリとしており、どことなく禍々しい紫色をしたスープでした。

 お義母様は対面の席から、じっと私の手元を凝視しています。

(さあ、飲みなさい! 一口すすれば、あまりの激痛にのたうち回り、そのまま意識を失って永遠の眠りにつくわ! 早くその生意気な笑顔を恐怖に染めなさい!)

 お義母様の脳内カンペからは、ものすごい殺気とワクワク感が伝わってきます。

 けれど、前世の過酷な環境を「デトックス・ライフハック」と勘違いして生き抜いた私のポジティブ脳は、目の前の紫色のスープを全く別のものに変換していました。

『おっ、お義母様からの最初のプレゼントだね! これは一見不気味だけど、お肌の代謝を爆発的に高めて、体内の毒素をすべて一瞬で排出する「超濃厚デトックス・スパイススープ」だよ! ちょっとピリ辛だけど、一気に飲み干すと細胞がレベルアップするよ!』

「なるほど、お義母様の愛のデトックスですね!」

 私はスプーンを手に取ると、一切の躊躇なく、その紫色のスープを口いっぱいに含みました。

 ゴクリ。

「……ッ!?」

 お義母様が、ガタッと椅子から身を乗り出しました。

 普通なら、口に含んだ瞬間に血を吐いて倒れるはずの猛毒です。

 しかし、私の口の中に広がったのは、前世で大好きだった本格的なタイカレーのような、ガツンとくるスパイスの刺激と、深いコクでした。五臓六腑がカッと熱くなり、全身の血流が最高速で巡り始めます。

「わあ……! お義母様、これ凄いです! 口に入れた瞬間、体がポカポカして、日頃の疲れが一気に吹き飛んでいくのがわかります! ちょっとピリ辛で、ハーブの香りが効いていて、もの凄く美味しいです!」

 私は満面の笑みを浮かべ、そのまま一滴も残さず、スープを爆速で完食しました。

「……な、ななな」

 お義母様は、開いた口が塞がらないという顔で、完全に硬直していました。

(なぜ生きているのよぉぉぉぉ!? 象が即死する毒よ!? なんで血を吐くどころか、肌がツヤツヤになって頬を桜色に染めてるのよ!? この小娘、胃袋が魔界の魔獣か何かなの!?)

 そこへ、私の食べっぷりを見ていたお父様が、嬉しそうにパチパチと手を叩きました。

「ルクレツィア、本当にありがとう! シルフィアがあんなに美味しそうにスープを飲むなんて、初めて見たよ。君が作ってくれた愛情スープのおかげで、この子の『領地発展スキル』の魔力伝導率が、今の一瞬で倍以上に跳ね上がったようだ! さすが王都の高貴な教育法だね、私も鼻が高いよ!」

「え……? 魔力、倍……?」

 お義母様は、自分が与えた猛毒のせいで、むしろシルフィアの規格外なスキルがさらに強化されてしまったことを知り、激しいめまいに襲われました。

 危機回避に成功しました。経験値を獲得します。

 スキル、毒素無効(神級)を獲得しました。

 お義母様の胃へのダメージ:中。

「お義母様、本当にありがとうございます! 明日からのご飯も、すっごく楽しみにしていますね!」

 私が両手を合わせてお礼を言うと、お義母様はガタガタと震えながら、そっと自分の胃薬の小瓶をポケットから取り出すのでした。

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