第55話 連行
『遊撃騎士団』のメンバーでありその幹部でもあるロムが、ハンターの関係者だったのだ。イルザたちのショックは計り知れない。
だから俺は、イルザたちを撤退させた。いずれバレることは判っている。だが重要なのは、可能な限り時間を作って落ち着いた環境で伝える必要があるということだ。
「それにしても、引きこもりのイゴルが、まさか国家憲兵隊の捜査官だったとは思わなかった」
ロムが、国家憲兵隊を嫌っていることは判っている。
それ故に、引きこもりのはずの俺が国家憲兵隊の捜査官だったことは、かなり驚いたかもしれないな。
「どこかの誰かが、勝手に広めたのだろうな? 」
その点は、個人的にも気になるところだ。
出征していた間も、俺は自宅(実家)に引きこもっていたことになっている。そしてそれを、イルザも信じ込んでいたことは今となっては驚きだ。
「……国家憲兵隊の捜査官であるお前が、冒険者なんていう副業をしても良いのか? いや、潜入捜査の一環だったのか」
「ああ。いわゆるハンターに関する捜査を命じられてね」
全く以て嘘だが、こう言った方が辻褄が合う。
「今思えば、お前の行動には一貫性があったようだ」
いや、俺はあまり一貫性は無いと思うのだが……。
「何が言いたい? 俺はあくまでも上の指示に従ったまでだ。本隊とは違って、俺の役割は根拠は乏しいが、それでも怪しい事案を担当することだ。だから、かなりハードな立ち位置なんだよ」
実際、国家憲兵隊での俺の立ち位置は、今言ったとおりだ。
良くも悪くも別枠扱いを受けている。これは、国民衛兵軍時代が影響していると言えるだろう。
「お前は、わざわざミズロン村まで行ってドラゴン討伐し、今日のスケルトンの事件にも駆けつけた。しかも他の捜査官は、デニス宅の家宅捜索まで行ったんだ。実際、国家憲兵隊はかなりハンターについての情報を得ているのだろうな? 」
「さあな」
それは俺も本当に判らないんだよ。
再び、互いに無言の時間が続く。
それにしても、ミズロン村でのドラゴンについてを持ち出すとはな。あれは魔族が絡んでいる可能性ある。上司もその線で人員を動かしているわけだが、まさかハンターの件とも何か繋がっているのだろうか……。
もしそうなら、事件の真相が複雑怪奇になりそうだ。
一方で、スケルトンの件については、俺自身もハンターと繋がっている可能性はあると思っている。
そして、俺の当初の目的は思わぬ形で達成された。
オーガスト惨殺事件の犯人が、黒装束姿の連中だったということが判ったからだ。ところが、オーガストがハンターの一員だったという連中の暴露によって、新たな謎に突入しているが……。
俺たちは完全に、沼に嵌った。
結局、ハンターについての全貌なんて未だに判らない。
背後から足音が聞こえた。
駆け足で、こちらに向かってきていることが判る。
気配は全く感じなかったので魔力を一切持たない動物の類かと思ったのが、念のために振り向くとそこには、1人の黒装束姿が立っていたのである。
「イゴル・ボルスト捜査官。隠し事は良くない。『遊撃騎士団』のロムがハンターに関わっていたということを、きちんと皆に説明しなさい。さもないと、我々はお前に危害を加えることだろう」
そう言って、黒装束姿は先ほどの建物に向かって去って行った。相変わらず声は変えられたものであり、誰かを特定することはできない。
「噂に聞いていた黒装束か」
と、ロムが呟く。
「……ああ」
この不自然さは何だろうか?
他の黒装束姿とは、雰囲気が全く以て違っていた。それに、布の折り目もだいぶ目立っているようだ。無理矢理、小さく畳んでいたのだろうか。
とはいえ、気配を感じとることは出来ないのは確かだし、黒装束姿の連中の一員に違いない。
そして、俺はロムを連れて数時間かけて王都ムーク市に戻って来た。市内は相変わらず市警の関係者があちこちで見受けられたが、暴徒と出くわすことは無かったのは幸いだ。
もしかしたら、既にその殆どが制圧されたのかもしれない。
それに冒険者らしき者たちの姿も、あちこちで見受けられた。恐らく、暴徒鎮圧に駆り出されたのだろう。
俺は、国家憲兵隊が管理している監獄にロムを閉じ込めて、一休みすることにしたのであった。




