第32話 反省会と新たな手がかり
数時間が経過した。
その間に、電話で上司に報告を済ませている。さっきの件でか、上司も市警本部長らと緊急で会談をすることになったらしい。
そして今俺たちは冒険者ギルドの応接室で、反省会のようなものを開いている真っ最中だった。イルザたちは、黒装束姿の人物によって一瞬の内に気絶させれて、つい先ほど目が覚めたばかりである。
「あの黒装束姿の人物がハンターだとすれば、我々は黙って冒険者が殺されていくのを見ることしかできない」
そう、支部長が疲れ切った表情を浮かべながら言った。
「支部長。ここはつまらぬプライドを捨てて、王立騎士団に捜査を任せるべきかと。私も団長からこの遊撃騎士団を任された身でありながら、とても悔しいですが……」
と、イルザが意見した。
「イルザ君。もし王立騎士団に捜査を任せたなら、犠牲者は多大なものになるかもしれない。それは以前から予想していたことだ。だから我々が、今まで内密に調査をしていたのではないか。既に、そこのイゴル君が騒いだせいで市警が捜査に乗り出してしまったがな」
「しかし! 」
イルザは食い下がる。
ここで、俺が口を開いた。
「支部長。俺が思うに、黒装束姿の人物はハンターではない可能性も十分考えられますね」
「どうしてそう思うんだ? 」
今まで、ハンターに関して調査をしてきた者の多くが殺されたという。
とろこが、黒装束姿の人物は俺たちを殺すことは無かったのだ。しかもご丁寧に、手を引けという忠告までしてきた始末である。
これは、紫色の装束姿の人物についても同様だ。
「それは、俺たちが今こうして生きているからですよ」
俺がそう言うと、支部長は納得した表情を見せた。
「なるほど。確かに、今までハンターに関して調査をしてきた者たちの多くが殺されている。しかし、我々は生還したわけだ。何故あの2人は我々を殺さなかったのか……そこが気になるということだな」
あの2人の実力なら、数の上では勝っていた俺たちを皆殺しにすることもできたはずである。
「その通りです。しかも2人の実力はとんでもないものでした。我々を殺すことは容易だったはずですよ」
そう考えると、やはりあの2人はハンターとは別の『何か(・・)』である可能性があるように思えるわけだ。
「兄さんは、どう考えているわけ? 」
「まだ考えは纏まっていない。ただ、どうしてゲルトを攫ったのが気になる。しかも、黒装束姿の人物と紫色の装束姿の人物は、ゲルトの身柄を巡って対立関係にあるかのような発言もしていた。つまり、黒装束姿の人物と紫色の装束姿の人物は仲間同士ではない可能性もあるわけだ」
まず、ゲルトを攫った目的だ。
口封じのために殺すなら、俺たちの目の前で殺しても目的は達せられる。しかし、わざわざ攫ったのだ。
そして、黒装束姿の人物と紫色の装束姿の人物は、ゲルトの身柄を巡って互いに対立しているかのように思える。
紫色の装束姿の人物が「ゲルト・マクンは貰って行く。そっちの男の手に渡るのは面倒だからね」と言ったことが、妙に引っかかるのだ。
「要するに、ハンターに目を付けている連中は、意外に多かったのかもしれないな。もちろん、それは表・裏を問わずだ」
と、ボブ警部が言う。
俺も同感だ。
「ああ。ハンターについては、冒険者ギルド内では公然の噂になっているくらいだ。少なくとも、ハンターという話は多くの者に広まっているわけだし、目を付けられても当然なのだろう」
だが俺はつい最近まで、その話を全く知らなかったわけだ。本当に間抜けだとしか思えない。
「ところでボブ警部」
「何です? 支部長殿」
「市警は、今後も動くのかね? 」
まあ支部長としては、今後の市警の動きはどうしても気になることだろう。
