第56話 事件の収束
第56話で第1章は終わりです。
まもなく、第2章になります。
「ここに居ると聞いて来た」
ここは、国家憲兵隊が管理する監獄の休憩室だ。
今から冒険者ギルドへ行こうとしていた矢先、まさかの上司と出くわしたわけである。
「……今までどこにいらっしゃったのです? 」
仕事熱心な彼が、国家憲兵隊の指揮を放置してまで不在だったのだ。当然、何をしていたのか気になる。
「大聖堂と王宮だよ」
まさかの、大聖堂と王宮か。
タイミングを考えると、ハンターに関する件で何かしらの取引があったのだろうか。
「それで、両者とは何を? 」
「率直に言えば、ハンターの件から手を引けと言われたよ。だから、国家憲兵隊がハンターの件について、正式に捜査をするのは難しくなる」
つまり、今後は王立騎士団と教会が捜査をするということか。そうなると、昨日の支部長の態度も、納得がいく。支部長も王宮関係者から、何か指示を受けていたのかもしれない。
「それで、俺はどうすれば良いのですか? 」
「今しばらく自由にしろ。あくまでも個人的にハンターを追うのは、咎めはしない。だが、いつその時が来るかは判らない。もし急ぎの用事があるなら、早いところ済ませると良い」
既に上司の中では、俺に何をさせるか、凡その目途は立っているのだろう。そしてその日は近いわけだ。
「わかりました。再び、この地を去るまでの僅かな期間、仲間たちとの思い出でも作りますよ」
せっかく一部の冒険者たちと、関わりを持つようになってきたのだ。残りの日々を彼らのサポートでもするとしよう。
まだ、聞きたいことがある。
「ところで、スケルトンの件はどうなりましたか? 」
「お前もある程度掴んでいるかもしれないが、スケルトンの件にもハンターが絡んでいるとはっきりと告げられたよ。つまり、シェヌロカの町から逃亡した男もハンターの関係者だったということになる。だが、もはや我々が追うことも無いだろうな」
「そうでしたか。ところでハンターの正体は、ゾラン公国なのですか? 」
「私はそう睨んでいる。だから、ゾラン公国が関与していることを示す情報を集めろと言ったのだ」
ハンターの正体がゾラン公国なら、下手したら戦争になるかもしれない。
そうなれば、俺がゾラン公国へ派遣される可能性も出てくる。
だが、まだはっきりと判ったわけでは無いし、一先ず置いておくとしよう。
「また話が変わりますが、『脱兎の耳』のメンバーが攫われたのは何故ですか? 」
恐らく、その理由はデニス絡みなのだろうが……。
「さあな。興味があるなら、調べてみると良い」
俺の期待を裏切って、そう上司は言う。
単に知らないのか、或いは知っていてあえて言わないのか。
※
急遽、王宮から呼び出されたイルザは、そこでの用事を済ませて冒険者ギルドへ向かっていた。
王宮からの奇想天外なオーダーを受けたイルザは、酷く疲れている。
昨日、騒乱事件があったというのに、まるで王宮は何事も無かったかのように動いていた。だからこそ、平気であんなオーダーを出せるのか……イルザはそう感じた。
「流石のS級冒険者も、あんなオーダーを出されては混乱するかね」
不意に、何者かが現れた。
イルザが振り向くと、絶対に鉢合わせしたくない人物がそこに立っていた。1人なら尚更だ。しかも、イルザが受けたオーダーを知っていることを仄めかしている。
「何の用かしら? 」
「プレゼントの使い心地はどうだったかね? キミには資格がある。もし、興味があるなら待っているよ」
黒装束姿はそう意味深なことを言うと、素早くを消したのであった。
「……色々と面倒な連中ね。朝からこんなストレスが溜まるなんて。嫌な1日になりそう」
※
上司と別れた俺は、冒険者ギルドにやって来た。
特に何かをする予定はないのだが、ここに来るのが一番良いと思ったわけだ。時刻は午前6時前。冒険者たちも、それなりに集まって来ている。
「うわぁ。イゴルじゃん。こんな朝から何しているの? 」
やって来るなり、面倒なのに絡まれた。
『脱兎の耳』メンバーの女冒険者アンナである。昨日、ハンターに攫われたというのに、随分と元気そうだ。
いや、そう見えるだけで、実際は相当にしんどいのだろう。
「昨日の今日で大丈夫なのか? 」
「うるさいわねっ! 運よく遊撃騎士団の人たちに助けてもらったの。イゴルと違って、みんな凄いよね。そういえば、あんたの転属先の子も居たっけ」
「エリンのことか」
「そうそう。って、そこも追い出されたんだっけ」
「ああ。色々あってな」
とはいえ、エリンとの仲は修繕されたはずだ。昨日の彼女の行動は、誰よりも感動的だった。
「なら、ソロってこと? 」
「そう言うことだ」
まあ、今後もソロで活動して行くつもりだ。
その方が、俺は動きやすいからな。
「……そういうアタシも、『脱兎の耳』の後処理が終わったら、どこかのパーティーに拾ってもらわなきゃ」
リーダーであるデニスは死亡し、他のメンバーも殆ど行方が判っていない状態なのかもしれない。
「結局、生存が判明しているのは何人なんだ? 」
「今のところ私を含めて3人。だけど、2人は精神的に参っちゃったみたいでね。塞ぎこんでいる。そんな状況だから、支部長権限でアタシが臨時のリーダーになったわけ。たぶん求められているのは、存続することではなくて解散だろうし、書類をまとめて直ぐに終わらせるつもり」
しばらく俺とアンナが雑談を続けていると、イルザがこちらに向かてやって来るのが見えた。
「アンナさん、ちょっと来てくれる? 」
どうやら、アンナに用事があるようだ。
「貴方も来て」
俺にも用があるようだが、同時に呼ぶということは、アンナと俺に共通の話をするということだろう……。
そしてイルザに連れらた俺とアンナは、応接室でとんでもない話を持ちかけられたのであった。
その内容は、まるで俺の上司に対する嫌がらせのようなものだった。上司が既にこの話を知っているかは判らないが、とにかく、拒否し難いものだったのである。
何故ならその話には、王宮も関与しているからだった。
オーガストの顛末も聞けたし、冒険者という立場に用はないと思っていたが、今しばらく冒険者を続ける必要がありそうだ。




