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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第45話 判明する事実

「イルザ、実は上司に飲みに誘われててな。だから、ここで失礼する」


 上司と飲みに行く約束などしていない。ただ単に、イルザと別行動をとりたいだけについた嘘だ。

 嘘をついた直後に後悔する。緊急時に飲みに行く馬鹿が、一体どこにいるのかと。


「わかった。でも今日は何があるか判らないし、あまり飲み過ぎないでね? 」


 イルザも、嘘だと判っているに違いない。

 しかし、特に追及してくることは無かった。


「ああ。飲みすぎないようにする」


 そして、俺はイルザと別れて、テキトウにぶらつく。


 今夜が勝負になりそうとはいえ、誰がどこに現れるかは判らない。


 例えば、市内をパトロールする警官たちを襲撃するにしても、それは下っ端か雇われたチンピラがやることだろう。今夜というタイミングでは、そのような連中に興味はない。

 もっと大物を仕留めたいのだ。


 とはいえ、ある程度予測できれば良いが、根拠もない限りそう簡単にできるものでもない。


「とりあえず、探偵のところに顔を出すか」


 いや、もっと大事なことがある。

 

 俺はそう思い立って、直ぐに上司のところへと急いだ。今夜起こり得る事態を真剣に考えるなら、上司と相談することが最も有効だ。


 

 だが、普段いる執務室に、その姿は無かった。

 周囲の者たちも、どこへ行ったかは判らないとのことである。しかし、今の王都市内の様子を見て自宅へ帰るような人物ではない。


 どこかで、何かをしているに違いないのだが……。



「ボルスト先輩」


 スーツ姿の青年が近づいてきた。

 国家憲兵隊捜査局で、俺の後輩にあたる人物だ。


「何だ? 」


「デニス宅の捜査班から連絡があり、1人の女性が保護されたようです。どうやら、デニスから虐待された形跡があるようでして……」


 デニスの件も気になるが、今はそれどころではない。


「情報ありがとう。その件は俺に構わずどんどん捜査してくれ。実は、今晩急ぎの用事があってな」


「わかりました」


「ところで、今朝の複数の火事があったのは知っているな? 」


「はい。その全てが、デニスがリーダーを務めていたパーティメンバーの自宅だったことも存じております」


 さすが、仕事が早いな。俺なんて、妹のイルザに教えてもらったというのに。


「なら、話が早い。人員を増やしてでも、デニスの自宅を守るんだ。では先を急ぐ」



 俺はそう言って、この場を後にした。

 上司を探して、時間切れになっては本末転倒だ。俺は急いで、探偵の事務所へ向かったのである。





「イゴルさん! 市警の特別予備隊が動いているようですが、何かあったんですか? 」


 探偵事務所にやって来るなり、探偵からそう訊ねられた。

 

「さっきボブ警部から聞いたが、市警はハンターの件で躍起になっているようだ。こんな調子だから、今夜が勝負になりそうだよ」


「なるほど……。今までの情報を前提に考えれば、ハンターの調査に当たっていた冒険者がより多く殺されているわけですから、何か動きがあるかもしれませんね」


「だから、今夜のことについて相談したいと思ってな」


 いっそのことハンターのアジトでも判れば良いのだが、探偵もまだ掴んでいないことだろう。


「……申し訳ございませんが、今夜の予測など私には出来ませんよ? 」


「そうだよな」


 探偵の事務所に来たからと言って、直ぐに問題が解決するわけでもない。だが、他に有効な手立てが思い付かないのも事実である。今夜必ず何か起こると、そう固く信じたところで結局何も出来ない。