「それは市警の上層部が決めることで、俺が判断するわけじゃないので判りませんね。ただ、今回の一件で市警は本気になる可能性もあると思いますよ」
「市警の能力で、何とかなるとは思えん。警官の死体で王都が溢れることになりそうだからね。市警が捜査に乗り出すくらいなら、まだイルザ君の言うとおり王立騎士団に捜査を任せた方がマシだ」
犠牲者を出したくないとするスタンスに重きを置く支部長にとっては、市警よりも戦闘能力がある王立騎士団に任せた方がマシとなるのだろう。
「俺にそんなことを言われても困りますよ」
「確かにそうだな。……イゴル君! 今回の事態を引き起こしたのは、キミのせいでもあるだろう? 探偵にハンターに関する調査を依頼して、集めた情報を市警に伝えた。それで市警が動き、今日のようなことになったんだ」
何を言っているのか。
まあ、俺に責任を擦り付けたいのかもしれない。ならば、俺も言わせてもらうとしよう。
「支部長。貴方のその消極的な態度も問題に思えますよ? 」
責任を擦り付け合うことはあまりしたくないが、ここは売り言葉に買い言葉で応じることにした。落としどころとしては、「ただ残念だった」とか「皆の責任」というような結論に至らせるためだ。
それに、市警に捜査を依頼したのは俺ではない。
「キミの無計画さ、そしてその場の思い付きによる行動こそ問題だ」
確かに、俺の行動には計画性が無いかもしれない。闇雲に行動していると批判されても仕方ないないだろう。
だが、俺はそう言った行動で生き残ったという過去がある。
残念なことに、それしか取り柄が無いのだ。
「ハンターの調査に関しては、俺なりに計画していたことがありました。しかし、つい最近急展開を迎えたわけでして、それで色々と行動することになったのです。ですので、全くの無計画というわけではありません」
俺はオーガスト惨殺事件の手掛かりを手に入れるために、ある1つの行動を取ろうとしていた。その時は、一切手がかりが無かったために、地道に調査するよりかは、そちらの方が手っ取り早いと思える行動と思ったのだ。
だから単純ではあるものの、計画はあった。
しかし、エリンからハンターに関する話を聞いて今に至るわけである。まあ、中途半端に手掛かりを得て舞い上がったのは痛かったな。
「急展開だと? 一体何があったんだ」
「……支部長もご存知の通り、ハンターに関しての調査を探偵に依頼していました。それで、その探偵からもたらされた情報が、俺をやる気にさせたわけです。今まで何の手掛かりも見せなかったハンター。その一端が判ったのですから」
「要は、ゲルトに関する情報だろ? お前も奴の逮捕に血眼だったからな」
と、ボブ警部が言う。
タイミングよく、助け舟を出してくれたようだ。
「ああ。実行犯の1人が判明して、勢い余ってしまったんだ。やっぱり、俺が軽率過ぎたのかもしれない。……支部長、申し訳ありません」
俺はそう言って、深々と頭を下げた。
すると、今まで黙っていたイザークが立ちあがった。
「イゴル・ボルスト。お前の行動は確かに軽率が過ぎる。だが、とても積極的に動いている姿を見て、俺は希望を持つことができた」
そこまで言うと、イザークは支部長のほうを向く。
「今回の件は、俺たちの能力不足も原因でもあります。そもそも、ゲルト一行の連行には十数名の警官や、俺たちも同行していました。決して、無謀だったわけではないと思います。相手が想定外過ぎただけでしょう」
どうやら、俺を擁護してくれたようだ。
彼もまた、大切な友人を失った立場だ。少しでも、有力な手掛かりを欲していたに違いない。そういう意味では俺と似ている。
「……」
一方のロミーナは俺に視線を向けるだけで、何の反応も示さなかった。
やはり、全ての者に俺の行動が歓迎されているわけではないわけだ。むしろ事態を悪化させた元凶だと思われているかもしれない。
