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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第36話 動く模型


 スケルトンは、主に古い墓地で発生する。

 一般的に長い年月を経ることによって、白骨化した死人がスケルトンとして蘇ると言われている。確かに、主な発生源が古い墓地であることを考えると、辻褄は合う。


 しかし、スケルトンはそう言ったもので生まれるわけではないということを、俺は知っている。


「兄さん。スケルトンも一筋縄ではいかないってことくらい、当然知っているよね? 」


「ああ。よく知っているよ。まあ、今回のスケルトンは大したことはないはずだがな」


 あくまでも、大したことがないかもしれないだけ……の話である。現地に行けば判るはずだ。


「……どちらにせよ、私は油断しないつもりだよ」


 と、どこか呆れた表情を浮かべてイルザが言う。

 何を思ったのか判らないが、当然俺だって油断をするつもりはない。


「ここ最近、モンスターの異常繁殖が多い気がするな」


「ええ。直近では、スライムの異常繁殖もあった。でも、モンスターの異常繁殖は時々起こるものよ」


「だが、今回目的となっているスケルトンの主な発生源は古い墓地だろう? それなのに異常繁殖というのは、少々おかしい気がする」


 と、俺は疑問を呈する。

 あくまでも≪長い年月を経ることによって、白骨化した死人がスケルトンとして蘇る≫という一般論を前提にしての話だが……。


「古い墓地が主な発生源というだけで、例外はいくらでもあるでしょ。墓地に埋葬されずに遺棄されたとか、あとは野垂れ死になった人もいるはずだし……」


「なるほど」


 確かにイルザの説明も的を得ているように見える。

 だが、仮に野垂れ死にや遺棄された死体だとしても、結局のところ異常繁殖という事態のついての説明にはならない。


「でも、異常繁殖ということは……」


 イルザも色々と考えているようだ。妙な違和感は感じているのだろう。


「少しは、≪長い年月を経ることによって、白骨化した死人がスケルトンとして蘇る≫という前提に批判的になってみたらどうだ? 視点を変えれば、色々と見えてくるものもあるだろう」


「……」


 イルザがじっと俺を見つめる。

 決して愛らしい表情ではなく、何かを勘ぐろうとするものだ。


「おかしなことを言ったか? 」


「いえ。とにかく、今すべきことは異常繁殖したスケルトンを減らすこと。目下の問題に集中するとしましょう」


 そして俺とイルザは、地図を見ながら異常繁殖した地点へと向かった。

 


 王都ムーク市から、さほど離れていない野原にスケルトンの大群が蠢いていた。既に多くの冒険者たちがスケルトンの討伐を行っている。


 既に、戦場と化していた。

 実力不足の者たちも多く討伐にやって来たからであろう。そのために、かなりの数の冒険者たちが血を流し、手当てを受けている。


 そして何よりも、スケルトンの数が異常だった。≪異常繁殖≫という言葉でイメージする以上に、想定外に数が多いのだ。


 この前の、スライム増殖をはるかに超えている。うごめくスケルトン。この気分を害する白い模様はどこまで続くのだろうか。


「ちょっと、これは想定外だ」

「……私も同感よ」


 俺とイルザは、しばし眼前の光景を見続けた。


「ねえ」


 不意に、イルザが言う。


「何だ? 」


 そう訊き返す。

 イルザは、スケルトンのことについて何か勘づいたのかもしれない。

 

「戦いを見ていると、スケルトンが通常よりも弱体化している気がするの。さっき兄さん、今回のスケルトンは大したことは無いって言ってたよね? 」


「まあな」


「知っていることを教えて。それとも、お仕事・・・の関係で言えない? 」


 嫌みな奴だ。


「……少なくとも、今回騒ぎになっているスケルトンが、通常のスケルトンよりも弱体化していると推定できる程度・・・・・・の情報は事前に得ていた」


 推定できる程度の情報、というのが肝だ。

 

「なら、1つ言えることがある。もし兄さんの推測が当っているなら、国家憲兵隊は知っていて動かないわけね」


「……あまり言わないでくれ」


「民を守るのではなく、民を抑圧するための組織と言われても仕方ないわよね? 」


 やけに挑発的だ。

 まあ、国家憲兵隊に対する評価が悪いから仕方のないことなのだろう。


「役割分担だよ。いくら情報があるからと言って、そのすべてにリソースを費やしていれば、何1つ達成できないことだってある」


 まあ、俺個人の場合はその逆を行っている気がするが……。


「それが余計な方向にだけ向いていなければ良いけど……。ところで、兄さんは推定できる程度の情報と言っていたけど、詳細な情報は得てないということ? 」


「ああ。ちょっとしたトラブルに付き合わされた時にチラッと聞いただけだ」


 ミズロン村へ向けて出発する日の朝、喫茶店でのことである。

 上司は、シェヌロカの町で拘束していた男が脱走したと言っていた。その男は魔物を操る魔法を習得した他、その自宅には数多くの骸骨の模型があったという。


 ただ、魔力自体は大したことはないらしい……と。


「知っている範囲で良いから、教えて。それとも機密情報なの? 」


「そうだな……」


 あまり、ペラペラと話さない方が良い。

 だがイルザにもある程度のことは、教えてあげなければ良い関係は保てないだろう。


「実は今回、個人的に確かめたいことがあってな。スケルトンを触ってみたいんだ」


「……どういうこと? 」


「まあ、付いて来い」


 俺は、イルザと共に移動した。多くの負傷者を出しながらも、冒険者たちは今のところ優勢のようだ。やはり、通常のスケルトンよりも弱いからだろう。


 そして、テキトウにスケルトンの亡骸を手に取った。

 俺の予想は呆気なく、当たってしまった。


 これは骸骨の模型だ。つまり、シェヌロカの町で拘束されていた男が関与している可能性がある。


「既に多くの冒険者も気づいているかもしれないが、これは模型だな」


「ええ。……なるほど。兄さんが≪長い年月を経ることによって、白骨化した死人がスケルトンとして蘇る≫という前提に疑問を持っていた理由が、これで判ったわ」


「ああ。目の前のスケルトンたちは模型だ。この時点で死人が蘇るという前提が崩れることになるわけだな」


 一先ずイルザは納得した様子だ。


「つまり人為的ってこと? 」


「模型である以上、そうとしか考えられないな」


 強さの問題を抜きにすれば、魔力を吹き込んで数を増やすことくらいは大した魔力がなくてもできる。だがそれにしても、これだけ模型を1人で集めるには無理があるだろう。

 

 何らかの組織が動いているのだろうか……。


 ハンターの件に、そしてこの眼前の問題。

 どちらも日常的に起こり得る事件とは、かけ離れている。


 この王国は、一体どうしてしまったのだろうか。


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