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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第35話 兄を出し抜く妹


 イゴルとイルザが冒険者ギルドへ出かける数時間前。


 まだ日の出前という時間帯に、イルザはとある貴族の別宅にやって来ていた。その貴族の名は、アストリー伯爵である。


「イルザ副団長。お待ちしておりました」


 そう言って、玄関で出迎えたのはロミーナだった。

 現アストリー伯爵の娘であるロミーナにとって、ここは自宅なわけである。そして当然、『乙女隊』のリーダを務めているエリンの自宅にもなる。


「ロミーナ、朝早くから本当にからごめんなさい」


「いえ、流石は副団長だと思っていたところです。あのデニスの身柄が、今は王立騎士団にあるというのは、副団長の働きがあってのことだと姉セレーナが申しています」


 実際イルザは自身の姉を通して、王立騎士団にデニスの身柄を拘束するよう要請しているので、ロミーナの言うことは間違ってない。


「セレーナさんは、私の姉と同期だったわね」


 イルザの姉と、ロミーナの姉であるセレーナは共に王立騎士団に所属しており、同期なのだ。

 そして、セレーナとイルザ自身も何度か会っている仲である。


「はい! 姉妹同士で交流があるなんて、こんな偶然もあるのですね」


 ロミーナは満面の笑みを浮かべつつ、イルザを応接間に案内する。

 

 そしてイルザが応接間にやって来ると、王立騎士団の正装姿で1人の女性がソファに座っていた。


「ごきげんよう。イルザさん」


 その女性は、イルザの姿を見るなり立ち上がりそう挨拶をした。

 続けて、イルザも挨拶をする。


 それから軽い雑談を挟んだ後、本題に入った。


「現在、B級冒険者デニスの身柄は王立騎士団にあります」


 そうセレーナが言うと、イルザは安堵の表情を浮かべた。一先ずの懸念は、これで払拭できたからだ。


「それは良かったです。ご協力、誠に感謝いたします」


 と、イルザは率直に言う。


「とはいえ、本来、冒険者同士の揉め事は冒険者ギルド内で解決すべきという、実務上の慣習があります。ですから、王立騎士団としてはデニスの身柄は冒険者ギルドへ移送する予定……でした」


 セレーナの歯切れの悪い発言は、不都合が生じたことを示すものだった。


「何かあったのですか? 」


 そう訊ねるイルザにも、心当たりはある。


「今回デニスを拘束するに当って、国家憲兵隊と、ひと悶着あったとの報告を受けているのです」


「……国家憲兵隊ですか。色々と邪魔が入っているようですね」


 と、言うイルザだったが、兄イゴルが国家憲兵隊に所属しているという事実を最近知ったわけだ。


 そこから考えれば、容易に想像できる話である。


「はい。ですので、今回の問題に関しては、王太子殿下も懸念されております」


 国家憲兵隊の介入で、それだけ王宮は大騒ぎになっているのだとセレーナは言いたいのだ。


「既に、だ……王太子殿下のお耳に入っているのですか……。……本来、冒険者ギルド内で解決すべき事件でした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。王太子殿下にも、そうお伝えくださいますと幸いです」


「いえ。イルザさんの機転に、殿下も喜んでいるご様子でしたよ。あの場に駆けつけたのが王立騎士団だったからこそ、国家憲兵隊を黙らせることが出来たのですから」


「……それは結果論です。私は国家憲兵隊がやって来ると思って、姉に連絡したわけではなかったわけですし」


「そこまで気にしなくてもよろしいのでは? それで……本題に戻りますが、国家憲兵隊が介入しようとしている以上、今後も王立騎士団でデニスの身柄を拘束するという形でよろしいですね? 尚、殿下も納得されております」


 イルザとしても、デニスの身柄を引き続き王立騎士団が預かることに異議はない。

 また王太子が納得している以上、余程のことがない限りイルザは反対できる立場にないのだ。


「殿下が納得されてるなら、私個人……そして『遊撃騎士団』の副団長としても、異論はありません。アレクサンダー支部長にもこのことは伝えておきます」


「ありがとうございます。……ところでデニスについてなのですが、イゴルさんとのことについて、今のところ何も口を割りません」


「いずれは口を割るのでは? 」


 どんな被疑者であっても一部の度を超えた者以外は、長い取調べによって自白する。イルザは経験則からそう言った。


「時間が惜しいのです」

 

 しかし今回は、国家憲兵隊が介入しようとしている状況なのだ。


「既にデニス宅の捜査は行ってるのですか? 」


「いえ。強引な手段を取れば、私たちがデニス宅を行うことは可能ですが……」


 歯切れの悪いセレーナを見て、イルザは決めた。

 デニスの件で兄イゴルを出し抜こうと。


 兄妹愛があろうとも、国家憲兵隊を警戒している以上は仕方ないわけである。


「わかりました。現時点では大した情報もありませんが、私も直接調べてみることにします」


「ご協力感謝いたします。何かあれば、お互いに情報共有することにいたしましょう」


「はい」



 それから、イルザはアストリー家別宅を後にした。今から帰れば、時間的には一睡はできるので、イルザの足取りはそれなりに早い。


 だが、そんなイルザの前に、一番警戒していた相手が突如として現れたのである。黒装束姿の人物だった。


「っ!? 」

 

 イルザは身構える。

 だが、予想に反して黒装束姿の人物は両手を挙げ戦闘の意思がないことを示す。足元には袋が置いてあった。


「……イルザ。キミの頑張りに免じて、1つプレゼントをくれてやろう。もし、勘の良い兄にこっそりと近づく時は、是非これを使うんだな」


 黒装束姿の人物はそう言うと、足元に置いてあった袋をそのままにしたまま、素早く去ったのである。

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