第12話:聖母の空飛ぶスープキッチンと、大陸横断の奇跡(番外編・真のグランドフィナーレ2)
空飛ぶ巨大魔導豪華客船『シルフィア号』が王都を飛び立ってから、数週間。
ハネムーンの旅路は順調そのもので、船は隣の大陸の上空へと差し掛かっていました。
特等の聖母専用スイートルームで、お義母様(ルクレツィア様)は、雲海を見下ろしながら優雅にふかふかの高級ソファーに身を沈めていました。
「……フフ、アハハ。船の上というのも、悪くないわね。家事もしなくていいし、領民に拝まれることもない。ただ静かに景色を眺めていられるわ」
お義母様は頭の真っ赤なリボンを心地よい風に揺らし、完全にバカンスモードでワイングラスを傾けていました。
――しかし、船が大きな乱気流を抜けたその瞬間。
「あ、お義母様! 大変です! 隣の大陸の国が、大飢饉と深刻な魔力不足で滅びかけてます!」
部屋の扉をバターンと勢いよく開けて、エプロン姿の私、シルフィアが飛び込んできました。
「……あばばばばばばばば!?」
お義母様はソファから跳び上がり、せっかくの高級ワインを絨毯にぶちまけました。
その頭上では、もはや鳴り止むことのないポップなチャイムと共に『脳内カンペ』が真赤に点滅を始めます。
(なによそれぇぇぇ! ここは別の国、それも海を越えた遥か彼方の大陸よ!? なんで通りすがりの新婚旅行で、他国の国家存亡の危機に直面しなきゃいけないのよ! 関わっちゃダメよ、スルーして次の国へ行きなさい!)
お義母様は必死に窓を閉めようとしましたが、私のポジティブ脳は、そのお義母様の焦った顔を、またしても偉大な聖母の使命として受信していました。
『おっ、お義母様の緊急ボランティア大作戦が起動したよ! あの国の人たち、お腹が空きすぎて魔法も使えなくなっちゃってるんだ。船のキッチンをフル回転させて、お義母様秘伝の毒スパイス入り「黄金ジャガイモの超濃厚スタミナスープ」を空から一斉に配ってあげよう! 一発で全員元気百倍になるよ!』
「なるほど! お義母様、あの国を救うために、特製スープの炊き出し(空からの配給)を始めるんですね!」
「いいえ! 言ってませんわ! っていうか空からの配給って何よ!? スープを降らせる気!?」
お義母様のツッコミも虚しく、私は剛力(神級)のスキルで船の大型厨房から巨大な大釜を引っ張り出し、空間魔法で大量の黄金ジャガイモとお義母様の秘伝スパイス(※かつて象を即死させようとした猛毒ハーブ)を投入しました。
そして、客船の底にある散水用魔導具をハッキングし、国中にスープの湯気と栄養成分を大雨のように降らせたのです。
数時間後。
飢えと病で倒れ伏していた隣大陸の国民たちが、空から降ってきた温かい(そしてちょっとピリ辛な)恵みの雨を口にした瞬間――。
「おおおお! 身体の底から魔力が、生きる活力が湧き上がってくるぞ!」
「干からびていた大地の作物が、一瞬で大豊作になった!」
「天から降る美味なるスープ……これぞ、東の空から現れた本物の神の奇跡だ!」
隣大陸の国王をはじめ、何百万もの国民が、空に浮かぶ『シルフィア号』に向かって涙を流して五体投地を始めました。
客船の甲板からその光景を見下ろしていた第二王子とエリザベスちゃんは、深く感動して胸に手を当てました。
「ルクレツィア殿……ハネムーンの最中に、一国を丸ごと救済してしまうとは。貴女の慈愛の深さは、すでにこの世界の限界を超えている」
「お義母様、これで隣の大陸も私たちの完全な同盟国(信者)になりましたわ!」
隣の大陸の王宮から、感謝の印として『国家予算の一半』と『永久の忠誠』を誓う金色の書状が、鳥の魔獣に乗って次々と甲板へ届けられました。
お義母様は、甲板の手すりに掴まったまま、完全に魂の抜けた笑顔を浮かべていました。
(新婚旅行……。ただのハネムーンのはずだったのに。なんでちょっとスープを配っただけで、海を越えた別の大陸の支配者になってるのよ、あばばばば……)
危機回避(?)に成功しました。経験値を獲得します。
スキル、大陸救世主(神級)を獲得しました。
お義母様の神格化:世界宗教レベルへ到達。
「お義母様、世界中の人たちが笑顔になって、私、とっても嬉しいです!」
私が最高の笑顔でお義母様の背中の純白の翼にギュッと顔を埋めると、お義母様はもう何が起きても驚かない仏のような微笑みを浮かべ、空飛ぶ大釜を優雅に扇子で仰ぐのでした。




