第0話:プロローグ(お義母様の華麗なる絶望)
その日、王都からやってきた超豪華な馬車が、我がシルバ男爵家のオンボロな屋敷の前に止まりました。
車輪から泥を跳ね上げて降りてきたのは、頭に大きな真っ赤なリボンを結んだ、ド派手な公爵夫人――ルクレツィア様。
彼女こそが、今日から私の新しいお母様となる人でした。
お義母様は、見るからに田舎くさい我が家の庭や、出迎えた私のツギハギだらけのドレスを一瞥すると、扇子で口元を隠しながら、これ見よがしにフフフと高笑いを浮かべました。
「まあ、なんて可哀想なお嬢さんかしら。こんな寂れた田舎で、まともな教育も受けずに育ってきたのね。でも安心なさい、これからはこの私が、お母様としてあなたの面倒を『たっぷり』見てあげるわ」
その言葉の裏にある、ゾクリとするような冷たい悪意。
お義母様の本心は、実は私の目に見える『脳内カンペ』によって、すべてポップな文字で丸見えになっていました。
(フフフ、見つけたわよ、規格外の『領地発展スキル』を持つ小娘。前妻の子供であるあんたを、合法的に『不慮の事故死』――つまり暗殺して消し去り、その強力なレアスキルを私の実家に持ち帰ってあげる。せいぜい私の愛という名の地獄をたっぷりと味わうがいいわ!)
お義母様の頭の中は、私を合法的に処理するための緻密で残虐な暗殺計画でいっぱいでした。
けれど、前世で過酷なワンオペ環境を「これは新感覚のツボ押しライフハックだな」と脳内変換して生き抜いた最強のポジティブ脳を持つ私は、その悪意をまったく別のものに受信していました。
「わあ……お義母様、初対面の私をそんなに気遣ってくれるなんて。わざわざ王都からこんな田舎まで来て、私のために新しいお母様になってくれるなんて、本当に優しくて心の温かい人なんですね!」
「……え?」
私が目をキラキラ輝かせ、両手でしっかりとお義母様の手を握りしめると、お義母様は一瞬、狐に抓まれたような顔をして固まりました。
(な、何よこの子。私の完璧な威嚇の言葉を聞いて、なんでそんなに感動してるのよ? ……まあいいわ。どうせ何も知らない田舎の無知な小娘だもの。これから始まる私の『暗殺スープ』を前に、いつまでその生意気な笑顔を保っていられるかしらね、フフフ……)
こうして、世界一ズレた私とお義母様の、絶対に噛み合わない共同生活の幕が上がったのです。




