第13話:聖母の帰還と、神々の新築祝い(番外編・真のグランドフィナーレ3)
隣の大陸をスープ一つで救済し、大陸全土に「聖母ルクレツィア教会」が設立されてから、数か月。
私たちは長いハネムーンを終え、ついに懐かしき我が家――シルバ公爵領へと帰還しました。
「……ああ、我が家よ。やっぱり、地面の上こそが最高のオアシスだわ」
空飛ぶ客船から降り立ったお義母様(ルクレツィア様)は、神々しい純白の翼をパタパタとさせながら、領地にある自宅のリビングのソファーへ、泥のように崩れ落ちました。
頭の真っ赤なリボンも、今や世界平和の象徴として国旗のデザインに採用されていましたが、お義母様自身はただのぐうたらモードに戻っていました。
(長い旅だったわ……。世界中の王族や富豪に拝まれ、どこへ行っても大繁栄の嵐。でも、もう大丈夫よ。ここは私の愛するシルバ領。国境も越えないし、空も飛ばない。ただ静かに、お父様と一緒にお茶を飲んで余生を過ごすのよ、フフフ……あばばばば)
お義母様は、今度こそすべてのイベントが終了したと確信し、幸せなため息をついていました。
――しかし、お父様が淹れてくれたお茶に口をつけた、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……!
突然、リビングの天井が眩い黄金の光に包まれ、空間がぐにゃりと歪み始めました。
「……あばばばばばばばば!? な、なによ今度は!?」
お義母様はソファから飛び退き、持っていた高級な湯呑みを派手に放り投げました。
その頭上では、かつてないほどの特大ボリュームで、ポップなチャイムと共に『脳内カンペ』が金色に激しく点滅を始めます。
(嘘でしょぉぉぉ! 空間が裂けてるじゃないの! そこから出てきているの、人間の服を着た『天界の神々』よ!? なんで神様が、アポなしで一般家庭のリビングに突撃してくるのよぉぉぉ!)
お義母様が腰を抜かして震えていると、空間の裂け目から、成人式の時にも現れた天界の最高神たちが、菓子折り(神界の果物)を手に笑顔でゾロゾロと這い出てきました。
そして、私の前に並ぶと、涙を流して深く頭を下げたのです。
「おお……シルフィア嬢、そして聖母ルクレツィア様! ハネムーンでの隣大陸の救済劇、天界からしっかりと拝見しておりました! あまりの慈愛の素晴らしさに、神々の間でも『聖母様に何かお祝いをしなければバチが当たる』と大騒ぎになりましてな!」
最高神はそう言うと、持っていた杖を地面にトントンと打ち鳴らしました。
「お祝いとして、このシルバ公爵邸を、神界のテクノロジーで作られた『不老不死の永久要塞・神宮』へと無料リフォーム(大改造)させていただきました!」
その瞬間、築数年の我が家が、一瞬にして眩い神聖な大理石で作られた、全次元の攻撃を無効化する文字通りの『神の宮殿』へと勝手に建て替えられてしまいました。
私のポジティブ脳は、この神々のサプライズを、またしてもお義母様へのハッピーな親孝行イベントとして受信していました。
『よっしゃーー! お義母様の素晴らしい家事ライフハックがついに神界を動かしたよ! この神宮、掃除は全自動だし、蛇口からは不老長寿の聖水が出るんだ。お義母様がこれから何百年も、家事の苦労から解放されて、のんびりニート生活を送るための神様からの新築祝いだよ!』
「なるほど! お義母様、私たちのために神様を動かして、お掃除不要の最高のエコハウスを作ってくれたんですね!」
「いいえ! 作らせてませんわ! っていうか我が家を勝手に神殿にしないで頂戴! 家が眩しくて眠れないじゃないのぉぉぉ!」
お義母様のツッコミが神殿に虚しく響くなか、タイミングよくお父様やエリザベスちゃん、第二王子、そして私設オオカミ騎士団長が、お祝いのジャガイモを抱えて突っ込んできました。
「ルクレツィア! 我が家が神界の直轄領になったと聞いて飛んできたよ! これで我が公爵家は、人間界だけでなく『神界の外交権』まで手に入れてしまったね! 君は本当に、世界の終わりまで輝き続ける聖母だ!」
「ルクレツィア聖母様! 私、神界との独占貿易会社を立ち上げますわ!」
神々と人間たちがリビングで肩を組み、どんちゃん騒ぎのお祝いパーティーを始めるなか、お義母様は純白の翼で顔を覆い、静かに涙を流しながら笑いました。
(家事の苦労から解放……? ニート生活……? そんなの、この子がいる限り永遠に訪れないわ……。私はただの悪女として、あんたを消し去りたかっただけなのに、なんで神様のお家で一緒にジャガイモを食べてるのよ、あばばばば……)
危機回避(?)に成功しました。経験値を獲得します。
スキル、全次元統治王(神級)を獲得しました。
シルバ公爵家の影響力:【世界】から【全宇宙・神界】へレベルアップ。
お義母様の悟り度:無限大。
「お義母様、新しいおうち、すっごく広くて素敵ですね! これからも、ずーーっと一緒に幸せに暮らしましょうね!」
私が神界の聖水で作った特製ピリ辛スープをお義母様に手渡しながら満面の笑みを見せると、お義母様は光輪をキラキラと輝かせ、もはや全宇宙の平和を受け入れたような、神々しくもちょっとだけ諦めに満ちた、最高の笑顔でスープを啜る(デトックスする)のでした。




