第11話:聖母のハネムーン追跡と、空飛ぶ巨大豪華客船(番外編・真のグランドフィナーレ)
世紀の結婚式から、一か月。
私は次期王妃として第二王子とのハネムーン――すなわち、諸国を巡る優雅な新婚旅行へと旅立つことになりました。
今回用意されたのは、我がシルバ公爵家の圧倒的な財力と、私が解明した古代魔導数式、そして隣国の巨大商会の流通網が合体して完成した、世界初の空飛ぶ巨大魔導豪華客船『シルフィア号』です。
「……フフ、アハハ。やっと、やっと本当の自由が訪れたわ」
王都の公爵邸のテラスで、お義母様(ルクレツィア様)は、神々しい純白の翼を優雅に休めながら、極上の最高級ワインを傾けていました。
頭の真っ赤なリボンも、心なしかいつもよりリラックスしてふんわりと結ばれています。
(あの子が王宮の客船に乗って、数か月間も大陸を一周するのよ。これでもう、畑から突然生えてくることもないし、お風呂に強制連行されることもない! 私はこの王都で、誰にも邪魔されずに『国の守護聖母』として、ただ座って拝まれるだけのぐうたらなニート生活を満喫してあげるわ、フフフ……あばばばば)
お義母様は、今度こそ完全にシルフィアの勘違い暴走から解放されたと確信し、幸せの絶頂にいました。
――しかし、ハネムーンの船が王都の空へと飛び立った、まさにその日の夕方。
トントン、と、お義母様の部屋の窓を叩く音がしました。
ここ、公爵邸の最上階(五階)です。不審に思ったお義母様が窓を開けると、そこには、なんと礼服を着た巨大な『死の森のオオカミ(騎士団長)』が、背中に大きなお弁当箱を背負ってホバリング(浮遊)していました。
「ガルル(ルクレツィア聖母様、大変だ。シルフィア様が、お義母様の作ったスープ(猛毒)が恋しくて夜も眠れないと、客船の上で泣いておられる)」
「……はぁぁぁぁぁ!?」
お義母様は窓枠に頭をぶつけながら絶叫しました。
その頭上では、もはや鳴り止むことのないポップなチャイムと共に『脳内カンペ』が超高速で点滅を始めます。
(なんでオオカミが空を飛んでるのよぉぉぉ! っていうか、スープの禁断症状って何よ!? あんたが泣いたら、隣の第二王子やエリザベス令嬢が『聖母を今すぐ国賓として拉致してこい!』って国家規模の捜索令を出すに決まってるじゃないのぉぉぉ!)
お義母様が頭を抱えてあばばばと震えていると、案の定、空の向こうから、きらびやかにライトアップされた巨大客船『シルフィア号』が、わざわざ王都の上空までバックして戻ってくるのが見えました。
客船の甲板からは、拡声の魔導具を持ったエリザベスちゃんと第二王子の声が、王都中に響き渡ります。
『ルクレツィア聖母様ーー! シルフィア様のために、今すぐハネムーンに同行してくださいましーー! 特等の聖母専用スイートルームを用意いたしましたわーー!』
『ルクレツィア殿、君が来なければ船が出せない。頼む、国のために一緒に来てくれ!』
王都の全住民が「おお、なんと娘想いの聖母、なんと素晴らしい家族愛だ!」と一斉に空を見上げて涙を流し、お義母様に向かって拝み始めました。
お義母様の脳内カンペは、もはやお祝いのクラッカーを鳴らすかのようにゴールドに輝いていました。
『大・大・大・大成功! お義母様、やっぱりハネムーンには世界で一番大好きなお義母様が一緒じゃないと寂しいよ! 船の上で、お義母様の愛のスパイススープを飲みながら、今度は世界中の空を大繁栄(大改造)しに行こうね!』
「……ダメだわ。世界中、どこまで逃げても無駄なのね」
お義母様は静かに諦めると、ポケットからいつもの特製スープのスパイス(※かつて象を即死させようとした猛毒ハーブ)を取り出し、ふっと慈愛に満ちた(完全に全てを受け入れた)笑みを浮かべました。
「エドワード、あなた。ちょっと世界旅行に行ってきますわ。お土産には、隣大陸の『関税権』でもむしり取ってきて差し上げますわね」
お父様が「いってらっしゃい、僕の最高の妻!」と見送るなか、お義母様は純白の翼を大きく広げ、空飛ぶ巨大客船に向かって優雅に、そして力強く飛び立っていきました。
甲板の上で両手を振って待つ、私の元へと――。
世界一ズレたお義母様の愛情(暗殺計画)と、私の無敵のポジティブ脳。
二人の終わらないハッピーな旅路は、今度は世界の空を舞台に、どこまでも、どこまでも笑顔と共に続いていくのでした。
(完全版:義母が私を殺そうとします・本当の、本当のグランドフィナーレ)




