第67話 思わぬ接触
「つまり、こいつがハンターのターゲットになったってことか? 」
あの男をハンターの一味とするなら、そう考えることもできる。奴は消える直前に、賞金首がどうのこうのと言っていたわけだしな。
「私はそう思います。あの瞬間移動は、ハンターでも上位の者が使えるものですし」
「ちょっと待って、ハンターが絡んでいるって言いたいことは判るけど、何でソフィナがそんなことを知っているわけ? 」
「元々私はハンターの一味だったので、その辺のことはある程度知っているつもりですよ」
おいおい。
ここで、それを言ってしまったら、大変なことになってしまうぞ……。ドラゴン討伐隊崩壊に繋がるかもしれないのに。
現にソドとアンナは言葉を失い、固まっている。
ソフィナはそんな空気を察したのか、わざわざ俺の脇へやって来た。
「ハンターの一味だった私を、イゴルさんが助け出してくれたのです。だから今度は私が、イゴルさんのお役に立たないといけませんね」
「なるほどな。何となく、このドラゴン討伐隊について色々と見えてきたぞ」
そう言って、ソドは納得した表情を浮かべる。
「要するに、みんなハンターに関わっているってこと? 」
アンナも察したようだ。
落ち着いた状況で話そうという心構えが、崩壊を防いだのかもしれない。もし、表面上ですらギクシャクしていたなら、今のソフィナの発言でドラゴン討伐隊は終っていた。
「俺もそう思う。こいつはハンターに親友を殺されたらしいし、ソフィナはその一味だった。俺やアンナは身近な人物がハンターの一味だったわけだ」
「ところで、ドラゴン討伐隊の創設にはレゲムークの王宮も絡んでいるのですよね? 」
「そう言えば、俺らを推薦したのは王宮だったらしいな」
「……もしかして王宮は、わざわざハンターに関係するアタシたちをドラゴン討伐隊のメンバーにしたってこと? 」
その点は、俺も気になっているところだ。
主たる目的は、俺の上司に対する嫌がらせなのだろうが、何故ハンターに関係する者たちを集めたのかは判らない。
ハンターに関する捜査は、王立騎士団と教会騎士団が行うものと公表されたばかりだ。わざわざ、俺たちに調査をさせる気は無いはずである。
国家憲兵隊に市警、それに何よりも冒険者ギルドを捜査から外したわけだしな。
言葉通り、ドラゴン討伐をして欲しいのだろうか……。
「そうかもしれないな。てか、さっきからダンマリを決めてるけど、お前何か知ってんじゃないの? 」
と、ソドが俺に話をふってくる。
「いや、何も知らない」
ある程度の想像は出来ても、実際に王宮内で何があったかは知らない。
まあ、俺の姉が王宮関係者であるが、今まで俺に干渉することも無かったわけだし、今回のドラゴン討伐隊の創設に関わっているとは思えない。
もっとも、イルザが姉に働きかけたのなら話は別だが、彼女の様子を窺うに、それも無さそうだ。
「本当に何も知らないのか? 」
「ああ。イルザも寝耳に水のような感じだったしな」
「そうか……」
と、ソドは残念そうな表情を浮かべる。
ハンターに関してなら知っている情報も色々あるが、そう簡単に言えるわけが無い。
「ところでさ、イゴルって本当にハンターの件から手を引きたいの? 」
昨日、アンナにそんなことを言っていたな。
確かに俺は、当初ほどのモチベーションは無くなっているし、実際に手を引いたつもりだった。
俺は黒装束からオーガストに関する顛末を聞かされたわけだし、彼らとは手を引く取引もした。それと並行するように、国家憲兵隊は捜査から外されたわけでもある。
オーガストがハンターの一味だったというのは嘘かもしれないが、少なくとも俺のモチベーションには多大に影響したわけなのだ。
「今しばらくは様子を見たいと思っていた。今後の状況次第では、また俺自身が勝手に動くつもりではあったが……」
「でも、むしろ向こうからイゴルに接触してきている感じってわけ? 」
「ああ。状況から見るに、そうなっているようだ」
「さっきのアレを見れば、アタシも納得だね。むしろイゴルが賞金首にされてるわけだし」
先ほどの件については、やはり魔族が絡んでいると俺は考えている。
ただ、ソフィナの見解も考えるとハンター絡みの線も無視はできないのも確かだが。
「今日はもう寝よう。俺も1人で考えたいしな。皆に相談するのは、それからだ」
俺がそう言うと、3人とも頷いた。
俺の身に起こった事だけに、普段と違って気を遣ってくれている感じだ。
「なあ、明日は8時半出発で良いか? 」
解散間際にソドがそう言い、3人とも頷く。
さて皆が寝静まった頃合いを見て、俺は部屋を出た。別々の部屋に泊まっているが、念のためにである。
事の次第を上司に伝えなければならない。
無事に報告を終えた俺は部屋へは戻らず、外をぶらつくことにした。こう言うときは寝床でじっとしているより、外をうろついた方が気分も晴れるからだ。
「イゴル・ボルスト捜査官」
「……」
不意に声をかけられた俺は、立ち止まった。
気配は無かったはずだ。それに、俺を捜査官を呼ぶことから、考えられるのは黒装束の連中が接触してきたということだろうか。
しかし、1つ疑問点がある。声からして、女性なのだ。つまり、声が変えられた感じではないわけである。
ともあれ、俺は振り向く。
「初めましてかな? 」
フードを被った小柄な人物が立っていた。周囲の明かりから、フードの色は辛うじてブラウンであろうことが判る。
少なくとも、黒装束姿ではない。
「俺に何の用だ? 」
「まず、簡単な自己紹介をしよう。私はハンターと呼ばれる一団の幹部に当たる者だ」
「は、ハンターの幹部だと!? 」
思いもよらない者の接触に、俺は身構えたのであった。