彼らの段取りなど、一切無視したわけだからな。
「確かに、イゴル君の行動によって実行犯の1人が判明したのは大きいね。我々が辿り着けなかった部分に、キミが至らしめたわけだから。それは認める。だが、1つの結果に対する代償の有無、仮に有ったとしてその程度はどれほどのものなのか……。私はいつもそれを考えているんだ」
気持ちは判らなくもない。
だが、せめて王立騎士団に報告することくらいはするだろう。王立騎士団の騎士が何人死のうが、それは支部長の責任ではないわけだ。
むしろ、自身が担当すべき冒険者を多く見殺しにしている。
さて、個人的には文句を言い続けたいが、一先ず話を終らせておくか。
「申し訳ございません」
俺はそう言って、頭を下げた。
「今さらキミを止めるつもりはない。むしろ責任をとってもらう。調査してハンターの関わる事件を解決しなさい。ただし、一定の制限は設けさせてもらうから、そのつもりでいてくれ」
「わかりました」
「まだ話は進んでいないが、今日はもう遅い。ここまでにしよう。後日、今後の調査に関して今ここにいるメンバー全員で話し合いたい。それで良いかな? 」
支部長がそう言うと、全員が頷いた。
「あとイゴル君。キミには別途話がある。時間があるときに、話をしたい。そのつもりでいてくれ」
こうして、反省会的な話し合いは終わったのであった。
※
それから俺は、探偵の事務所へと立ち寄った。
あの後、直ぐに公衆電話を使って連絡はしていたのだが、こうして実際に探偵の姿を確認できたので一先ずは安心だ。
俺がわざわざこの時間にやって来たのは、探偵の無事を確かめたかったからだ。
「イゴルさん。新たな情報を手に入れました」
「……そ、そうか」
身の危険を微塵も感じていないのか、探偵はいつも通りの装いだ。流石は探偵と言ったところか。
それどころか、この間にも新たな情報を得るなんてな……。
「ここ最近、ゲルトはチンピラを引き連れてゾラン公国へ行っていたようです」
「ゾラン公国? 」
ゾラン公国は、あまり治安の良い国ではない。そのため、色々な国のスパイが蔓延っている。そして、同時に大小さまざまな犯罪集団も、彼の国に集まっているのだ。
それを前提に考えれば、ゲルトがゾラン公国へ行くこと自体は不自然ではない。犯罪集団同士で、何かしらの取引でもしたのだろう。
問題は、その取引が一体どういうものなのかだ。
「ゲルト一行は、ゾラン公国で何かしらの物品を大量に購入している形跡があるのです。行きは手ぶら同然だった一行が、帰ってきたときには荷馬車の行列を引き連れてやって来たそうですから。まあ、目撃者がいたのですが、それとは別に、王都ムーク市の交通管理局の記録に、そのことが記されておりました」
そう言って、探偵は1枚の用紙を手渡してきた。
どうやら、記録を複写したもののようだ。
「交通管理局の担当者は、物品の中身は確認していないのか? 」
「イゴルさん。物品の確認は、関所の仕事です。市役所のお仕事ではありませんよ。市の交通管理局の仕事は、王都ムーク市内を走る馬車をコントロールすることです。多くの荷馬車を引く時は、事前に交通管理局に申請するよう、条例で定まっておりましてね。ですから、大規模な商会などは、よくこの申請をするみたいです」
まあ、王都内の交通量のコントロールも重要だな。もし違反すれば、何かしらの罰則があるのだろう。そうなると、許可証の類が発行されるのかもしれない。
「そうだったか」
なら、関所へ行けば中身も判るかもしれない。
「その物品を使って、一体何をしようと企んでいたのか……。今後はそれも追ってみます。もちろんハンターから反れることの無いよう努めますし、黒装束姿の集団や紫色の装束姿の集団についても、可能な限り情報を収集してみます」
「ああ。身の安全を第一に、よろしく頼む」




