第2話:お義母様の過酷な罠と、大豊作のジャガイモ
最初の暗殺スープ(デトックス)事件から、さらに数か月。
お義母様は、相変わらず健康体そのものでピンピンしている私を見るたびに、キリキリと胃を痛めておいででした。
「シルフィアちゃん、ちょっとおいでなさい」
ある朝、お義母様は頭の真っ赤なリボンをいつもよりきつく結び直し、私を中庭へと呼び出しました。
その足元には、錆びついたクワと、干からびた謎の種が大量に入った麻袋が置かれていました。
「あなたも男爵家の大切な娘ですものね。今日から、我が家の裏手にある『呪われた荒れ地』を、あなた一人で全て耕しなさい。一粒残らずその種を植えるまで、お部屋に戻っては仕立ての良いお洋服も与えませんわ」
扇子で口元を隠し、冷酷に微笑むお義母様。
その頭上に浮かぶ私の『脳内カンペ』は、今日もピコピコと元気に赤色に点滅していました。
(あばばばば! スープがダメなら肉体労働よ! あそこは数百年前に魔獣の呪いで不毛の地となった、硬い岩盤だらけの最悪の荒れ地! 非力な小娘がまともな道具もなしに耕せば、三日と持たずに過労と脱水症状でぶっ倒れて『不慮の事故死』を迎えるはずよ! おまけに植えさせるのは、絶対に芽が出ない王都の廃棄用ゴミ種! さあ、絶望して泣き叫びなさい!)
お義母様は、今度こそ私を過労死させるための緻密な計画を立てていました。
普通なら、あまりの理不尽さに泣き出すところです。しかし、前世で連勤地獄を「筋肉が勝手につく高効率な無料ジム」と脳内変換してサバイブした私のポジティブ脳は、この過酷な罠を全く別の神イベントとして受信しました。
『よっしゃ、お義母様からの大型育成イベント発生だ! あの荒れ地、実は地中深くに超高級な『天空の魔鉱石』が埋まっているせいで土が硬くなっているだけなんだ。クワを振るだけで君の筋力と魔力がガンガン上がるよ! しかも、渡された種はゴミじゃなくて、魔力を吸うと一日で超巨大化する伝説の古代種『黄金ジャガイモ』だ! 一石二鳥の大チャンスだよ!』
「なるほど! お義母様、私のために最高の青空プライベートジムと、秘密の家庭菜園を用意してくださったのですね!」
「……はあ?」
私がクワをしっかりと握り締め、嬉々として荒れ地へ走っていく後ろ姿を見送りながら、お義母様はまたしても呆然と立ち尽くしていました。
それから三日間。
お義母様は、私がボロボロになって「お母様、もう限界です……」と這いつくばってくるのを、ウキウキしながら自室で紅茶を飲んで待っていました。
しかし、四日目の朝、様子を見にきたお義母様が目にしたのは、信じられない光景でした。
「ふんっ! はっ! た、楽しいーー!」
ザシュッ! ゴキィィィン!
私がボロのクワを軽く一振りするたびに、お義母様が「絶対に砕けない」と豪語していた岩盤が、まるで豆腐のように粉々に粉砕されていきます。
過労死するどころか、私は健康的にじんわりと汗をかき、心なしか前よりスタイルが良くなって、お肌のツヤも限界突破していました。
さらに、不毛の地だったはずの広大な裏庭は、瑞々しい緑の葉で埋め尽くされ、土からはラグビーボールほどもある巨大な『黄金のジャガイモ』が、ゴロゴロと溢れ返っていたのです。
「な、ななな……なによこれぇぇぇぇ!?」
お義母様は、悲鳴を上げて頭のリボンをひっくり返しました。
(なんで岩盤が砕けてるのよ!? なんでゴミの種から、王都の最高級市場でも滅多に見かけない伝説の黄金ジャガイモが大量に大豊作を巻き起こしているのよ!?)
そこへ、騒ぎを聞きつけたお父様が、領民たちを引き連れてドタドタと駆け込んできました。
土から顔を出す大量の黄金ジャガイモを見た瞬間、お父様と領民たちは、その場にガタガタと崩れ落ちて大号泣を始めました。
「お、おおお……! ルクレツィア! 君という人は、我がシルバ男爵領の救世主だ!」
「……え? はい?」
お父様はお義母様の両手を激しく揺さぶり、涙を流して感謝を叫びます。
「この不毛の地をシルフィアに耕させ、眠っていた魔鉱石の地脈を刺激し、さらに我が領の特産品となる黄金ジャガイモを実らせるなんて! このジャガイモを王都に売れば、我が男爵領の財政赤字は一瞬で消滅し、一国を揺るがすほどの莫大な富が生まれる! すべては君が王都から持ってきてくれた、高度な農業戦略(嫌がらせ)のおかげだ! 素晴らしいよ、ルクレツィア!」
「お、お義母様、ありがとうございますだー!」
「俺たち、このジャガイモのおかげで冬を越せますだー!」
領民たちまでがお義母様を神のように崇め、一斉に地面に頭を擦り付け始めました。
お義母様は、自分が仕掛けた過酷な労働のせいで、貧乏だった男爵領が国屈指の「超金持ち男爵領」へと大発展を遂げてしまった現実を突きつけられ、目の前が真っ暗になりました。
危機回避に成功しました。経験値を獲得します。
スキル、剛力(神級)および神速農耕を獲得しました。
シルバ男爵領の財政:【崩壊】から【国家予算級】へレベルアップ。
お義母様の胃へのダメージ:特大(胃薬追加)。
「お義母様、私、お義母様のおかげで腹筋もバキバキに割れて大満足です! 次はどんなお仕事(特訓)をさせてくれるんですか?」
私が満面の笑みでクワを構えると、お義母様は白目を剥きながら、ガタガタと震える手で二本の胃薬を同時に口へと放り込むのでした。
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これで、男爵領が経済的に大成功し、のちに国から「侯爵」へ昇格させられるための完璧な伏線(理由付け)が整いました!




