第34話 スケルトンの異常繁殖
翌日。
俺は、イルザと共に冒険者ギルドにやって来た。
そのためか、ギルド内ではざわめきが起こっている。俺のような奴がS級冒険者であるイルザと一緒にいることが、とても奇妙に映るのだろう。
だが、俺とイルザは兄妹だ。
たまには、兄妹で一緒に行動していても問題は無いはずである。……と、大声で言ってやりたいものだ。
「見ろよ。イゴルのあの顔。なんか緊張しているよな」
「一晩中、イルザさんに怒られたんだろう。イルザさん、なんか眠そうなだしな。ホント、イゴルって邪魔だよな」
「間違いないな! 」
全く気楽なものだ。
「貴方の評価、とても低いわね」
と、イルザがまるで他人事のように言う。
そっちがその気なら、俺も嫌味を込めて言ってやろうか。
「S級冒険者であるイルザ様のご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません」
「気持ち悪いから止めてくれる? 」
ダメだこりゃ。
「……すまん」
俺は素直に謝った。
結局、今日の夕方に昨日の面々で集まることになった。
どうやら副支部長とデニスが汚職を働いたということで 支部長やイザークたちがその処理のため日中は忙しいらしい。ボブ警部も、市警本部長から呼び出しを受けているため、直ぐに来れない状況とのことだ。
デニスに関しては、昨日俺を襲撃したわけである。今は、国家憲兵隊が拘束しているはずだ。時間があるときにでも、様子を見に行くとしよう。
「調査方針が決まるまでジットしているのも時間の無駄だし、依頼を受けるとしましょう」
イルザにそう促され、掲示板のある場所まで移動する。ちょうどユウとミヤビの2人組が掲示板を眺めているところだった。
「おはよう」
俺は2人に、そう声をかける。
「よう! イゴルか。……ってイルザさんも一緒なのか? 」
イルザの姿を見たユウは、ひどく驚いている様子だ。ミヤビも同様である。それと同時に、2人とも目にクマができているようだった。あまり寝ていないのだろうか。
「色々あってな」
「……色々って、お前まさか!? 」
どうやらユウは、あらぬ想像をしているようだ。これは直ちに是正してやらなければならない。
「あのな……」
「ユウさん。イゴルは私の兄です。いつも兄の面倒を見てくれて、とても感謝しております」
と、言いかけた俺を差し置いてイルザがそう紹介した。
すると、ユウが顔を真っ赤にして、口をパクパクさせる。
「え、え……えええええええっっっ!? 」
ユウの絶叫が、ギルド内で木霊した。
それから少し経ち、ユウは顔を真っ赤にしてうずくまった。それをミヤビがジト目で見ている。相変わらず目のクマが目立つ。
「す、すまん」
と、恥ずかしそうにユウは謝る。
「それよりも、2人とも目にクマが出来ているぞ? 」
「ああ。近所で火事があってな。それで大騒ぎになって、それから寝ていないんだよ」
「アタシたち、消火活動とかも手伝ったから、ちょっと疲れているんだよね。だからと言って、何もしないのも暇だしさ」
そう言えば、今日の朝刊に王都ムーク市内で複数の火事があったという記事があったような気がする。
「なら、今日は簡単な依頼だけ受けて、早めに休んだほうが良いんじゃないか? 」
「そうだね……。あっ。ユウ、この依頼とかどう? 」
ミヤビはそう言うと、1枚の依頼票を手にした。
「なんだこれ。ボワド市支部で臨時の常駐を募集ってか。人が足らなくなって困っているようだな」
ミヤビから手渡された依頼票を見て、ユウがそう言った。
一方で、イルザが一瞬だけ眉間にシワを寄せた。『遊撃騎士団』の副団長という立場にあるからか、何か詳しい事情でも知っているのだろうか。
「等級も関係ないみたいだし、そろそろ王都近辺以外でも活動したかったし良いじゃない」
「そうだな。ってわけでイゴル。しばらく、王都を離れるから、そのつもりでな」
「そうか。なら、気をつけてな」
ユウたちと別れた俺とイルザは、一旦腰を落ち着かせた。
突然、妙に態度を変えたイルザも気になるが、それよりも冒険者ギルド内の様子が普段とは違っているのだ。
それは、ユウの絶叫があったからだとか、王都ムーク市内で複数の火事があったからではない。
「みんなスケルトン討伐に熱心のようだな? 」
「異常繁殖したことで、ギルドの大判振る舞いが始まったようね。流石は支部長。副支部長と違って、仕事が早いわ」
「要するに王宮からカネが入ったということか」
何か問題が生じた際にレゲムークの王宮が、冒険者ギルドに資金を提供することはよくある話だ。例えば、先日のミズロン村の復旧活動についても、王宮から資金提供があったはずである。
「まあ、そういうことよ」
「……個人的にスケルトン共の様子を見てみたい。引き受けても良いか? 」
厳密に言えば、スケルトンを触ってみたいのだ。
「とくにやることも見つからないし、良いわよ。私も付き合うわ」
そして、俺たちは束になっている依頼票を1枚取り、受付に持って行った。
「イゴルさん……今日は、えっ、スケルトンの討伐!? いい加減にしてください。私、本当にイゴルさんが心配です! 」
昨日までと打って変わり、いつも通りの態度を示すヒルダだった。冒険者たちの視線が俺に刺さる。
「何が心配なんだ? 」
いたずら好きな俺は、そうヒルダに訊ねる。
「あのですね……そもそもスケルトン討伐はC級冒険者が同行する必要があります」
「いや、そう言われてもこっちの連れが、どうしてもスケルトンを討伐したいみたいなんだよ。条件は充たしているはずだ。ハンコを押してくれ」
俺はそう言って、後ろに立っていたイルザを俺の連れとして紹介する。
イルザは「何言ってんのお前」と言わんばかりに鋭い視線を向けているが、一方でヒルダの反応は面白いものだった。
「イルザさん……ですよね? ……確か兄妹関係にあると支部長から念押しで言われていた気が……」
ヒルダは、そう言ってイルザを見つめる。
「も、もしかして今回イゴルさんは、イルザさんと一緒に活動を? 」
「ああ。何か問題か? たまには兄妹で活動しても良いだろう。まあ、とにかくハンコを押してくれ」
俺がそう言うと、ヒルダはムッとした表情を浮かべて依頼票にハンコを押す。
その様子を見てか、イルザが俺の足を軽く蹴った。
「いつもそんな態度なの? 謝りなさい」
と、言う。
「ご、ごめんなさい」
反論しようという気持ちがあったが、俺は何故か無意識でヒルダにそう謝った。
「い、いや私こそ申し訳ございません。馴れ馴れしくお兄様と話してしまって」
ヒルダは、イルザに視線を向けてそう謝った。
わかりきっていることとは言え、俺とイルザに対する態度が違い違い過ぎるだろう。イルザに畏まり過ぎだ。
「ヒルダさん。いつも兄がご迷惑をおかけしているようですね。改めて、きつく叱っておきます。本当にごめんなさい」
ともあれ、俺とイルザはスケルトン討伐に向かうことになった。




