第66話 賞金首
ソフィナから逃げた俺は、人気の少ないところを歩いていた。
不審な動きを取る者がいれば、俺は直ぐに対応できる。問題はない。
1人の男が、恐らく泥酔しているのだろうか座り込んでいた。俺は、気配でそこに誰かがいることは判っていたので、男を避けるように進んだ。
「おい」
どうやら、質の悪い酔っ払いだったようだ。
奴が、絡んできたのである。
髪は長く、無精ひげを生やし、安酒の瓶を左手に持っている。
「何だ? 」
俺はそう訊き返した。
「テメぇの顔は覚えているぞ! テメェのせいで、俺の人生は滅茶苦茶だ」
「俺がお前に何かしたのか? 」
仮にハンター絡みなら、俺が関わっている可能性も無くはない。
「テメェだけは殺してやる」
男はそう言うと、銃を手にした。
瞬時に事態を把握した俺は、波動魔法を放つ。銃は男の手を離れる。
「今、何か出したか? 」
数秒置いて、俺はそう言った。
普通の者なら慌てふためいているだろう。だが、この男は銃を失っても攻撃的な態度を取り続けていた。
「お前のせいでオレは全てを失ったぁぁぁぁあああああアアア」
男はそう叫び、今度はナイフを取り出して迫ってくる。表情からして、強い憎悪を抱いているようだ。
とりあえず俺は波動魔法を放ち、男を吹き飛ばす。
「何がしたい? 」
倒れている男に近づき、俺はそう訊ねつつ拘束した。
「アーカジの狗に成り下がっても、現役の頃と同じだってわけだ」
急に落ち着きを取り戻した男に、俺は困惑した。
数秒前までの、あの憎悪はどこへ消えたのだろうか。
「こんなことをする目的は何だ? 」
「アーカジに対する報復だよ」
なるほど。よくわかった。
「今日、俺がシェヌロカの町に来ることを誰から聞いた? 」
ところで、シェヌロカの町にやって来て怪しい動きをした気配はなかった。そう考えると、単なる偶然という結論に至りそうだが、安易に偶然と片付けるわけにもいかない。
「さあな? 」
男はとぼける。
それからニヤニヤと笑うと、訳の分からない言葉をブツブツと言い出した。ある種のメロディにようにも聞こえるため、薄気味悪い。
3人の気配が、こちらに向かって近づいて来ていた。誰であるかを特定することは出来ないが、大体の予想はできる。
「とりあえず貴様を連行する」
俺がそう言って、男を立たせようとした。
このままだと間違いなく、面倒になるからだ。
「おいっ! お前何してんだよ」
ソドの声だ。
既に、遅かったようだな。誰かと揉めているところを目撃されたわけだし、後で色々と追及を受けるに違いない。
だが、それでもこの男を何とかする必要がある。
「既に王都以外、お前を狙う賞金首がうじゃうじゃいる。本隊もボワド市に到着した。せいぜい捕まらないようになぁ? 」
男はそう言うと、突如として消えた。
そこに存在していたのが、一瞬にして綺麗さっぱり無くなったわけである。俺は奴の腕を掴んでいたが、まるで物理的な要素を一切無視したかのようだ。
「……」
俺はその場で、立ち尽くす。
整理が追い付かない。だが、何か特殊な魔法が使われたのだろう。
そして、俺に目を付けて攻撃してきたことも考えると、魔族かそれに関係の深い人物である可能性がある。魔族は魔法の研究に長けているし、それに俺を恨む魔族もそれなりに居るだろう。
「今の技は、ハンターでも一部の者のみが使える瞬間移動かもしれませんね」
と、ソフィナが俺の脇にやって来て言う。
ようやく整理できそうだったところを、搔き乱された感じだ。
「ちょっと待て。一旦場所を移して、落ち着いて話そうぜ」
ソドの提案で、俺たちは一先ず宿屋へ戻ることにした。




