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幕間1


 王都ムーク市で起こった騒乱事件から数日が経ったある日……。

 ここ最近王宮からの呼び出しが多いイルザは、今日も王宮から呼び出しを受けており、その道中にあるロミーナの家を訪ねていた。ロミーナやエリンの姉であるセレーナにちょっとした用があったからだ。


「イルザさん、こちらがデニスの書き残した手記です」


「ありがとうございます。セレーナさん」


「いえいえ。ハンター(・・・・)に関する捜査に協力してくださったわけですし、このくらいは当然です」


 結局イルザを含めたメンバーは、ハンター(・・・・)の正体は掴めず、唯一の成果と言えば『脱兎の耳』メンバーの一部を助けたことだった。

 しかし幸いなことか、デニスは捕まった後、殺されるまでの間に手記を残したことが判明したのである。

 

「……それにしても、興味深いですね。最後にこんなものを残すなんて」


「死を悟って、殊勝になったのかもしれませんね」


「まさか……」


 イルザは受け取った手記を見て、驚愕した。

 手記の内容はこうだ。


―――― 


 こうなった以上、僕は殺されるだろう。ここが王立騎士団の監獄であるとは言え、相手は暗殺にも長けている。何事も無かったかのように、僕を殺すはずだ。イゴル・ボルストさえ居なければ、僕はこうならなかった。


 だがイゴル・ボルストのことは、この際どうでも良い。


 今ごろ、王立騎士団によって家宅捜査が開始されている頃だろう。仮に家宅捜査で例の物が見つからなかったとしても、連中からすれば懸念すべき事態だ。

 今までも平気で冒険者を殺しまくってきた連中だし、やろうと思えば直ぐに実行するはずだ。一斉に証拠隠滅を図るだろう。


 副支部長や『脱兎の耳』メンバー、そしてゲルトに下僕共も危ない。要するに僕と密接に関わってきた連中は、狙われる可能性が高いわけだ。


 原因は、僕が例の物の一部を、金払いの良い連中に又貸しをしてしまったせいだ。かなり数だったが、それでも僕が無事なら、うまく誤魔化すつもりだった。


 ところで、1つ判ったことがある。連中も一枚岩ではないらしい。よく僕と接触している奴がいるのだが、誰かから叱責を受けているところを偶然見た。

 どうやら、奴は勝手な行動を取っていて、それを咎められたようだ。


 その誰かについては、見当もつかないが、声からして女だろう。


 今更、何故か色々と書きたくなったわけだが、どうか頼む。連中を止めてくれ!



 ――――


「驚くのも無理ありませんね。少なくとも、デニスは危険極まりない組織と繋がりがあったことを認めているわけです」


「ええ。これまで判ったことと照らし合わせると、デニスはハンター(・・・・)と通じていたと言えるでしょう。それに1点だけ、特に気になる点があります」


 イルザは気になった部分を指し示す。


「……≪何事も無かったかのように、僕を殺すはずだ≫ですか」


 と、セレーナが、その部分を読む。


「はい。実際、王立騎士団からも犠牲者が出たと聞いておりますが……」


「仰る通りです。ですが、我々騎士団が賊の動きを察知した結果なのかもしれません。犠牲者が出てしまったことは皮肉としか言えませんが」


 仮に賊の侵入に気づかずに居れば、騎士団から犠牲者が出ることは無かったかもしれない。しかし、イルザは疑問が残ったままだった。


「この手記がいつ書かれたかは、判らないのですよね? 」


「はい。具体的な時間までは判りません」


 デニス死体が発見されたのは、襲撃直後のことである。よって、襲撃時に殺されたのだと推定されているわけだ。


「イルザさん時間も押してますし、そろそろ王宮へ行きましょうか。馬車をご用意いたします」


「……そ、そうですね」


 イルザはこれから、王宮へ行かなければならないだ。

 寄り道に時間を費やして、遅れてしまったら元も子もない。





 俺は、所謂いわゆる燃え尽き症候群のようなものに悩んでいる。

 親友オーガストを殺害した犯人が、黒装束姿の連中だったことが判ったときから、はっきり言ってどうでも良くなってしまったのだ。


 黒装束姿の連中が、俺を調査から外すためにあえて嘘を言った可能性もあるが、それを確かめようする気にもならない。


 しかし、やはり調べたいという気持ちもある。

 矛盾する2つの感情。


 この手の問題を解決するのは1つ。今は、一旦ハンター(・・・・)から手を引けば良いのだ。ちょうど、手を引く方向へ流されているいるしタイミングは良い。


「そういえば、探偵に報酬を支払わないとな……」


 まあ、俺が冒険者を今しばらく続けることになってしまったのも、ちょうど良い話かもしれない。


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