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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第2章 遊撃騎士団ドラゴン討伐隊 爆誕! ~ そしてハンターの影
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第61話 アンナ


 嫌な雰囲気のまま数駅に立ち寄り、やがて夜になった。

 特急馬車ではないためシェヌロカの町に到着することはなく、馬車駅併設の宿酒場で一晩明かすことになったのである。


 町のような場所ではないため大した娯楽はないが、酒が飲めてちょっとした賭け事が出来るだけ、充分ありがたい。


 早速、かけつけ1杯。

 長い移動と+aで疲れた頭に、ビールは最高だ。


「やっぱり飲んでたんだね? 」


 アンナだった。

 顔がうっすら赤くなっているので、彼女も飲んでいるのだろう。既に成人にはなっているし、問題はない。


「まあな。長い移動は疲れるし、ストレスは溜まるし、早くお役御免になりたいね」


 俺はそれなりの頻度で酒を飲んでいるが、しばらく毎日飲むことになりそうだ。


「さっき、臨時の隊長とか言ってたけど、それは本当の話なの? 」


「正式な形で臨時という訳ではないが、俺はそういうスタンスで行きたいんだ」


「どういうこと? 」


「アンナには言っておくが、そう遠くない内に俺は冒険者を辞めるつもりなんだよ」


 俺がそう言うと、アンナはやけに神妙な表情を浮かべた。彼女にしては、珍しい反応のように思える。


「イゴルってさ、何か明確な目的があって冒険者になったの? 」


 流石に勘づかれても仕方ないな。


「……冒険者大会に出ることが目的だった」


 しばしの間、お互いに沈黙しあう。

 そして、アンナが顔を上げた。


「つまり、冒険者大会で優勝することでしょ」


「ああ」


「何故かハンターについて、あれだけ嗅ぎまわっていたわけだし……。つまり冒険者大会で優勝して、ハンターを誘き出そうとしていたわけね」


 まさに、俺が冒険者になった動機だ。

 アンナの言うとおり、冒険者大会で優勝してハンターを誘き出すことが目的だった。至ってシンプルな方法だが、俺自身を囮にすればもっとも有効なやり方だと今でも思っている。


「デニスのことはもう聞いたのか? 」


「……色々とね。ショックだよ。リーダーとしてメンバーを引っ張ってくれてたし、アタシも信頼していた。だけど、頭のおかしい趣味があったこととか、副支部長に賄賂を贈っていたこととか、しかもハンターの協力者だったとか、ありえないでしょ」


 信頼していたリーダーの顛末。

 しかも、アンナを含めた『脱兎の耳』のメンバーは攫われて、殆どが未だ行方不明というわけだ。

 さらに、その直後に『脱兎の耳』の解散手続きまでやらされたわけだし、とても気の毒である。


「なあ、訊いても良いか? 」


 だが、とうとう訊かずにはいられなくなった。


「何を? 」


「攫われた時のことだ。俺はハンターを追っていたわけだが、結局『脱兎の耳』が攫われた理由は知らされていないんだ」


 上司も、その点は一切話してくれなかった。


 また、新聞でも数名の冒険者が攫われたという事実だけが少ない文字数で書かれたのみで、その詳細は一切語られていない。

 

 隠したい事実でもあるのだろうか……。

 少しくらい聞いても、それだけなら問題はないだろう。むしろ今引き受けている依頼の方が問題なのだから。


「もうハンターの件から手を引くんじゃなかったの? 」


「まあ、そのつもりなんだがな……」


「何かあったの? 」


 紫色の装束姿の2人に絡まれたという……とんでもない出来事があったわけだが、それを素直に話すわけにもいかない。


「いや、意外と身近にハンターが絡んでいる事案は多い気がしてな。手を引いたつもりが、知らず知らずのうちに首を突っ込んでいたことにもなりかねない」


「なるほどね…………。実はアタシ、あまり覚えていないんだよ。気づいてたらあの小屋で捕まっててさ。最初はデニス以外のメンバー全員が小屋の中に居たんだけど、1人ずつ連れ出されて……」


 それ以降、アンナを含めた3人を除いて他のメンバーは行方不明ということか。


「つまり、ハンターに攫われたという事実も後になって判ったことなのか? 」


「そういうこと。だから、王立騎士団の人にも同じことを言った」


「なるほど」

 

 それから、俺とアンナは雑談をしなかがら酒を楽しんだ。

 会話の殆どは、俺が『脱兎の耳』に所属していた頃のことだったが。

 


「それにしても、イゴルって、やっぱり冒険者って感じじゃないよね。実力はあるみたいだけどさ……。なんて言うか犬みたいだよね? 」


「犬? 」 


 何故犬なのか……。

 俺は真面目に訊き返した。


「ワンって吠えてみて。お手とかできる? イゴル君? 」


 そう言うアンナの呂律は、少しずつだが回らなくなってきているようだ。

 思いの他、酔ってきているのかもしれない。

 

「アンナ、もう部屋に戻って休め」


「……そうだね。ちょっと頭が痛いし、お先に休ませてもらうわ……」


 そう言うと、アンナは立ち上がり部屋へと戻っていった。千鳥足では無いし、まだ酩酊しているわけでもないだろう。そう考え、俺はアンナを介抱することはせずに1人で部屋に行かせた。迂闊に介抱するものなら、あらぬ疑いをかけられかねないし、それに変な気配も無いので、問題は無いだろう。


 だから、あと少し飲むことにした。


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