第64話 危ういチーム
「2人とも眠そうだけど、夜遅くまで喧嘩でもしてたの? 」
と、アンナが言う。
ちょうど今、4人で朝食を食べていた。
「別に。ちょっと早く起きただけだし」
不貞腐れた態度を示しながら、ソドがぼやく。
「俺は慣れた場所で寝ないと、早く起きてしまうんだ。それで、一度起きてしまうと寝られないもんなんだよ。これがな」
俺がそう言うと、ソフィナが話に食いついてきた。
「わかります。私も野宿とかしてた時、長くて4時間くらいしか寝られませんでしたし」
ソフィナは、ハンターの一味として活動していた時のことを言っているのだろうか。
「俺も野宿の経験はあったが、確かにあまり寝られなかったな」
戦地でのことだ。
今思えば、当時の俺は短い睡眠時間でずっと過ごしてきた。だから、多少まともな所で寝ると、比較的長く寝ていた記憶がある。
まあ、最近だとミズロン村で寝泊りした時もあまり寝られなかった。
「そうですよね! やっぱりイゴルさんと私は気が合うと思います」
何だか、これはこれで面倒な方向に話が進んで行きそうだ。現に、アンナとソドがジト目で俺とソフィナを見ている。全く、とばっちりも甚だしい。
とはいえ、やはり俺がドラゴン討伐隊の中で最も警戒すべきはソフィナだ。彼女の前で油断するわけにはいかない。元々はハンターの一味であったわけだし、何を考えているか判らないわけだからな。
そう考えると、今の会話のように変な話に持って行こうとするのも、計算されたものである可能性がある。
朝食を終えた俺たちは、それぞれ支度を済ませ今は馬車の中に居る。昨日と同様に、退屈な時間が続く。早く夜になって欲しいものだ。
まあ、今日中にはシェヌロカの町に着くだろうし、今夜はそれなりに楽しめるだろう。
「そう言えば、スケルトンの異常繁殖はどうなったんだ? 」
ふと、スケルトンの異常繁殖の件を思い出した俺は、ソドに訊ねた。
「一応、あの場所に出現したスケルトンは全部始末した」
「それは良かった」
とりあえず、異常繁殖したスケルトンを始末できたのは幸いだろう。
しかし、根本的な問題は依然として解決していない。骸骨の模型さえあれば、いくらでもスケルトンを発生させることが出来るのだからな。
「だが、あのスケルトン異常繁殖の件にもハンターが絡んでいたんだろ? 」
既に、ソドもその話を聞かされたようだ。
「ああ。俺もそう聞いている」
「あの場で、わざわざお前が調査のためにやって来ていたこと。それに、ロム隊長があの場で行方不明になったこと考えると、俺たちは井の中の蛙だったわけだ」
ソドにしては、ネガティブな発言のような気がする。まあ、ロム隊長の下にいた身として、やるせない気持ちがあるのだろう。
「でもソドだって、スケルトン討伐に貢献したことで、支部長から褒賞されたじゃん。目の前の問題を解決することだって、とても大事なことだと思うよ」
ずっと黙って聞いていたアンナが、そうソドを励ました。
「でもロム隊長の正体を見抜けなかった。ずっと一緒に居たのに。せめて俺が判っていれば……」
仮に早い段階で、ソドがロム隊長の正体を見抜いていたら、ロム隊長はどうなっていたのだろうか。ソドのことだし、冒険者ギルドに報告はしただろう。
そう考えると、ソドが何を気にしているかが判ってくる。
「よりにもよって、国家憲兵隊に捕まったからな」
あえて、俺はそう言った。
「ああ。あいつらだけはダメだ。あいつらは、無実の者でもギロチン刑にするような連中だ。きちんとした取調なんてしないよ。どうせな。ロム隊長は今この時間も拷問を受けているかもしれない」
ソドは、数十年前に起こったレゲムーク革命戦争の時代のイメージで言っているのだろう。当時の国家憲兵隊は、確かにとんでもないこと多くやってきた。
厳密には国家憲兵隊と革命裁判所の2つがセットになって、諸々のことをやらかしたと言った方が良いだろうか。
ともかく、俺の勘は当たったようだ。
ソドも多くの者たちと同じように、国家憲兵隊を毛嫌いしている。
「だが、今は国家憲兵隊も大人しい。そこまで心配しなくても良いじゃないか? 」
革命戦争当時に比べれば、今の国家憲兵隊はかなりマシになっている。
「そんな話、誰が信じられるかよ」
「まあな」
「そう言えば、ロム隊長って国家憲兵隊に捕まったんだよね。そう考えると、イルザ副団長やイゴルが居た現場に、国家憲兵隊も居たってことでしょ? 」
いずれ、その点を追及されるとは思っていた。
もっと言うと、昨夜ソドと話している時に、その場で追及されると覚悟していた。
「実は、国家憲兵隊の捜査官1人が同行してたんだ。デニス宅での捜査で、何かを掴んだのだろう」
「そうか。デニスの家を捜査してたのって、国家憲兵隊だったんだ。知らなかった」
国家憲兵隊がデニス宅を捜査していた事実は公表されているが、意識しなければわざわざその情報を知ることもないだろう。
「そう言えば、アンナは国家憲兵隊からの取調は無かったのか? 」
「アタシが取調を受けたのは王立騎士団だったし、それ以外から何か聞かれることは無かったよ」
なら、やはり裏での取引が影響しているのかもしれない。
「要するに、王立騎士団や教会騎士団が捜査するから国家憲兵隊は手を引いたってことだろ? 前に誰かがそう言っていたぞ」
「ああ。だから、俺たちもハンターの調査はしない方向になったんだよ」
「その話は知っているけどよ……。てか、手を引いたんならロム隊長の身柄も王立騎士団に移せって言うんだよ」
何とか、あの現場での詳細を詰められることは無さそうだ。
俺が安堵しているその脇に、ソフィナが座っている。
今のドラゴン討伐隊にとって彼女の存在は、色々な意味で危険な火薬庫だ。もし何かあればドラゴン討伐隊は木っ端みじんになるだろう。
俺が隊長を務めている間に、せめてもの置き土産として、その要素の1つくらいは排除してやりたいものだな。




