第10話:聖母の告白と、世界で一番幸せな勘違い(完全版・グランドフィナーレ)
隣国の巨大商会をポテチ一つで支配下に置いてから、さらに数か月。
ついに、私と第二王子との盛大な結婚式――すなわち、私がこの国の次期王妃となる、国家最大の記念日がやってきました。
王都の大聖堂には、国王陛下やエリザベスちゃんをはじめ、大陸中の大富豪、さらには礼服を着てお行儀よく並ぶ死の森の魔獣たちまでが集まり、割れんばかりの拍手で満ちていました。
「シルフィアちゃん、本当に綺麗ですわ……」
ウェディングドレスに身を包んだ私の髪を、お義母様(ルクレツィア様)が優しく整えてくれました。
今日のお義母様は、頭の真っ赤なリボンを今までで一番美しく結び、神々しい純白の翼をふんわりと広げて、まさに本物の『世界の聖母』そのものの神聖なオーラを放っています。
お義母様は私の鏡に映る姿を見つめながら、ふっと柔らかく微笑みました。
その頭上では、今日も見慣れたポップなチャイムと共に、ピコピコと緑色の『脳内カンペ』が最後の通知を告げていました。
(フフフ……あばばばばば。ついにこの日が来てしまったわね。最初はあんたの『領地発展スキル』を奪って、合法的に消し去ってやろう(暗殺)と思って嫁いできたのに。まさか数年後、あんたが王妃になって、私が世界を救った伝説の聖母として神殿に祭られることになるなんて、今でも夢か幻かと思うわ。……でも、もういいのよ)
お義母様はそっと私の肩に手を置き、脳内カンペの悪意を完全に消し去った、本当の「お母様」の優しい声で囁きました。
「シルフィアちゃん。私、あなたのお母様になれて、本当に……本当に退屈しない毎日でしたわ。王宮へ行っても、その無敵の笑顔で、世界をあなたの色に染めておしまいなさい」
お義母様の初めての本音。
けれど、前世の過酷な環境をすべてハッピーに変換して生き抜いてきた私のポジティブ脳は、そのお義母様の言葉を、人生で一番最高のご褒美として受信していました。
『大・大・大成功! お義母様、最初のスープの時からずーっと、君がいつか世界で一番幸せな王妃になれるように、命がけの厳しい特訓(暗殺計画)で君を鍛え上げてくれていたんだよ! お義母様は照れ屋さんだから悪女のフリをしていたけれど、世界で誰よりも君の幸せを願ってくれていた、本物の最高の「お母様」だよ!』
「はい! お義母様!」
私は振り返ると、涙で視界を滲ませながら、純白のドレスのままお義母様の胸へと勢いよく飛び込みました。
「私、知っていました! お義母様が厳しいスープや、過酷な労働や、学園の地雷原を用意してくれたのは、全部私が王妃になるための愛の英才教育だったんですよね! お義母様が私の新しいお母様になってくれて、私、世界一幸せです! 今まで本当に、ありがとうございました!」
「……え? ええ、ええ。まあ、そういうことにしておきましょうかしら、フフフ……あばばばばば」
お義母様は一瞬、いつものように目を見開いて固まりましたが、すぐに諦めたように、そして心からの愛おしさを込めて、私の背中をギュッと抱きしめ返してくれました。
大聖堂の扉が開き、眩い光が差し込みます。
私が第二王子の待つバージンロードへと一歩を踏み出したその瞬間、お義母様の身体から、全次元の神々すら涙するほどの凄まじい「奇跡の聖母光線」がブワッと溢れ出し、会場全体を永遠の祝福の光で包み込みました。
お父様は大号泣し、エリザベスちゃんは歓声を上げ、魔獣たちは嬉しそうに遠吠えを響かせます。
世界一ズレたお義母様の悪意と、私の無敵のポジティブ脳。
その二つが織りなした、世界で一番優しくて、世界で一番平和な『勘違い』の物語は、これからも大陸全土を巻き込みながら、どこまでも、どこまでも幸せに続いていくのでした。
「お義母様! ハネムーンから帰ったら、また一緒にポテチ食べましょうね!」
「ええ、待っていますわ、私の可愛いシルフィアちゃん――!」




