第62話 ソド
どれだけ飲むと、次の日に支障をきたすかも大体は判っているので、そのラインは超えないようにしている。だが、今日はアンナと一緒に飲んだためか、少し酔いの周りが早い気がする。量的には問題ないのだが、飲むスピードが速かったということだ。
今日はこの程度で止めておくとしよう。
俺はそう思い、席を立ちあがった。ここでは会計は注文する際に逐一済ませる方式なので、そのまま部屋に戻れば良い。
一旦外に出て、屋外の階段まで向かう。
「大人は良いな? お前のような奴でも、こうやって楽しめるんだからよ」
と、俺は門番らしき男に絡まれた。
「別に良いじゃないか。絡んでくるん……」
よく顔を見てみると、その正体はソドだった。
気配からして、門番の類だと思っていた。ほぼ同じ場所で立っていたので、そう判断してもやむを得ない。
「ここで何をしているんだ? 」
「お前に用があるから、ここで待っていたんだよ」
俺に用があるとはな。だが、ずっと俺を待っていたということは、何か大事な話でもあうのだろうか。
「それで、何か話でもあるのか? 」
「ああ。ロム隊長のことでな」
何か、嫌な予感がする。
「ロム隊長がどうした? 」
「ロム隊長がハンターの関係者だとチクったのはお前だよな? 」
予感は的中と言ったところか。
しかしながら、まさかハンターの話を絡めてくるとは、これは面倒になりそうだ。
「いや、シンプルに言えばロム隊長は例の現場で不審な行動を取ったから逮捕されたわけであって、別に俺がチクったわけではない」
まあ、逮捕したのは俺だがな。
「不審な行為って何だよ? 」
「……アンナの捕まっていた小屋の付近で見張りのような形で立っていたらしいし、充分不審な行動だろ」
あくまでも、俺が逮捕したわけではないというストーリー(つまり嘘)で話している。
「聞いた話では、お前も現場に行ったそうだよな? しかし、アンナが言うには救出された時、お前の姿は無かったらしい。なら、お前はどこで何をしてたんだ? 」
これは、俺が国家憲兵隊に所属しているのだと推測しての訊かれているのだろうか。まあ、いずれせよ面倒くさくなってきた。
「周囲の警戒だよ。思わぬ奇襲に対処するため、俺は少し離れたところで待機していた」
「F級冒険者が1人で待機か? 随分と不自然だな」
「俺はドラゴンを討伐した実績がある。あれは嘘ではない。だから、イルザ副団長はその実績を見込んで、俺1人に周囲の警戒を任せたのだと思う」
実際のところ、俺が提案して勝手に行動してたわけだがな。
「そのドラゴン討伐自体、信じる気にはなれないね。俺が思うに、お前はハンターの雑用なんじゃないか? 」
どうやら、ソドは俺にとって想定外の推測をしていたようだ。まさか、よりにもよってハンターの雑用だと思われていたとはな。
「どうしてそう思う? 」
「行動から見ていれば何となく判るだろ」
まさか、何となくという理由だけで疑われているのだろうか……。
「例えば、どういう行動だ? 」
「だから何となくだよ。だが、どう考えてもお前の行動は怪しすぎろだろ」
「怪しすぎるって言われてもな……。だが、俺がハンターについて調査してたから、そう周り写るのかもしれないな? 」
確かに、怪しいと思われる部分はあるある。今俺が言ったように、突然ハンターについての調査に力を入れたことだ。
元々は冒険者大会で優勝してハンターを誘き寄せるという、ある種のおとり捜査方式を考えていたが、エリンからハンターについての話を聞かされたことで、俺の方針は一瞬にして変わった。
「むしろ、その調査自体が怪しいんだよ。調査しているふりして、支部長やイルザ副団長たち、それに市警に接触したんじゃないか? 接触して、調査状況を把握するのが目的だったとかありそうだもんな」
「いや、調査している内に自然と関わることになったんだよ。その結果が、デニスやロム隊長に繋がった」
「そもそも、お前がハンターについて調査してた理由は何なんだ? 」
やはり、そこが気になるわけだな。
「オーガストって知ってるか? 」
「当然知っている。前回の冒険者大会で優勝して、そして惨殺死体として発見された」
「……そのオーガストが俺の友人だったんだよ」
俺がそう言うと、ソドは睨め付けてきた。
この様子だと、全く信用されていないようだな。
「信じられないな。まず、お前との接点があるように思えない。むしろ、オーガストさんの死にハンターが関わっている可能性があるから、お前が今ここで話に出しているだけだろ? 」
まあ、そのオーガスト自身がハンターの一味だったという情報もあるのだがな……。
「オーガストの本業は知ってるか? 元々、あいつは記者だった。しかしある日突然、冒険者になるって言って、結果あんなことになったんだ」
実際は従軍記者もやっていたわけだが、それは伏せておこう。
「記者? 」
「ああ。あいつの書いた記事なら、それなりにある。気になるなら見せてやるよ」
とは言っても、新聞などではなく週刊誌の記事なんだがな……。
「どういった経緯で繋がりを持ったんだ? 」
「接点は、先日俺が依頼した探偵事務所だ。元々、オーガストは、その事務所で働いていたからな」
「なるほど……。なら、今日のところはこれ以上聞かない。だが今後、お前が怪しい動きを見せたなら、容赦なく追及するから、よく覚えておけ」
ソドはそう言って、階段を上っていく。
容赦ない追及か。なら、俺に対して拷問でもするのだろうか。
拷問は非道だ。レゲムーク王国法でも、明確に禁止されている。
しかしながら、仮に心から真実を求める者が行うなら、ある意味では真実に辿り着くための劇薬になるのかもしれない……。
さて、俺もそろそろ寝るとしよう。




