第65話 交流
それから1日かけて、ようやくシェヌロカの町に到着した。
既に日は傾いているが、ちょうど街が賑わう時間帯でもある。少しばかり、羽目を外したくなる。
「疲れたし、早速宿屋を探そうぜ」
くたびれた表情を浮かべたソドが、そう提案する。少しは打ち解けて来れたのかもしれない。
「そうだな。宿は早いところ確保した方が良いだろう」
そして俺たちは、宿探しを始めた。
シェヌロカの町にも、いわくつきの安宿はある。自宅以外ではあまり寝られない俺としては、そのような宿屋でも良い。
野宿などと比べれば、明らかにマシである。
冒険者ならソドたちも、俺と同じ感覚な気がするが……。
この妙なざわめきは、何だろうか。
「せっかくだし、少し良い宿屋でも当ってみないか? 」
「いや、無駄な出費は避けた方が良いだろう」
「旅費手当があるだろ。もしかして、お前知らなかったのか? 」
旅費手当については、イルザから聞かされている。そして旅費手当は、各隊の隊長が申請するのが慣習となっていることもだ。尚、申請時には領収書なども提出しなければならない。
「旅費手当って何? 」
アンナが飛びついた。
「言葉通りだろ。依頼を遂行するために生じた旅費を『遊撃騎士団』が払い戻してくれるってわけだ」
「そんな手当があるんだ? 流石は『遊撃騎士団』だね。やっぱ、あこがれのクランに入れて、良かったぁ」
「ところでお前さ、領収書とか持っているよな? 」
ソドがそう言うと、それに反応したのかアンナとソフィナも俺に視線を向けて来た。きちんと、やるべきことをしなかった人にとってはヤバい状況になるだろう。
あえて、嘘をついてみるか。
「いや、面倒だったからそんなものいちいち受け取ってない」
俺を除いて、3人が固まる。
まあ、特にソドからすればあり得ない話だろうな。
「イゴルさん、馬鹿なんですね? でも馬鹿なイゴルさんに一度は支配されてしまった私はもっと馬鹿ですから、ご安心ください」
意外にも、真っ先に反応を返してきたのはソフィナだった。相変わらずおかしなことを言っているが、物凄く馬鹿にされている感じがする。
「お前さ、何でそんなに馬鹿なの? こいつもう駄目だわ」
と、ソドはうんざりした表情を浮かべる。
「まあ……。アタシは『脱兎の耳』に居たときは、自腹だったし、てか安宿にしか泊ってなかったし別に良いけどさ……」
そう言うアンナも、声のトーンからしてテンションが下がっていることがわかる。
「じゃあ、今日の晩飯は俺のおごりだ。3人で相談して、店でも決めてくれ」
すると3人の表情は、見る見るうちに明るくなった。
全く、現金な奴らだ。
ところで、領収書はきちんと管理している。王都に戻るまでに、いたずら心で嘘をついた言い訳でも考えておこう。
それから宿を確保した俺たちは大衆食堂に入り、皆してたらふく飲んで食べたのであった。もちろん会計は高くついたが、頻繁におごるつもりないし、元々貯金の多い俺からすれば問題ない。
「お前も案外太っ腹なんだな? 」
腹一杯食って満足したのか、ソドの表情もいつもと違って穏やかなものだ。そんなソドに、酔ったアンナがやたら絡んでいる。具体的に言えばボディタッチが多いわけだが、その度に赤面するソドを見ていると面白い。
だが、俺もソドの様子を見て楽しんでいる場合ではない。
酔ってもないのに、先ほどから俺にちょっかいを出してくる女子がいるからだ。年齢的にアウトだし、俺からすればストレスになるだけなんだが……。
「なあ、俺は男だぞ? そのへんも考えてくれよ」
「もう既成事実はありますよね? なら、もう1回くらい良いじゃないですか」
「いや、俺はそんなことしてないぞ? 」
「そんなことって、何ですか? 」
これは、完全に挑発されているようだな。言葉尻を取って、じわじわとイジメてくるタイプのようだ。よりにもよって俺好みな態度をとって来るのが、益々ストレスになってくる。
「……」
「そんなに照れちゃって」
危ない。
本能がそう叫んでいる。いや、理性なのだろうか?
とにもかくにも、俺は走った。あえて口に手を当てて、酔って気分が悪くなったふりをしながらだ。




