第46話 イルザたちの覚悟
俺は、探偵事務所を後にして赴くままに市内をぶらついていた。結局、今夜の対応はどうするか……その道筋を決めることは出来なかったわけである。
探偵のおかげで新たな情報を得られたのは、俺としてはとても嬉しい。
とはいえ、やはり今夜が1つの大きな勝負になるというのに、何も出来ない。このままでは、精々下っ端を捕らえて終わりだ。
何も起きない可能性もあるが、それはどうでも良い。
問題なのは、何か起こった時にどう対応するのかである。
上司と今夜の対応をするにも、彼は不在だ。
「……仕方ない。やっぱりあいつらに手伝ってもらうしかないか」
俺は、ひとまず行き先を決めた。
明確な根拠もないが、仕方ない。向かっている途中で何か閃いたら、その時に目的地を変えれば良いだけの話だ。
※
イゴルと別れたイルザが向かった先は、冒険者ギルドだった。
一旦冒険者ギルドを離れて直ぐに戻ってきた形になるのだが、当然彼女は目的があってここに戻って来たわけである。
イルザは、戻って来るなり周囲を見渡す。
直ぐにロミーナたちを発見し、彼女たちがいるテーブルまで向かう。
ロミーナ以外に、イザークとエリンがいた。
「仕事終わりで申し訳ないのだけど、ちょっと良い? 」
イルザの真剣な眼差しにを見た3人だが、特に反応することは無かった。実際、3人も市警の動きについて話していたからである。
要するに異常事態が発生している以上、のんびりしている場合ではないわけだ。
「はい。ちょうど今夜のことで、2人と話していたところなんです」
と、イザークが答える。
ロミーナとエリンも頷いた。
「そうだったのね。なら、話は早いわ。早速私たちもその対策に努めましょう」
そして、イルザたちは再び応接室へと移動した。
当然、周囲に聞かせられるような話でもないからだ。
「それで副団長。我々は一体何をするのです? 」
イザークがそう訊ねる。
ロミーナたちと今夜のことについて話していたものの、あくまで雑談だったのだ。決して、何か対策を講じるためのものではなかった。
「まず死ぬ覚悟をもつこと。その覚悟がなければ、今夜は乗り切れない」
それほどに危険な流れになっているのだと、イルザは伝えたいのだ。
兄イゴルの行動を見ていれば、判ることだった。
それに、ここにいるメンバーは現に黒装束姿の人物によって、一瞬にして気絶させられている。ハンターに関われば、危険な人物に目を付けられるということを、痛感したばかりだ。
「冒険者なら、当然の話ですが……」
そうロミーナが呟くように、答える。
しかし、微妙なニュアンスの違いを感じ取っていた。
冒険者なら、いつ死んでもおかしくはない。それは冒険者になる際に、嫌でも、くどいように念押しされる話である。しかし今夜の場合は、それが明確になっているということだ。
行動したら直ちに死ぬのだと。
イザークが立ち上がる。
「俺は覚悟を決めています。今夜が戦いなら、俺も戦います。たとえ犬死しようと、動く人間が誰1人いなければ、何も為しえません」
と、イルザに自身の想いを述べた。
彼は友人を亡くした身であり、その無念を晴らしたいという気持ちと、さらに『遊撃騎士団』のメンバーとしての強い誇りがあったからだ。
今の発言は、ただ単に綺麗ごとを言ったわけではない。彼は、自ら進んで目的達成のための駒になることを、志願したのである。
「イザーク……。貴方を慕う人は多いわ。もしかしたら、その多くの人たちを悲しませることになる。それで、良いの? 」
イルザは、そう返す。
「副団長こそ、そこはどうなのですか? 」
「……もし私が死んだら」
そこまで言ったイルザの脳裏には、両親、姉、そして兄イゴルの顔が浮かんだ。
「その時は必要な死だったのだと、家族はそう判断してくれるわ」
と、イルザは言い切った。
それを聞いて、イザークも答える。
「なら俺も、俺の死で悲しむ人たちが殺されないために、戦います! 」
そして、イザークの決意を目の前で見せつけられたロミーナも呼応した。
「私も戦わせてください! イザーク隊長……。いえ、イザークの背中は絶対に守ります! 」
ロミーナは貴族の娘だ。
冒険者としてだけではなく、貴族の一員としての立場もある。
しかし、結局は1人の人間でもあるのだ。誰かを慕うこともあるし、好きになることもあるわけである。それは、一定の年月を一緒に過ごした信頼関係が築かれ、そして直感的な部分も多いことだろう。
そこに、身分の差など関係ないのだ。
大切な人が死を覚悟して戦いに行くなら、傍に立って一緒に戦いたい。それがロミーナの純粋な想いだった。