「ところでイゴルさん」


 探偵はそう言うと、1枚のメモ用紙を手にした。何か、手書きで記されている。


「それは? 」


「関所近くで活動している知り合いに連絡して、ゲルト一行が持ち帰ってきた物の調査をお願いしたんですよ」


 なんとまあ、手の速いことか。

 俺が、のんびり過ごしている内に、彼はきちんと先へ進んでいるのだ。


「物が判ったのか? 」


「はい。骸骨の模型が大量に入っていたそうです」


「骸骨の模型……? 」


 そんなまさか。

 骸骨の模型……しかもそれを、ゾラン公国から持ち帰ってきたというのか。


「はい。ゲルトは関所の当局に、取引関係のある劇団から発注を受けて、ゾラン公国で仕入れたと述べているようで、その際に契約書も提示したそうです」


 一般の商人を装ったわけか。そして劇団との取引なら、骸骨の模型を運ぶことはあり得る話だ。整合性は取れる。


「その劇団の名称は判っているのか? 」


「はい。ウサギ劇団とか言う劇団でしてね。……商会登記もされているので、一応れっきとした商会です。設立登記の日は1年前みたいですね」


 商会登記と言うのは、レゲムーク王国当局が、王国内で商いをする数多の商会を把握するために設けられた制度である。


 そして、一般市民や商人たちにとってもある種の基準になっているわけだ。


 ①登記が有るからと言って、健全な商会とは言えない。

 ②しかし未登記の商会は、絶対に怪しい組織である。気を付けよう。


 と、そういう認識が一般に広まっているわけで、制度趣旨以外にも一定の意味のある制度言えるわけだ。


「商会登記がされているということは、当主の名前も載っているわけだな? 」


「はい。ウサギ劇団の当主として、デニスという人物の名が記されておりました」


「おいおいおいおい。ちょっと待って、ちょっと待て」


 何でデニスの名が出るんだ……。

 いや、単に同名の人物かもしれない。


「落ち着いてください」


 と、探偵に窘められる。


「すまん」


「それで、登記簿に記されている住所を辿ってデニスの自宅とされる場所へ行ったんですよ。そうしたら、イゴルさんのお仲間たちがおりましてね」


「……そうか」


 なんだよ。結局、俺の認識しているデニスで合っているじゃないか……。

 それにしても、まさかここでデニスとゲルトが繋がるとはな。しかも、その接点は骸骨の模型である。


 もし、スケルトンの異常繁殖にゲルトが絡んでいるなら、それはデニスも絡んでいると推測しても良いかもしれない。


 仮にそうなら、『脱兎の耳』のメンバーが行方不明なのは、スケルトンの異常繁殖に絡んだ話なのだろうか……。


「イゴルさん。もしかして国家憲兵隊は何か掴んでいるのでは? だからデニスの自宅を家宅捜索しているのでは無いですか? 」


 どうだろうか。

 俺の認識では、デニスが俺を襲ったことがきっかけで、国家憲兵隊によって家宅捜査されることになった。


 しかし、あの上司のことだ。

 何を考えているか、全くわからない。もしかしたら、わざとデニスを俺にけしかけた可能性もある。


 それに、市警の動き。このタイミングで、特別予備隊を出動させた理由……。


「そこは判らないが、俺の上司のことだし可能性はある」


「充分気を付けてください。私から言えることは、それだけです」


 探偵は意味深なことを言う。


「ああ」


 探偵はハンターに関する調査から、スケルトンの異常繁殖に繋がり得る情報を得たわけだ。思わぬ副産物と言うべきか……。



 俺なりに情報をまとめてみよう。


 ハンターに雇われていたゲルト。

 彼は、以前にゾラン公国から骸骨の模型の持ち運んでいた。それは、デニスが当主を務める劇団からの発注だったという。


 ゲルトは黒装束姿の連中に連れ去られ、一方のデニスは俺を襲撃し返り討ちに遭い、今は王立騎士団に身柄を拘束されている。

 

 さらに、そのデニスの自宅は国家憲兵隊が捜査中であり、その仲間たちは自宅が放火された挙句に行方不明になっているわけだ。


 もはや、滅茶苦茶だ。

 だが、俺が調査するだけの理由にはなる。


 ハンターの件と、スケルトンの異常繁殖、そして『脱兎の耳』メンバーの失踪。その内、スケルトンの異常繁殖は国家憲兵隊が人手を割いて捜査している。


 ならば俺は、『脱兎の耳』メンバーの失踪についても手を広げてみるか。





 だが、何よりも今夜を乗り切ることだな。


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