第44話 王都ムーク市内の状況
「ロミーナ君。レゲムーク王国の王立騎士団がゾラン公国領内で捜査を行うのは、当然問題になる行為だ。だからと言って、我々に何ができる? レゲムーク王国領内の調査であれば、まだ王立騎士団との繋がりがあるから良いだろう。しかし、ゾラン公国ではそのような繋がりがない。不審な動きをしたことで、捕まるかもしれないだろう。気持ちは判るが、私は反対だ」
支部長は、もっともらしい御託を述べてロミーナの意見を封じ込めようとする。
やはり、当初の思惑からかけ離れているため、話の流れを戻したいのだろう。
「支部長。ゾラン公国は、色々な国のスパイや犯罪集団が集まっています。今さら不審な動きをとったところで、大した問題にはなりませんよ」
と、逆に俺は支部長の御託を封じる。
そもそも、懸念すべきなのはそこに蔓延る犯罪集団や各国のスパイだ。特に各国のスパイに何らかの理由で目を付けられたら、面倒になることは間違いない。
支部長がその点に気づくかどうか……。
「彼の国は……そうだったな」
再び支部長が頭を抱える。
既に、ゾラン公国領内を調査することの必要性を感じているのだろう。しかし、当初からの思惑が彼にはあるはずだ。
「手掛かりが無いなら、空振りになる覚悟でも動くべきだろう。最も、市警に身を置く俺は迂闊にゾラン公国領内に入ることは避けたいが……。だが、あんたら冒険者なら容易に出来るだろう」
と、ここでボブ警部が言う。
捜査が仕事である刑事が言うなら、間違いない。少なくとも、ここにいるメンバーはそう思うはずだ。
最後の一押しに、なっただろうか。
「わかった。ゾラン公国領内の調査を検討することについて、賛成の者は挙手をしてくれ」
支部長がそう言うと、彼を除く全てのメンバー全員が手を挙げた。
それにしても、あくまでも「検討することについて」と聞くあたりが小賢しいな。予防線を貼るのが得意なようだ。
そして、会議は明日に持ち越しとなった。
恐らく支部長の段取りが狂ったからだろう。
支部長は、今日の会議でゾラン公国領内の調査する方向になったことや、王都ムーク市警の特別予備隊が動員される流れになったことについて、王立騎士団に伝えると言った。
王立騎士団ありきであることが、ここからも窺える。
まあ、王立騎士団に任せようとする姿勢に変えたことは、決して間違っては無い。本来は、最初からそうするべきなのだ。
ただ1つ。
昨日との態度の違いに、俺はいささか疑問に感じただけの話である。
※
支部長も引き続き忙しいようで、俺との個別の話は先送りとなった。
さて、冒険者ギルドを出ると、市警の警官たちの姿が目に入る。どうやら、パトロール中のようだ。だが、その数は、はっきり言って異常すぎだ。
「市警……大丈夫かしら」
横にいるイルザが、そう呟くように言う。
「正直言って危険な状況だ。ハンターの規模がどれほどなのか、まだその全容は判らないが、明日になったら警官の死体があちこちで転がっているかもしれない」
可能性は充分に考えられる。
何もハンターそのものが、行動に出るかどうかに限られない。ハンターを追う連中は大勢いる。少なくとも、俺はそう推測しているわけだ。
そうした連中たちには、各々の思惑があるわけで、むしろ市警の警官たちが邪魔になることも考えらる。
現に、黒装束姿や紫色の装束姿の奴らは市警の捜査を妨害した。しかもあの時、俺のことを捜査官と呼んだ。つまり、国家憲兵隊に対しても妨害するつもりなのだろう。
「……なら、ゾラン公国どころじゃないね。この王都を守らないと。そうしないと、滅茶苦茶になっちゃうよ」
そう言うイルザは、いつのまにか家での話し方になっていた。更なる危機感を持って、素になったのだろうか。
「ところでな」
と、俺が言う。
イルザが黙って視線を向ける。
「国家憲兵隊が捜査に乗り出すこととなったよ。さっき上司から命令があってな。まあ、俺1人なんだけど」
「……そうなんだ。でも、兄さん1人で大丈夫? 」
「市井の者たちと協力しろと言われたんだ。だから、今までのスタイルを続けようと思う」
「わかった」
その横で、特別予備隊らしき一団が通り過ぎた。
盾を手にし、そして銃剣付きのマスケット銃を装備している。通常の警官が、サーベルのみを装備していることに比べれば、大した武装だ。
……むしろ、チャンスかもしれない。
言い方は悪いが、市警が餌になってくれれば、それでハンターやその他の連中を誘き寄せることが出来る可能性がある。
実際、こうして市警たちの行動を生で見ていると、ますますそう感じる。
今夜が1つの大きな勝負になるかもしれないな。




